第22話:救済の神には善意がない②
第22話です。とりあえず第4章が終わるまではストップせずにいきたいところです。
議論は、思っていたよりも早く収束した。これ以上おかしな方向に場が進まぬように、双方が妥協し、細かい点については後日話し合うことになったのである。
芹たちは代表たちが去った会場の片付けを終えると、そのまま支部へと帰還した。
「せっかくだから、僕も支部に連れてってよ」
「なぜですか?」
「『せっかくだから』って言ってるだろ」
「そうですか。勝手にしてください」
支部には女郎花もついてきた。彼は、あれほどの悪業を晒したとは思えないほどに上機嫌であった。
「あなたはこの部屋でしばらく、くつろいでいてください」
「あらら、閉じ込められちゃったか」
しかし、上機嫌とは程遠い芹は女郎花を会議室に閉じ込めた。閉じ込めた、とは言ってもあくまで鍵をかけただけだが。
「……さて、戦争はこれで一旦は停止するでしょう。それから、色々と詰めていけば良い」
「芹、疲れているのですか?」
「おや?どういう意味ですか、『友人』」
「いつもの貴方らしくないですよ。今日は随分と考えたようじゃないですか」
「……そうですね。そうかもしれません。まぁ、疲れる、というわけではないですが」
芹は珈琲を手に取り、それを一気に飲み干した。
「……私は、やはり人の心を理解できない。そのせいで、救おうと思っても本当の意味で救うことができているのか確かめる術がない」
芹はボソッと呟いた。その声は彼にしては細く小さなものだった。
「これほど多くの人間と関わることはあまりないですから、この機会にまずは人たちに方向を定めることを任せてみようと画策してみましたが……それが効果があったのか、むしろ逆効果だったのかすらも分からなかった。残念なことです」
「そうですか。まぁ、しかし、今回はそこそこうまくいったのではないですか。急に桔梗から無茶振りをされたにしては。……強いて言えば、玉川という女性の扱いだけは悩むものかもしれませんがね」
***
私たちがこの世界に来てから早くも1か月が経った。
世界情勢はこの1か月で一変し、すべての戦闘は停止された。
しかし、人々の間にはなんとも言えない、割り切れないような感情が漂っていたことは間違いない。
「一応これでひとまず安心でしょうかね」
人類側とビオラ族は、停戦協定を結んだ。そして双方の視野には戦争の終結があった。
「流石だね最高神。見事」
「桔梗さん、結局、送った資料は読みましたか?」
「あ、はい。流石に読みました」
支部には桔梗がやってきていた。彼女が様子を見にうろうろとしていたところを芹が捕獲したのである。
芹が少し圧をかけると、桔梗は急に丁寧に話し始めた。
「それで、ビオラ族の件ですが」
「あ、はい!それですね!私は問題ないと思っています!」
「普通に喋ってください」
「怖いよ最高神」
少しふざけたように装っているが、実際のところ桔梗は普通は感じるはずのない『死の恐怖』を感じながら芹と話していた。
「では、ビオラ族が『赤の星からのみエネルギーを得ることができる』という世界のルールを削除してしまって問題ありませんね?」
「あ……うん。いいよ、別に」
「そうですか。ああ、それと。そんなにこだわりがあるわけではなさそうですが、ではなぜ、ビオラ族をそのようにして創ったのです?」
「えー?あー、それは……。なんとなく、1つ1つ特徴があった方が面白いかなって。生命が多すぎるし、この世界」
「面白い?そうですか」
芹は少しだけ何か考えているようだった。
「……まぁ、良いです。貴女の許可も出ましたから、これからは双方の要望に応えていくとしましょう」
「頑張って、最高神」
「そうさせていただきます」
桔梗は会話が終わると同時に逃げるように支部を去っていった。どうやら彼女は芹のことを本当に怖がっているらしい。
しかし芹はそんなことを気にすることはなく、私と田平子と会議を始めた。
「そういえば、芹。あの厄介な神はどうするのですか?もう長いこと会議室にやつを閉じ込めたままでしょう」
「ああ、そういえばそうでしたか」
「忘れていたのですか?」
「あまり気にかけていませんでした。私たちが何かやらなくとも、彼は勝手に何かやるでしょうから」
芹の言葉から、私は諦めのような感覚を受け取った。
「しかし、そろそろ何か仕掛けてくるかもしれません」
「それは……」
私が言い終える前に、少しだけ建物が揺れるような感覚がした。この星には地震は存在していないはずで、異常事態であることは明確だった。
「外に出てみましょうか」
「ええ」
私たち3人は病院のエントランスから堂々と外へ出た。
「……あれは」
「思っていたよりも早かったですね」
「芹様、殺しますか?」
「いえ、大丈夫ですよ」
「──殺すなんて物騒だな。こっちは漸く準備が終わったんだから、少しくらい相手してくれないかい?」
星の空には、ひらひらと服を靡かせて宙に浮く女郎花の姿があった。
彼はゆっくりと、芹たちがいる地上へと降りてくる。その姿は神そのものであった。
「さぁ、始めよう。今夜の僕の悪意をね」
―第22話 完―
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