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世界の管理者は人間の生を追求する  作者: 水坂鍵
第4章: 学校と戦争と宗教と
72/104

第21話:救済の神には善意がない①

第21話です。


「……あ!」


 玉川は、何か思い当たったように立ち上がった。

 そして、ズボンに入れておいた彼女の電子端末を取り出した。


「……玉川?」

 男は彼女の様子が変わったのを見て心配になった。 そのため声をかけようと玉川に近づいた。


「こないで!!!!」

「!?」


 気づけば、彼女の手には電子端末が握られていた。それも、そのモニターに『武器変化モード』と表示されたものを。

 この瞬間に、男は玉川が何をやろうとしているのか理解した。


「やめろ!玉川、落ち着け!!」

「隊長!私はもう、私じゃないんです」


 電子端末は、小さめの槍のような形になった。槍として普通に使うには不十分であるが、彼女にとってはむしろ好都合だったと言える。


「私が全ての原因!私は正義だった!でも今の私には正義がない!」

「何を言っているんだお前は、落ち着け!」

「私は償わなければならない」

「何を」


「──さぁ、皆さん。ご注目ください。この子は、悪意に支配され、それを自身の正義として争いを起こさせた張本人です。彼女からは、もはや正義は消え去った。彼女はこれから、皆さんに謝罪し、罪を償い、皆さんの平和のために死ぬのです!」


「貴様、何を言って……っ!?」

 男が女郎花(おみなえし)を止めようとするが、逆に男のことを周りにいた部下たちが円になるように止めてしまった。

「お前ら……」

「玉川を犠牲にすれば、私たちは筋を通したことになりませんか?」

「は?お前ら正気か!?」

「隊長こそ、冷静になってください。彼女は悪人です。彼女が罪を償うことで、私たちは未来への道を開くことができるかもしれません」

「……未来への……道だと?」


「あはは!さようなら、皆さん!私は死にます!」

 玉川は、目をギラギラとさせ、少し涎のようなものを垂らし、大声で叫んだ。大勢の人間には、それが正気であるとは思えなかったが、不思議と止めようとする者は現れない。

 彼女は1人だった。


「…………あ、ああ!」

「……っやめろ!」

 男の声は玉川には届かない。

 玉川は手に持った小さな槍を自身の頭の上に掲げた。

「……くそっ」

 隊長である男のみが唯一彼女を止めようとするが、他の男たちに体を拘束されて身動きが取れない。その間にも、最悪の事態へとカウントダウンが始まっていた。


「……さようなら、みなさん!」

 無理やり作ったような笑顔を浮かべ、よく見ると少し震えている手を無理やり動かして、彼女は槍の先を自身の頭に沿わせる。

「………ぁ……ぁぁ」

 恐怖の感情が彼女の半径1mほどに漂った。彼女は少し怯みそうになるが、思考ができなくなった彼女の脳が、自らの『死』を選択した。


「やめろ!!」

 男の声は最後まで空気中を漂っていた。

 壇上には明るく輝く赤い色の液体が、まるで画家が花の絵を描いたようにいきいきと表現されていた。

 彼女は、女郎花(おみなえし)に見つめられながらその人生を終えたのである。



「……うーん。なるほどね。まぁ、彼女らしいか。もっと盛り上げてくれた方が良かったんだけど、まぁ良いや。色々楽しんだしね。じゃ、君たちにはもう直接どうこうすることはないかな。無意味な戦争をしているのも面白かったし、後はその後どうなるのかを見るだけだ」

 どこか感慨深いように頷く女郎花(おみなえし)は、不意に(せり)が立つ方向を見た。


「しかし、少し驚いたよ。てっきり玉川くんが槍で自分の頭を刺そうとしたとき、君は止めようとすると思っていたんだけど」

「そんなことはしませんよ、(おさめ)さん。私は今回、あくまでこの世界の存在が認め合うことで平和をもたらすようにサポートするつもりでしたから」

「へー?でも答えになってないんじゃない?彼女は苦しみながら死んだっていうのに。それに僕からしたら、今回君は場をかき乱しているようにしか見えなかったけど」

「そうでしょうか?まあ正直言って、今回は私がゴリ押して解決する以外の方法を模索するための実験でしたから、不手際は確かにあったかもしれませんね」


 2人の会話は、どこか他人事のようだった。人の命が今まさに失われた場には相応しくないであろう内容の話を、長々と続けていた。


「それと……玉川さんですが、彼女は少し冷静になる時間が必要だと判断しました。彼女の魂は私が既に回収しましたから、ご安心を」

「ふーん、冷静に、ねぇ。またお得意の『牢獄』を使うのかい?」

「それはどうでしょうか。彼女の場合は根からの悪人ではないでしょうから、必要ないかもしれませんね」

「はは、そうか。しかしさぁ。君は『こんな時に()()()があれば良かったなぁ』なんて思わないものなの?」


 女郎花(おみなえし)は、少し含みを持たせて芹に迫る。しかし、芹はそれを気にすることはなかった。


「思いませんね。私は他人の思考を勝手にいじることはあってはならないと思っていますから」

「ああ、そう。やっぱり、君は僕とは合わないね」


 芹と違って、女郎花(おみなえし)の表情には感情が乗っている。彼は明らかにつまらなそうに芹を見つめていた。

「命を大切にする僕と、命を情報としか見れない君。一体どちらが優れているのだろうね」



 ―第21話 完―

お読みいただきありがとうございます。

カクヨムの方に、本作を書き直したバージョンも投稿しているので、良ければお読みください。

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