第17話:知る
第17話です。遅くなりました。
スポットライトを舞台に適切に当てるという、重要ではあっても戦闘能力は全く必要としない業務を私に振る存在は、おそらくこの世に芹しかいないだろう。
(……本当に、芹は天然ですね)
私は芹を昔から観察しているが、彼は本当に優しいのかと疑問に思う時がある。客観的に見れば、結果的に彼は『優しい者』であるのだが、過程を細かくみていくとまるで鬼畜のような行動をすることがよくあるのだ。
今回彼はどうやら、彼なりの『実験』をしているように思える。それは彼が思う優しさの形なのかもしれないし、ただの好奇心の形なのかもしれない。
(少し様子を見ましょうか)
芹は今回の議論において、あまり発言をしていない。このすれ違いを解決するだけならばやることはシンプルだが、今回はそうしないらしい。
「では、私から少し良いでしょうか?」
そんな中、漸く芹は動いた。彼はニコニコしながら対峙する2陣営の間に入る。
「少し言葉が停止してしまいましたね。場に緊張感が漂っているのでしょうか?まぁそれはさておき、先ほど彼が提出したデータなのですが、私の優秀な同僚が分析してくださいました」
芹はやはり、言葉でそう言っておきながら場に漂う緊張感を全く感じ取ることができていない。彼にとって、緊張感がただの知識でしかないためだ。
「これです」
芹は装置に記録媒体をセットした。データを分析した同僚というのは、おそらくカエデのことだろう。相変わらず彼女は良くやっている。
(……おや)
スクリーンに先ほどの動画データの分析結果が映し出される。結果には、また動画に添付された『作成された箇所』というメモと、無数の印が並んでいた。
「どうやら、私の同僚の分析ではこの動画は実際に撮られたものに大幅な編集を加えたもののようです。これでは議論の前提条件が変わってきますね」
「……なんだと?」
「しかも、面白いことに虐殺が行われている箇所は全て差し替えの跡があるそうです」
「そんなことはありえない。加工の跡などなかったことは私も確認している」
「そうですね。この跡は、おそらく人間では認識することができないでしょう」
「何?」
芹なりに順序立てて話しているのだろうが、芹は相手が求めている答えをすぐさま言うわけではないから、結局のところ理解がしづらい会話になっている。
「私の同僚は非常に優秀ですから、『神』がやったことも瞬時に見抜くことができるのです。その動画の改竄は、『神』が行ったものです」
極めて真剣に語る芹を見て、男は困惑したようだ。先ほどまで神などいないことを熱弁していたのだから当然だろう。
「お前は何を言っている?理解に苦しむ」
「そうですね、どうしましょうか?」
「……私を煽っているのか?」
「そんなことはありません。少々お待ちください」
芹はスクリーンの方へと腕を伸ばした。
多くの者にとって、その行為は意味があるようには思えなかったが、ただ1人、それを見て動揺していた。
「これは認識の阻害……いわば『術』の範囲になってきます。対抗する術がなければ見破ることができないのは必然です。【解除:術】」
「……っ!?なんだ?」
スクリーン上の映像が、どろどろと歪んでいく。私たちを除いたほぼ全員が脳内を掻き回されるような感覚に襲われる。これは、配信を見ていた全世界の人類とビオラ族も同様であった。
「これは面白い、というものでしょうか。この場にいたほぼ全員が同じ幻想を真実として見ていたのです。これでは前提条件が変わってしまうことも仕方ない」
映像は、やがて鮮明になる。
「…………は?」
それを見た人類側の人間の1人が、情けなく声を漏らした。それほどまでにその映像は常人からすれば理解に苦しむようなものであった。
『………あ!あれ、バレっちゃった?いやー、君優秀だね。僕の作った幻想を見破るとは、褒めてあげるよ』
先ほどまでビオラ族たちが人間たちを殺していくシーンであったはずの部分は、水色の髪をした少年のような人物が喋っているシーンに置き換わっていた。少年の話し方は、緊張感がなく明るかったが、芹のそれとも少し違う様子だった。
『さて。これからこの人間たちを殺すよ。これを見ているということは、君たちは真実を知ることになるのかな?楽しみだなー。知ったら知ったでどんなことを思うんだろう?』
よく見ると、少年の足元には目隠しをされた男女9人が座らされていた。彼ら彼女らは拘束されているわけではなかったが、何故かほぼ体を動かすことがない。ただただ口元を震わせている画面がスクリーンに映し出されていた。
『さて。じゃあ、1人目だね。君たちは誰が狙われるか当ててみてね』
少年の手元に、突然古びて錆びたナイフが現れる。その茶色はものを切るには適していない。
私はそれを見て少し昔を思い出した。
「…………っ」
『あれ?君、凄い怖がっているね。大丈夫かな?』
怯えの感情を特に漂わせていた1人を見て、少年は口元を緩ませた。病人を癒やそうとする者のような目で、少年はその人間の頭の一部にナイフを1mmだけ突き刺し、沿わせた。
「………!?」
だが、痛みを感じているだろうにその人間は喋ることができない。その権限がないためだ。
『さて。君はこんなもんかな?』
少年は、もう飽きたとばかりにその人間から少し離れた。そしてまた別の人間へと向かっていく。今度はナイフではなく、小さめの槍のようなものを手元に出現させた。
『じゃあ、次は君だ』
ゆっくりとした、意味のあるように思えない時間は、映像を見ていた者たちにとっては永遠のように思えただろう。言い換えれば、それは人を苦しめながら殺す映像を、どこかほのぼのとした子供向けの教育番組のように脳を溶かすように見せられたということだった。
『さて。これでお終いだよ。どうだったかな?この映像に意味を見出せたとしたら、君はかなり上を行っているんじゃないかなー?』
映像を見終わる頃には、人々は少年を少年としてはもう認識していなかっただろう。そうなるように、女郎花は仕組んだのだから。人の認識を変えることなど、神にとっては容易いことなのだから。
ー第17話 完ー
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