第2話:院長、召喚される。①
第2話です。
これは石山芹が、まだ若かったときの物語。
「異世界最強の勇者よ!今ここに現れたまえ!!!」
王城の一室で、王女と『魔術師』たちが円になり、『勇者召喚』を行なっていた。
「「「「「勇者召喚!!!!!!」」」」」
激しい閃光が走る。
その場にいた者たちは、一瞬目を閉じた。
「……おやおや、これは……」
そして、『勇者』が姿を現した。
「これは正直驚きましたね。まさか私が『召喚』されるとは」
『勇者』──芹は、笑いながら呑気にそう言った。
「勇者よ、私はこのアーク王国の王女『サファイア・イル・アーク』。貴方にはこの世界を魔神の手から救っていただきたいのです!」
王女が言った。
「なるほど、そうきましたか」
芹は、自分が召喚されたことについては特に気にせず、相変わらず呑気なままで構えていた。
「……なるほど、貴方達の状況は理解いたしました」
王女の話によれば、この世界は『魔神』という恐ろしい存在に蹂躙されている。
「……しかし、」
「?どうかなさいましたか?」
「何故、『魔神』は人間を襲うのですか?」
「……さ、さあ……あまり詳しいことは良く分かっていないのが現状と言いますか……」
王女は少し動揺していた。何か裏のあるようにしか見えない。そのような質問をされるとは思っていなかったらしい。
「……では、私はまずその『魔神』とやらを見てから行動に移すとしましょう」
そう言って、芹は王城の広間から出ようとする。
「……ち、ちょっと……お待ち下さい!!」
王女が芹を引き止めようとする。
しかし、芹はそのまま歩き続けた。
「……チッ……」
誰かの舌打ちが、広間に響いた。
「……勇者を捕らえろ!!例の魔法を即座に発動せよ!!!」
王女が叫ぶ。
「おや……」
その瞬間、芹は魔法の鎖によって固定されてしまった。
「今だ!!『洗脳魔術』!!!!!」
広間にいた魔術師の一人が、芹に『洗脳魔術』を発動した。
「くくくっ……これで勇者は私たちの命令には逆らえない!!最初から言う通りにしておけば良かったのにねぇ!!!」
王女が嘲笑う。
しかし、
「……仕方がありません。ここは力技でいきましょう」
そう言って、芹は腕力で鎖を引きちぎった。
「なっ……!?」
皆が絶句する。
「心無い私に、『洗脳』は効きませんよ。では、皆さんご機嫌よう」
芹は、そのまま王城を抜け出したのだった。
*
「これはこれは」
そして、芹は今まさに、『魔神』と対面していた。
「……何だ貴様……何者だ!?」
『魔神』──というのも名ばかりな、ただの女性が、目の前にはいた。
(物語のようですね)
彼は、変な方向に関心を示す。
「少しお話しませんか?」
そして、まるで友人と話しているかのように、微笑む。
「──なるほど、貴女の見解では『アーク王国』こそが真の黒幕であると」
「ああ、そうだ。我々はアーク王国の人間どもにいつも蹂躙されてきた。そう、奴らは『勇者』と呼ばれる圧倒的強者を利用し、我々を滅ぼそうとしているのだ!!」
「それはそれは、大変でしたね」
「聞いておいて随分と軽いな!?」
『魔神』は、「ありえない」という顔をした。
「あ、いえいえ、真剣に考えていますよ。さて、どうしましょうか」
(……既に『魔神』が本当のことを言っているのは分かってはいますが、どうしましょうかね)
「分かりました」
「お、おう?」
「早急に、何とかしましょう」
「?」
何の中身のない答えに、魔神は困惑するばかりだった。
ー第2話 完ー
お読みいただきありがとうございます。
少し改稿しました。