第15話:騎士団長の見たもの
第15話です。20話以上書き溜めてあるので、多分途切れずに投稿し続けられると思います。
「感謝します……」
「良いですよ、別に」
森を彷徨っていた私は、偶然通りかかった女性と共に行動することになった。
「……そういえば、お名前をお聞きしても……?」
「私のですか?私は神崎蘿蔔といいます」
「コウザキスズシロ、覚えました」
あまり聞きなれない名前だ。モード王国の人間ではなさそうだが、もしかして他国の重要人物だったりするのだろうか。先ほどの気配の消し方は明らかに素人のそれではない。
「私はモード王国騎士団団長の、エレンという者だ」
「そうですか」
聞いた以上、こちらも名乗るのが筋だろう。
……それにしても、私が自己紹介すると大抵のものは怯えるようなしぐさを取るのだが、やはり特殊な立ち位置の人間で間違いなさそうだ。
「エレンさんはイテラの村にどのような用で?地元というわけではないでしょう。騎士団長がわざわざこのような場所に来る理由は気になりますね」
「あ、それは……」
どう説明するか……。職務だし、うかつに情報を漏らすわけにはいかない。
それに、この女性──スズシロがまだ味方と決まったわけではない。
「か、観光だ」
「そうですか」
ろくな言い訳ができなくて焦ったが、これ以上彼女が何か聞いてくることはなかった。
「つきますよ」
20分ほど歩くと彼女が言った。
そして彼女の言う通り、その数秒後に森が開けた。
「え……?」
私は情け無い声を出してしまった。私の視界に映ったイテラの村は、私の想像する田舎町と全く異なるものだったのだ。
(なんだ……これは)
私の目の前には、王都顔負けの整備された空間が現れた。村へと至る道は舗装され、村の入口と思われる門は新しさを感じるものであり、門の奥には植栽と噴水のようなものが見えた。
(一体この村に何があったというのだ……?)
「ようこそ、イテラの村へ。スズシロ様と……そちらの女性は?」
「騎士団長のエレンさんだそうです。通してあげてください」
「騎士団長!?わ、分かりました」
スズシロは門番と少し話したのち、私と共に村に入った。
「エレンさんはこの村に来たのは久しぶりのようですね。どうですか、かなりカッコよくなったでしょう?」
村の広場のような場所で、噴水を見ながらスズシロが言う。確かに綺麗過ぎて驚いた。
「……え、ええ。随分と」
「でも、彼は村の良いところはちゃんと残すように細かく調整なさったんですよ。若干の財政難で整備できてなかった村がいい感じの村になりました」
「なる……ほど?」
今の彼女の言い方は、少し気になった。
「失礼ですが、彼、とは?」
今の言い方的に、おそらくスズシロはその『彼』の部下か何かだろうか?この得体のしれない人物の上司とは……。
「ああ、失礼。彼というのは──」
「──おや。蘿蔔くん。来ていましたか」
「芹様!!」
誰か男性の声が聞こえた瞬間、スズシロが顔色を変えてその声の元に駆けていった。
「セリ様……?」
なんというか……先ほどまでキリっとしていたのに、急にその……なんというか……スズシロが恋する少女みたいな表情になってびっくりした。
(あの人がスズシロの上司か?)
スズシロの前にいる男もまた、彼女と同じ白衣を見に纏っていた。身長は180以上ありそこそこ大きいが、痩せ型であまり強そうには見えない。
……いや、ぱっと見ではスズシロの異様さにも気づかなかった。もしかしたらこの男も強いのかもしれない。油断してはだめだ。
「こちらの方は?」
「騎士団長のエレンだそうです。道に迷っていたので案内しました」
「そうでしたか」
セリと呼ばれる男がこちらへ向かってきた。
私は念のため迎撃態勢を整える。
「私は石山病院院長の石山芹と言います」
「……っ」
「何かあればお手伝いしますよ。ゆっくりしていってください」
「…………?」
拍子抜けだった。一瞬身構えたが、正直この男はただの温厚な青年に見えた。
「ああ、そうです。先ほどその先の料理店でカレーを食べたのですが、美味しかったですよ。見たところ、最近この村には来ていないようですから是非食べてみてくださいね」
「は、はぁ」
「それと、騎士団長の方がわざわざこのような辺境に来るということは何かあったのでしょうか?国からの派遣でしょうか。我々には関係ないのかもしれませんが」
「それは……」
「もちろん言わなくてかまいません。守秘義務があるでしょうから」
この会話の中で、私はふと気づいた。
この男の眼は、どこまでも蒼く、深く、輝いているように見える。
だが、その先には何もないように見えたのだ。
「ただ……間違ってもこの村の方たちを傷つけるような行為はおやめください。貴女ならばこの村の存在すべてを消すことも容易いでしょうが、私はそれを望みません」
声のトーンが変わった。いや、これは……意図的に変えた?
「ええ……肝に銘じておきます」
「ありがとうございます。皆さん、お優しいですから」
それだけ言うとセリは私の元を去り、スズシロと再び合流してそのままどこかへ行ってしまった。
「……ん?」
気づくと、私の額に汗が流れていた。冷たく、嫌な気分になる汗だった。
-第15話 完-
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