番外編3:生贄を求める神を撲滅する死神
番外編3です。
本編に『友人』が登場したため書きました。
新キャラもいます。
「仕事ですか?芹」
「ええ……これなのですが、頼めますか『友人』」
石山芹は、『友人』に依頼内容が書かれた紙を手渡した。
「問題ありませんよ。……しかし。珍しいですね、神関連で貴方が自ら動かないのは」
紙には、【『地神』の討伐について】というタイトルで、背景などが事細かに書かれていた。
「確かに、本当ならば駄目な神を懲らしめるのは私の役割なのですが、実は今急用がありましてね」
「急用?」
「ええ。実は今日から3日間、薺ちゃんの通う幼稚園の祭があるのですよ。私はそこに行かなければなりません、絶対に。ちなみに御形くんも一緒です」
「そうですか……相変わらずの馬鹿親ですね」
「え?」
「……もう良いです」
よほどのことがない限り、芹が「急用がある」などと言うことはない。
よほどのことがこれでは完全なる馬鹿親だが、『友人』には関係のないことたった。
「分かりました。さっさと終わらせますよ」
このときはまだ、『友人』は完全に芹と分離することができていなかった。しかし、短時間でかつ、別の世界に2人が存在することは可能だった。
***
話は変わるが皆さんは『生贄』についてどう思うだろうか。
私(死神)からすると、生贄というのは実に不愉快なものでしかない。それは様々な視点からのものであるのだが、何よりも生贄を与えるという仕組みそのものが『この世』にも『あの世』にも利益がないということだろうか。
そもそも、『この世』の管理者である『神』や、『あの世』の管理者である『王』は生贄など欲しない。生贄を欲するのは、『この世』の中でもほんの一部だけを支配し、この世の全てを手に入れたと錯覚している愚かな『地神』である。
なお、『地神』にもいくつかの位が存在する。一応は世界全体を支配しているものもいれば、本当に一地域だけを支配するだけの存在もいる。
とはいえ、世界全体を支配している『地神』であっても、それをさらに支配している『神』がいることには気付いてすらいない場合が多い。
芹のように、『自分よりもさらに上位の存在がいるのではないか』という研究を一生続けるような変わった存在は、『地神』にはほとんどいない。
「あそこですか」
さて。今日私はある世界のある地域の『地神』を、芹の依頼で殺しにきたわけですが。
ここはある惑星の孤島で、いかにも周りの情報が入らなそうな閉鎖的空間。
「嫌いな空気ですね」
空気感だけで分かる、究極の村社会。
『誰かが村からハズレようものなら、全員でハズレものを処分する』という、はっきり言って必要のない覚悟を持った集団。
「……では」
私は姿を完全に隠した。
村の人間程度では、私に気付くこともできない。
「さっさと殺してしまいますか」
***
「今回の生贄はあの子かい?」
「全く、相変わらずあの家の子供は可愛らしいねぇ」
「湖神様に捧げるには、あのくらいでないとね」
村人の声がある。
この村がある島の中心部には、大きな湖のようなものがあった。
『神』が宿る湖。
この湖は、少し変わった作りをしている。
島の中心に空いた穴。
そこから50mほど下がった場所に、湖はある。
人間の目では湖の全てを捉えることはできない。
「……しかし、可哀想に、あんな小さな子なのにね……」
「何を言っているんだ?湖神様に命を捧げられるなんて光栄じゃないか。親も大喜びだ」
「まぁ……そうさね」
村人たちの目線の先には、縄で縛られ、祭壇の上に寝かされた少女がいた。
この村、いや、この島では、古来より神に災害から守ってもらうために子供を生贄に捧げる文化がある。
およそ250年前、生贄に選ばれた子供を明け渡すことをその子供の親が拒否し、生贄が成立しなかった際には、島は強烈な水害に襲われたという。
その水害ののちに、湖神は村人の前に現れ、『このようなことがもう一度あれば、この島を滅ぼす』と警告したのだと、歴史は語る。
「……もうあんなことを繰り返しちゃならねぇなぁ」
「でも、本当に名誉なことや。あの子は村を救うだけじゃねぇ。神様とひとつになるのやから」
眠る少女は、どこか不安げな表情をしているように見えた。
***
生贄の日。
この日は、湖神の力によって湖が黄色く光る。
村人たちは総出で、生贄の儀式に向かった。
「さぁ、ついにあの子が神様と一つになるんだべ」
「ああ。友人として誇らしいよ!」
村人たちは、眠る少女を台に乗せ、下に湖がある穴へと運んでいく。
そして、何かの歌を歌ったかと思うと、急に水をかけて少女を起こした。
「……っ」
「さあさあ、湖神様に生け贄を捧げましょう!」
縛られた少女は抵抗しようとするが、動くことができない。村人たちは淡々と、儀式を進めていく。
そして、穴のすぐ横まで行くと、少女を台から下ろした。
「さぁ、ここからは貴女が歩いていくのです」
村人の長は、少女に言う。
彼は、少女に50mはある穴へ飛び降りろと言っているのだ。
「……………」
少女は穴の深さを見て、息を乱れさせた。
だが、そんなことは村人たちにとってはどうでもいいことだった。
「さあさあさあさあさあさあ!」
「よぉー!!」
よくわからない歌と合図が辺りに溢れる。
早く飛び降りろと言っているようにしか思えない。
「……………なんで」
少女は、真面目に生きてきた。
正直に、優しく振る舞うように生きてきた。
だが、そんなことは関係ない。少女は生贄に選ばれた。
少女は、不公平を知った。理不尽も知った。
「………………」
少女は、無言で穴へと近づいていく。
次第に大きくなる村人たちの声は、少女には聞こえない。聞く気もなかった。
「ああ……………」
少女は、拘束されていない足に力を入れ、勢いよく飛び込んだ。
(もし、私が生まれ変わったら……あいつらを全員……殺してやる)
呪いを見に宿し、落下した少女は体を粉々にし、生き絶えた。
***
「……おや、これはまた」
私が到着した時には、既に生贄の儀式が完了した後だった。
地神がいる湖は、深い穴の底だった。
湖は黄色く光り、よく見ると奥深くに生命体の存在が確認できる。
そして──湖の横には、体がボロボロになり、生き絶えた少女の姿があった。
「まだ10歳程度でしょうか。可哀想に」
少女は足以外縄で縛られていた。これでは、悪あがきもできなかっただろう。
私は少女を哀れに思い、少女を生き返らせることにした。
まず、ぼろぼろになり人間としての姿を保てていない少女の体を元に戻した。
「『戻れ』」
そして、私の言葉で少女の魂が強制的に肉体へと返還される。これは、死神の私だからこそできることだった。
「…………っかぁはぁ!?」
「成功しましたね」
(さて。この子はこれで良いとして、肝心の地神は……)
「貴様……何者だ」
「ちょうど良かった。出てきてくれましたね」
黄色く光る湖から、男が現れた。
その男は私を指さすと、何やらごちゃごちゃと言い出した。
「私が何者か分かっていないようだな……愚かな村人め。それに、どうやってここまで無傷で来たというのだ」
「やれやれ……自分勝手なその心が、顔に出ていますよ」
「何……?さっきから訳のわからんことを!私は神だ!さっさと頭を下げんか!」
この男が地神で間違いないようだ。
私は思わず、その愚かさに嗤ってしまいそうになった。
「──頭が高いぞ、愚か者」
私は手始めに、地神の背後に周り、そのまま地神の頭を湖の横の地面に叩きつけた。
「………かはぁっ!?」
「私が殺そうと思えば、貴方はいつだって死ぬことが『できる』んですよ。光栄に思いなさい」
「貴様………ぁ!」
地神は抵抗しようとするが、無意味だ。
「さて、質問です。貴方はなぜ生贄を求めるようになったのですか?」
「……何を」
「質問に答えなさい」
「あ゛っあ!?」
私は指の先から微細な荒れる魔力を流し込んだ。
これは一種の拷問、とでも言えば良いのか。芹や私のような特殊な存在には全く効果がないのだが、普通の神相手ならば非常に効果がある。自分と波長の合わない魔力を無理やり流し込まれ、相手は悶絶することになる。
「早く答えなさい。時間が勿体無いでしょう」
「……それは……私が神だからに決まっているだろうが……!」
「なるほど。神というのは、子供を生贄として捧げられる存在というわけですか?」
「そうだ……!私が何を要求しようが、この島は私が守っているのだから!」
「そうですか……」
「………っああああああああああああああああ!?」
どうやら芹の言った通りのようだ。こいつらに話は通じない。
所詮は、少し大きな力を手に入れただけの子供未満の存在だったらしい。
「あまり、『神』を舐めるな」
「……何を……!」
「貴様は芹の世界に必要ない」
「あ………あああああああああああああああああああああああああああああ」
数秒の後、地神は生き絶えた。
私は地神が2度と復活しないよう、徹底的に魂を破壊した。
「……では、戻りましょうか」
「あ、あの!!」
「?」
***
ああ。暗い。何も見えない。
痛い。痛い。痛い。痛い。
悔しい。
憎い。
あいつらが憎い。
穴に落とされてどのくらい経ったのだろう?
何故か、私には感覚がある。
これはもしかしたら、神様がくれたチャンスなのではないか?
あの愚かな村人たちに復讐するための……。
「………」
気付けば私は、肉体を飛び出していた。
力がみなぎってくる。
この力があれば、あいつらを殺せる。
私を喜んで殺したあいつらを殺せる!
まずは………!
「『戻れ』」
………え?
男の人の声?
「…………っかぁはぁ!?」
急に、目の前が明るくなった。
体が、ある。
「成功しましたね」
「え………?」
目の前に、黒い服の男の人が立っていた。
こんな人は見たことない。
もしかして、島の外の人?
「あ、あの……」
私が話しかけようとしても、その男の人は答えず、湖の方へと行ってしまった。
「……っ!?」
その瞬間、悍ましい空気が辺りに充満する。
「………ひ」
男の人の前に、紫色の化け物が現れた。
姿は人間の男だが、纏った空気は人間のものではなかった。
「貴様……何者だ」
「ちょうど良かった。出てきてくれましたね」
化け物の姿を見ても、黒い服の男の人は全く怖気付く気配すらない。
ただ、無機物を見るような目をしていた。
「私が何者か分かっていないようだな……愚かな村人め。それに、どうやってここまで無傷で来たというのだ」
「やれやれ……自分勝手なその心が、顔に出ていますよ」
「何……?さっきから訳のわからんことを!私は神だ!さっさと頭を下げんか!」
(か、神………!?)
まさか、とは思った。
この化け物は、私を生贄に捧げさせたあの『神』なのか。
(……………っ)
思わず、声が出そうになった。
でも、そんなことをすれば、自分のような弱い人間が塵と化すことくらいは分かる。
きっと、あの男の人もただでは………。と思っていた。
だけれど、この後、私は信じられない光景を目にすることになる。
「──頭が高いぞ、愚か者」
***
「あ、あの!!」
私は、勇気を出して男の人に話しかけた。
「………?」
「貴方は何者なのですか?」
この人は、あの化け物を簡単かのように倒してしまった。絶対に普通の人間じゃない。
それにそもそも、死んだはずの自分をこうやって生き返らせられるのもおかしい。
「私ですか?私は……そうですね……死神です」
「しにがみ?」
「まぁ、貴女にはそんなに関係のない話です。それよりも、生贄大変でしたね」
「え?」
「落ちた時の痛みの記憶はありますか?」
「落ちたときの……?あ………」
私は不意に、あの瞬間の痛みを思い出した。意識したら最後、体がバラバラに砕けるあの『音』が、耳から離れなくなる。
「……やはり、少し記憶をいじった方が良さそうですね」
「あ……」
「ちょっと失礼しますね」
「……っ」
しにがみさんは、私のでこに手を当てた。
すると、何故かさっきまでの感情が一気に消えていった。
……あれ、私、なんで死んだんだっけ……生贄になって……穴に落ちて……落ちて……?
思い出せない。
私、死んだんだっけ……?
「さて、生贄の少女。貴女の名前は何ですか?」
「え……わ、私は……カエデって言います」
「そうですか。ではカエデさん。カエデさんはこれからどうしますか?貴女は現状、村人たちには死んだと思われています。生贄なのですからね。ですから、別にこれからどこに行こうが自由なのですよ」
「自由……?」
私は、村から、島から出たことがない。
あの気持ちの悪い村の人たちに従って、捨てられた。
どこにでも行けるなんて言われても、行く当てもない。
私を喜んで生贄として差し出したあの糞親にも、もう二度と会いたくない。
「……というか、そもそも私はこの穴から出る力なんてないですし……」
「そうですか。穴からは私が背負って出てあげますよ」
「背負って……?」
「ええ。それに、カエデさんの考えは分かりました。確かに、いきなり自由と言われても困りますか」
しにがみさんは、にこっと笑った。怖い。
「せっかくです。私の家に連れていきましょうか」
「……っ!?」
「飛びますよ」
私は気づいた時には、空を飛んでいた。
私の眼には、今まで大きく見えていた醜い島が、取るに足らない小さな点のように見えた。
***
「あ、カエデくん。これ頼めますか?」
「行けます!任せてください!院長!」
「カエデくんは元気で良いですね。頑張りすぎないように、適当でいきましょうね」
「分かってます!」
病院の3階には彼女の部屋がある。
毎日多くの子供を診察する彼女は、今日も多くの命と心を救う。
彼女は院長からの直々の仕事も容易くこなす。
(──さて、今日も時間通りです。18時30分。仕事は終わりです。19時からは……)
そして仕事を終えた彼女は病院を出て、待ち合わせ場所のカフェへと向かった。
「お待たせしました!」
「問題ありませんよ。私も今来たところですから」
彼女は、カフェのソファに腰かけていた黒い服の男に話しかける。
そして彼女はそのまま彼の正面に座った。
やや顔を赤らめる彼女は、心から幸せそうに人生を生きていた。
-番外編2 完-
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