第5話:魂の住所
第5話です。
──目の前の白い服を着た男の人は、『変な言葉』を口にした。確かに「私は、人を生き返らせることができます」と言ったのだ。
私には、その言葉の意味が分からなかった。なぜ今そのような戯言を口にする必要があるのか。私は一瞬思考を止められてから少しして、苛立ちを覚えだしていた。
例え聖職者であっても、傷や病気を治すことができても既に死んだ人間を生き返らせることはできない。お母さんが死んだときに、大人からそう言われた。そのときは、少しでも希望を持とうとした私が馬鹿だったと後悔した。
「見ていてください」と男が言うと、男はお父さんの胸のあたりに手をあてた。
「………っ」
それを見て、私は手が出そうになった。
この男は死んだお父さんに何かをしようとしているのだ。
「……………ぁぁ」
でも、行動に移すことはできない。先程までの盗賊との戦いを見てしまったから。
私がこの男に何かしても、どうにもならないと私の『本能』が告げていた。
私はそんな自分がまた嫌いになった。
「……ふむ、なるほど。そうでしたか」
男は、まだ何かぼそぼそと喋りながら何かをやっている。
目を凝らしてよく見ると、動かなくなったお父さんの傷1つ1つに手を当てていることがわかった。その所作は、死人を雑に扱おうとするものではなく、私は余計に困惑してしまう。
だがその直後、そんな今までの感情なんてどうでも良くなるような出来事が目の前で起こった。
「…………ぅう?」
なぜか、死んだはずのお父さんが今まではただ寝ていただけかのように自分の力で起き上がった。
「……………………え?」
何が起こっているのか、理解できなかった。
「リーハ!」
死んだはずのお父さんが駆け足でこちらに向かってきた。
「……お、お父さん?」
「良かった、お前が無事で……」
「お父さん……だよ……ね?死んじゃったと思ってた……」
私の見間違いだった?
本当はお父さんは死んでいなかったの?
「……あ、ああ。何から話せば良いのか………………あ。そういえば、セリさんは……!?リーハ、長身で白髪の綺麗な青年を見なかったか?」
「え?……セリさん?誰のこと?」
「多分、この辺にいると思うんだが……私の恩人なんだ」
「……えーと」
そんな人いたかな?
…………………あ。
「お父様、こっちです。私は後ろにいますよ」
「ん?……あ、セリさん!無事に帰ってこれましたよ!」
「ご無事でなりよりです」
「……お父さん、その人と知り合いなの?」
私はやけにニコニコしている白い服の男──お父さんは『セリさん』と言っていた──を見た。
「リーハ、この人はあの世から私を生き返らせてくれたんだ」
「え?ほん……とう……に?」
「ああ」
「そう……なの」
何か違和感を覚えてしまいそうだった。
まるで、怪しげな宗教のような。
もしかしてお父さんは、この怪しい男に騙されているのではないか。
「……どうやって生き返らせたの?死んだ人を生き返らせるなんて、おかしい」
私は、セリという男に近づいた。
「どうやって、ですか?いたってシンプルです」
「?」
セリという男は、私に向かって微笑んだ。
「まず、死者の肉体を再生します。これは、この世界の治癒魔法でも可能なはずです」
「……」
「そして次に行うのは、『魂』を探すことです」
「魂を探す?」
「はい。リーハさん、そもそも、『生きる』『死ぬ』とは、どういう状態か分かりますか?」
***
生物の生き死にとは、『住所変更』と同じである。
この世に住所を持っていた『魂』は、世界の理の影響を受けて、あの世(もしくは別のどこか)に住所を変更することになる。
つまり、再び住所を変更すれば、死者はこの世に生還するのである。
「……さて」
私はまず、リーハさんの父の体を再生した。これをしないと、住所変更した魂がこの体に戻った時に、無駄に苦痛を受けることになってしまう。
そして体の再生ができたタイミングで、私は父親の魂の探索を始めた。その際探索を行うのは、私の分身のような存在だ。
「見つけましたね」
私から離れ、(聞き馴染みのある言い方をすれば)あの世を探索していた分身が私に父親の場所を知らせてくれた。
「今回はまだ『到達』していませんから、そのまま『実行』してください」
「了。──座標を侵略中です。──完了しました」
瞬く間に、父親の『魂』は本来の肉体へと舞い戻った。
私は、肉体が起き上がる前に少しその『魂』と会話をする。
〈リーハさんのお父様で間違いありませんね?〉
〈……!?これはどういう……私は死んで……よく分からない水の中(?)のような場所にいたはず……〉
〈私が貴方を蘇生しました。もうすぐ目覚めますよ〉
〈蘇生……?そんなことが可能なのですか?もしや、貴方様は世界有数の神官様なのですか?〉
〈いいえ。私はただの冒険者です。それよりも、どうやらリーハさんにはお母様がいないようですね?〉
―第5話 完―
お読みいただきありがとうございます。
ずっと書きたかった話を1つ書くことができました。
これからも、物語は続いていきます。




