第8話:自由
だいぶ遅くなりましたが、第8話です。
「──なんで……!?」
二人が気づいたときには既に、通常永遠に自身の手から剥がれ落ちることのない奴隷紋が、その手から完全に消え去っていた。
「──これで皆さんは晴れて、普通の人間、エルフ、獣人として暮らすことができるでしょう」
芹は相変わらず、微笑を浮かべていた。
***
芹によって謎の解放を遂げたミラたち元奴隷たちは、しばらく困惑していた。
「……私たち、本当に……もう奴隷じゃない……?」
(……奴隷紋を完全に消し去る魔法……?そんなものがあるなんて……)
この世界において、奴隷は基本的に一度なったら死ぬまで奴隷のままである。
これは、そもそも主がわざわざ奴隷を開放する理由がない、ということが一つの理由だが、他にも理由がある。
その他の理由と言うのは、体の奥深くまで刻み込まれた奴隷紋は、簡単には剥がせない、という理由である。超一流の魔法使いであっても、一度刻まれた奴隷紋を見て分からなくなるレベルまで完全に消すことは普通できない。それは、魔法が得意とされているエルフ属なども同様である。
だが現に、自身の奴隷紋は完全に消え去っている。
隠蔽されているわけでもなさそうだ。
「──ねえ、マイ。あの人たち、何者なのかな?」
ミラは、少しの恐怖と、興味を抱いた。
「え?」
だがマイは、奴隷紋が消えたことにより高揚している。
「……あ」
(そう言えば……私たち、この後どうするんだろう……?)
「……あ、あの!」
「はい、何でしょうか?」
ミラは芹に話しかける。
「……私たちを、本当に、解放してくれるのですか?」
ミラは真剣な眼差しで芹を見つめた。
どうしてもそれだけは聞いておきたかったのであろう。
しかし、芹の答えは常にミラにとっては予想外のものである。
「──おや?解放するも何も、あなたたちは誰のものでもないでしょう?」
「……え?」
「奴隷という身分自体が『異常』だと、私は思います。いや、むしろ、身分という言葉自体、私は好きではありません」
「……」
「これはあくまで私の考えに過ぎません。ですから、最終的にどうするかはあなたたち本人次第です」
「……」
「あなた達の命は、あなた達のものですよ」
──その後。
全員がそれぞれがこれからどうするべきか、どうしたいのか考えた。
ミラも、マイも、シンも。他の元奴隷たちも。
そして決めた。
それぞれが望む未来のために。
***
「で、結論は、「貴方達の所で働かせて下さい」、と……」
「そうみたいですね」
芹は御形に結果を説明する。
「……まぁ、しばらくは、自由とはいかないだろうからな」
御形は複雑な心境だった。
本当ならば、全員、誰であっても自分の人生を歩めるはずなのに、何故、人によってここまで差が出てしまうのか。
「ふふっ、別にあの子たちにただ養ってくれと言われたって、いくらでも養ってあげるんですがね。なにせあの子たちはまだ子供です。教育やお金くらいちゃんと用意してあげるのが『大人』の役目でしょう?養ってと言われなくても養いますよ?」
「……はぁ」
芹の言葉に、御形は長い付き合いであるため特に何も思わない。
「でも、本人たちは自立したいようだから、それを否定はしません。もちろん『最大の補助』はするつもりだけどね」
「……お、おう。よし、じゃあ、予定通りやるんだな?」
「ええ、そのつもりですよ」
「管理者は誰にするんだ?結局決まってないが……」
「じゃあ『彼女』にしましょうか」
芹は少しの沈黙の後、そう答える。
「……まじか」
御形は露骨に嫌そうな顔をする。
彼がそのような感情を表に出すのは珍しい。
「どうかしたのかい?」
「……いや、何でもない。ちょっとな」
「じゃあ早速、神崎さんを呼ぼうか」
***
「お呼びでしょうか、芹様」
「その様っていうのやめませんか?」
「……」
芹の前で、一人の女性が首を垂れる。
彼女の名前は神崎蘿蔔。石山病院の職員であり、芹が最も仕事を任せることがある人物の一人だ。
「まぁ、それはともかくとして。この世界の『支部』の管理を任せても良いですか?」
「はい、謹んでお受けいたします。芹様」
「そうですか。では任せましたよ」
「お任せください」
「ではとっとと作りますかね!!」
そして──この日、この世界に、石山病院異世界支部が誕生した。
-第8話 完-
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