第7話:解放
第7話です。
「──なるほど、では、取り敢えず手続きだけしてしまいましょう」
セリという男性は私の話を聞いた後、そう言った。
「え……?」
「繁縷君、彼女をお願いします」
「あ。了解しました」
「あ、え?」
私はハコベラという男に引き渡された。一見普通に見えるこの人もまた、変わった雰囲気を持った人間だった。
真実の目を使ってみようかとも思ったが、怖いのでやめた。
「──さて、ヘンサ商……」
そしてセリという男が、商会長に話しかけようと、個室を出た時だった。
「──おい!まだ俺のエルフは捕まっていないのか!?」
「申し訳ありません、まだ捕まえに行った職員が戻っていませんでして……」
例の伯爵が、大声で怒鳴り散らしながらヘンサ商会長と共に個室の近くへとやってきていたのだ。
「──おや、これはこれは商会長。少々よろしいですか?」
「……?……!ああ、これは先生、申し訳ありませんが……今は……」
「──ああ!?なんだ、商会長?そのようなどこの誰かも知らんやつの相手などしていないで、とっとと俺のエルフを連れてこい!!!」
あの憎きアベレージ伯爵は、商会長がセリさんの対応をしたことに激高した。
あの偉そうな貴族たちのことだ。自分は上の存在である貴族であり、平民などとは次元が異なる存在だと思っているのだろう。
「──おや、これは失礼いたしました。もしお困りでしたら、何かお手伝いいたしましょうか?」
しかし驚くことに、彼は伯爵にまるで日常会話をするかのように普通に話しかけた。いくら丁寧語だからと言っても、貴族に普通に平民が話しかけることなど、余程のことがない限りありえないはずだ。
「……ん?何だ、貴様……俺に向かって、お手伝いだと?…………まぁ、良い、とにかく今はあのエルフだ。俺は今ここで売っていたエルフを買おうとしていたんだ。そのエルフを捕まえてくれば、お前が俺の買い物の邪魔になったことは水に流してやろう。早く探せ!!俺のエルフをな!!」
伯爵は少々困惑するものの、すぐに自分のペースを取り戻した。彼はいつも通り貴族として、人を人として見ていない様子だ。
(……あ)
私はその時、自分が置かれている状況が非常に良くないものであると、今更ながらに気づいた。
(ど……どうしよう……!?)
このままだと、伯爵に引き渡されて自分は完全に詰む。
そんな当たり前のことになぜ気が付かなかったのか。
──でも、次にセリが放った言葉は、私の予想を見事に外す言葉だった。
「──なるほど。しかし、そう言われましても、そのエルフの情報が一切ありませんから私にできることはありませんね。申し訳ないですが、私はこれで。商会長、手続きお願いします」
(へ……?)
「……は?」
その言葉に、私もアベレージ伯爵も、言葉をなくしてしまった。
「……おや?どうかなさいましたか?」
「き……」
「……?」
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!この俺を愚弄するかぁぁぁぁぁぁ!!!!???」
アベレージ伯爵は激怒した。
彼は肥えた肉体の血管を切り刻みそうなほどの激情を見せていた。
「おや、怒らせてしまいましたか、これは申し訳ない。何か改善すべき点があれば仰っていただけると助かります」
「あ゛っ!!?」
「とはいえ……ですが。残念ながらあなたの行いは少しよろしくない。私が教育して差し上げましょう」
そう言って、セリは、アベレージ伯爵に『指』をさした。
本来許されない行為であるはずなのに、彼がそうしている姿は、全く違和感のないものだった。
「あ゛?なんだきさ」
「【檻に入りなさい】」
「ま……?」
「……!?」
アベレージ伯爵は、その場に倒れた。
私は一瞬、セリが伯爵を殺してしまったのかと思って顔を青くした。
「さて、商会長、お話の続き、よろしいでしょうか?」
しかし彼は、その光景を何も変わらない目で見届けた。
同時に、彼は商会長に再び話しかける。
「……え、ええ……イシヤマ先生、一体何をしたのです……?これ……まずいのでは」
「ああ、それについてはお気にせずに。もうじき伯爵は目を覚ましますから」
「は、はあ……?」
さすがの商会長もこのような事態に困惑を隠せない様子だ。しかしそんな雰囲気も、そもそも理解できないかのように、さらなる爆弾発言をした。
「私からの要求なのですが、この店の奴隷、すべて買い取らせてもらえますか?」
***
「──ミラっ!!!!!」
「あ、マイ!!」
マイはミラを抱きしめた。その顔は、涙で濡れている。
「良かったですね。御形くん」
「そうだな」
「さて……また稼がないといけません。時間は無限でも、貯金は有限ですから」
「いや、普通は時間も有限だが……まぁともかくお前はいつも自分の金を他人に使いすぎるからな……。もう少し自分のことにも使ったらどうだ?」
「あはは。御形君は相変わらず優しいですね」
「あと、──にもな」
「それは別会計ですから、大丈夫ですよ。薺ちゃんもね」
「──あ、あの、イシヤマ様?ありがとうございました。ミラをあのやばいやつから助けてくれて……」
芹と御形が話していると、抱き合っていたマイとミラが芹のもとへとやってきた。
「おや、もう感動の再開は良いのですか?別に、私のことなど放っておいてもらって構いませんよ。それに、『様』なんてあまりつけるものじゃないですよ」
それに対して、芹は笑顔で答えた。
「……えーと……ですが、先程イシヤマ様に買っていただいたので、我々の主人はイシヤマ様ですから……」
「ああ、いけない。そういえば言い忘れていましたね。私はこの後別に君達を奴隷として連れ回すつもりはありませんから。皆さんが何をこれからするのか、それは全て皆さんの自由なのです」
「……?どういうことですか?」
ミラとマイは目を合わせて尋ねる。
「──こういうことです」
芹は、大きく手を振り上げてみせた。実はこれ自体に特に意味はない。
「えっ!?」
「!?」
だが気がつけば、ミラとマイの手に刻まれた奴隷紋は、まるで元から存在しなかったかのように、綺麗に剥がれ落ちていた。
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