第5話:包囲
第5話です。
「──ヘンサ商会長、どうやらお困りのようですね。手をお貸ししましょうか?」
芹はヘンサにそう言った。
「……?い、石山先生が、ですか?」
しかし、当然と言えば当然であるのだが、ヘンサは困惑する。普通、研究者に戦闘力は求められないからだ。
ヘンサもまた、芹を研究者と認識している側の人間だった。
この世界の研究者は、ずっと魔法の研究、実験をしているものの、実戦経験はないものが非常に多い。また、その中でも戦うことを仕事とする『王国魔術師』と同じレベルの戦闘をすることができる研究者はごくわずかだ。
ゆえに、研究者は一般的に戦闘力があまりないというイメージがあるのである。
結果、芹はヘンサに「いえいえ!!お気遣いは無用です。石山先生はここでお待ちを。すぐにどうにかいたしますので!!」と言われ、協力を断られてしまった。
そしてヘンサは、そのまま他の職員と共にミラを追いかけていってしまった。
「行ってしまいましたね」
「そうですね」
「さて、どうしたものでしょうか。戦えないと思われてしまったようで少し残念です」
芹は、なんとなく悲しそうな表情を浮かべた。
「院長……」
繁縷は内心、芹の嘘くさい悲哀の表情に呆れてしまっていた。
***
『データ奴隷商会』があるのは、モード王国の東に位置する都市『ヒストグラム』の中心地である。この辺りは非常に治安が悪いことでも有名だ。
さて、逃亡中のミラはと言うと────
「──おいおいおい、こいつエルフじゃねーか!!」
「まじかよ、すげぇぇー!?」
「エルフは売ると結構な金になるんだったな。こいつを売ればしばらく遊んで暮らせるってもんだな。」
「おいおい、まずは楽しもうぜリーダー」
「すげぇ!!」
「とっとと捕まえるぞ」
早速、3人の不良に絡まれていた。
「……っ」
(まずい……大柄の男3人……それも、その辺の不良とは少し違う実力者……逃げ切れるの……?)
実を言うと、ミラは正直逃げ切れる自信が無かった。
誰にも言っていないが、ミラは相手の実力を見極めることができる固有魔法『真実の目』を使うことができる。具体的には、対象の【レベル】、【固有魔法】などを見ることができるというものだ。
その魔法で3人を見たのだが、3人はそこらにいる不良たちとは実力が違った。
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〈真実の目〉
対象:男A
レベル:38
固有魔法:なし
職業:魔剣士
魔法属性:闇
対象:男B
レベル:29
固有魔法:なし
職業:僧侶
魔法属性:光
対象男C
レベル:34
固有魔法:なし
職業:格闘家
魔法属性:火
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(──全員ほぼ30以上のレベル……しかも3人も……)
まず勝つことはできない。ミラは現在レベル39とかなりの高レベルなのだが、流石に1人で3人の相手をするのは、魔力が多いエルフであっても厳しい。
だからミラは、勝つのではなく逃げ切ることを第一に考える。
(……やるしか……ない!!)
「──さぁて、悪いがエルフの嬢ちゃん、早いとこ捕まってくれや。……やれ!!」
「おい、エルフ、覚悟しな!!」
そう言って3人の内1人がミラに飛びかかってくる。
「──ふっ!!中級魔法『ファイア・ウォール』!!!」
その瞬間、ミラは中級魔法であるファイア・ウォールを発動する。それによって、ミラと男の間に炎の壁が出現した。
「──熱っ!?な、こいつ魔法使いか!?」
飛びかかってきた男は、炎の熱さにたまらず後ろに下がった。
「『中級魔法』だと?……そうか、そう言えばエルフは1人でも使えるという話を聞いたことがあったな……」
「クソッ、お前ら、一度立て直すぞ!!とりあえず下がれ!!」
(……あいつらが驚いている内がチャンス……逃げないと!!)
ミラは、魔法で作った炎の壁をそのままにしてその場から逃亡を図る。
しかし、その数分後。
「──はぁ……はぁ……な……んで……?」
「ふ……、さっきは驚かされたぜ。まさか1人であれだけの魔法を使えるとはな。だが、こちらにも秘策くらいあるんだぜ!!」
「……っ」
ミラは、3人に再び追い詰められていた。
「──ふふふ、これを見ろ」
男の1人が懐から正方形の物体を取り出した。
「この『反魔法具』があれば、どんな魔法使いだろうがただのザコにできる」
そう言って取り出されたのは、反魔法具(魔法無力化装置)である『タンジェント式魔法無効化装置』だ。
「この前襲った金持ちが持っていたんだよ。これがあれば、魔法使いなんて、所詮はただのヤセだ」
(……これは……本当に、まずい……)
ミラは、絶望する。
自分では、どうあがいても勝てない。逃げることもできない、と。
「エルフ。満足したら奴隷商にでも売り払ってやるから、安心しな」
「……っ!!」
「おいおい、抵抗なんてやめとけよ?」
リーダーの男は、気持ちの悪い笑みを浮かべた。今この空間では、人間の醜い精神構造が露になっていた。
「………え」
だが、その空気は一瞬にして一変する。
『トンッ』
男の後ろから、何かの音がした。
「……?」
そして、ミラが気づいたときにはすでに、その『何か』は彼女の後ろに立っていた。
「──初めまして、こんばんは」
お読みいただきありがとうございます。




