第26話:超越
第26話です。
「……御形くん?」
私の家で料理を作ってくれていた御形くんは、ステンレスのキッチンの前で急にしゃがみ込んだ。私は彼の行動の理由が分からず少しの間考えたが、どうやら彼は痛みを感じているようだった。
「……大丈夫ですか?」
私は少し困惑した。そもそも御形くんがこのように苦しんでいるところを、出会ってから一度も見たことがなかったから。それに、彼が既に不死になっていることを私も確認したから。
私は不死になってから、特に体調を崩したことがない。もともと大きく体調を崩すことはなかったが、不死になってからは痩せ細っても問題なく動けるほどに不自然な健康を手に入れていた。
だからこそ、私は御形くんがなぜ倒れ込んだのかが分からなかった。
「…………攻撃?」
私はボソッと呟く。あまり直感的に言葉を発することはないが、何となく、今はその方が良いように思えた。
そして案の定、私の勘が当たった。
『──おはよう。イシヤマ、セリ』
その声は、私の脳内に直接響き渡った。出来の良いホールの壇上で誰かが話しているような感覚だろうか。
また、その声は比較的高い。もちろん聞いたことがない声だ。
「おはようございます。今は夜ですが、夜におはようと言う人がいてもおかしくありませんね」
仕方ないので、とりあえず返答をする。
『おお、そうか。それはどうでも良い』
「そうですか。失礼しました」
『それよりも、お前に言いたいことがある』
「何でしょうか?」
『私はお前の存在が不快だ。お前、人間ごときが神になろうとしているな?上位存在に憧れた哀れな塵は、どうなると思うか?』
「…それは前提を間違えています。私は神になろうとはしていません。神に憧れているわけでもない」
『私を前にしても、そのような戯言を?』
「戯言ではなく、心からの言葉です」
『そうか。もう良い。死ね』
この人物との会話は、ほとんど何の意味もない一方通行のものであった。そしてこの会話の裏で、私はこの人物が例の地神であることを『友人』から告げられる。
「……そうですか。この人が、私が倒すべき相手ですか」
3秒後、私の体の一部が悲鳴を上げたことを私は確認した。イメージとしては、脳を直接掻き回されているようなものだろうか?続けて、右足のふくらはぎあたりの筋肉が内側から幾度も引き剥がされるような感覚を確認した。
「…なるほど」
『イシヤマ、セリ。お前は何故悲鳴を上げない?何故倒れない?』
地神が疑問と共に私に再び話しかけてきた。
「私は不死です。今この間にも、体は再生し続けています。確かに体は損壊し、悲鳴を上げ、痛みを感じているようですが、それは私の活動には何の影響もありません」
『影響がない?お前は痛みを感じないのか?』
「いえ。感じています。体は確かに。ただ、それを私は気にする必要がありませんから、気にしていないというだけです」
『そうか。本当に意味が分からない。なら良い』
(おっと)
今度は心臓を握り潰されるような感覚があった。まるで体の中に直接手を入れられているかのようで、その手が心臓を握りしめるたびに、私のあらゆる場所から血が吹き出しては止まった。
『なるほど。我慢しているわけではないらしいな』
「そうですね。理由の分からない攻撃をしていないで、直接来たらいかがですか?」
『セリ、お前は何故そこまで態度がデカいんだ?理解できないな』
「──私が来てやることは基本ないが、せっかくだ。お前を直接見てみたくなった」
「ああ、こんにちは。地神」
地神は思ったよりも早く私の元に来てくれた。
そしてその雰囲気は少し子供のようだった。
「お前は自分がいつでも私に消されうることに気付いていないのか?」
「いいえ。そんなことはありません。確かに、権限の強さを考えれば、私のことを消すこともできるでしょう。不死だとしても、消されれば仕方ない」
「なら、何故恐れない?」
「恐れる意味がないからです」
「そうか」
地神はすぐに興味を失ったような顔をする。比較的表情豊かだが、感情の起伏が激しいように思える。興味を持って、すぐに失ってを繰り返している。
私には、彼女が少し心を壊してしまっているようにすら思えた。
「お前が神になろうとしている限り、私はお前を消さなければならない。システムの邪魔になる」
「そうでしたか。しかしながら、私もまた、貴女の権限が欲しい。確かにその意味では、野心に燃える愚かな人類だと言われても仕方がありませんね」
「イシヤマセリ、お前は私が誕生してから今日に至るまでに見た中で、1番イカれている。もはや、神にも救うことができぬほどに愚かだ」
「おや」
彼女は私に直接その手のひらを向けた。それだけで、彼女が何をしようとしているのかは容易に分かる。
「お前では、私の心は満たせない。……消えろ」
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