第24話:非情
24話です。
なぜこいつが『地神を食う』などという、人間としての何かが欠落した行為を実行することが可能なのか。私はこいつと実際に会って、会話をして、そしてこうして相対して理解した。
目の前にいるこの人間はただの異常者だ。人間としての構成要素を1つ失ってしまった、悲しき存在。
例え絶対的な力を持つ神であっても、この人間を救うことはできないかもしれない。この人間は救うための下地を持ち合わせていないし、本人はそれを気にしてもいない。
「もう終わりですか?」
「………悪魔」
「おっと?」
「多分だが、人はお前のようなやつを、悪魔と呼ぶんじゃないか?」
「おや」
私は、本当に残念だが、自分の負けを予感していた。
強さという観点で見れば、私の方がこいつよりも強い。だが、本来なら諦めるべきラインに至っても、どんなに体が傷つき、死にそうになっても、この人間はただ向かってくる。そこには諦めも、苦しみも、何もない。ただ目的を達成するためだけに1歩ずつ進み続ける。
これでは、いつかは私が負ける。目の前の存在は、何もしても心を折られることがないのだから。意味不明な持久戦は既に始まっていたのである。
「いや、もしくは……非情か。ああ、この方がしっくりくる」
「私はそれでも構いませんよ。草も石も、かけがえのない存在ではないですか」
そうだ。こいつは非情だ。有情になれない、石か。
そう考えると、だんだんと苛立ちもなくなってきた。
「ふふふ。少し鈍ってきましたか?」
「ああ……だんだんね」
どれくらい戦っていたのだろうか。どうやら私の体もだんだんと疲労してきたらしい。なお、体だけではなく心も疲労してきている。
「どうですか?もしも私に権限を下さるのならば、別に貴方をどうこうすることはありませんよ?」
「………は?」
「?」
「お前、今まで節操なく地神を喰ってきたんじゃないのか?」
「いえいえ。そんなことはありませんよ。私が今まで取り込んできたのは、あくまで自己中心的で人間たちを苦しめる地神だけです」
「……」
「ああ。ですがもちろん、私は正義ではありません。相手が力を振り翳しているからといって、私が相手を力でねじ伏せて良いというものではないです。そこは勘違いのないよう」
「そう……か」
男は微笑みながらも真剣な顔でそんなことを言う。
例えそれが建前だったとしても、それが言える時点でもう終わりだ。
やはり私の感覚は間違っていなかった。
「しかし、だんだんと私は強い相手と対峙するようになりましたが、ここまで意思疎通ができる相手は今回が初めてでした。今まで会った地神たちは、力は持っていましたが、ほとんど意思疎通の取れない者たちばかりでしたから」
「……まぁ、確かに、下位の地神はそこまで意思疎通は取れないな。私も何を考えているのかよく分からない」
「どうですか、私にかけてみませんか?」
「かける?」
「貴方はおそらく、SFが好きなのでしょう。でしたら、私が神になったら好きに街づくりをさせてあげますから、権限をください。その方が自由に動けます。不必要な管理業務も要らなくなりますよ」
「………はぁ」
私は地神として、この地域全体をずっとモニター越しに管理してきた。長い年月神としてやってきた経験が、私に「心も強い」のだと勘違させていたことを、今日何度理解させられれば気が済むのだろうか。
「貴方は『緑の地神』。本来は自然を支配し、管理する神ですが、それもあって憧れがあったのでしょう。違いますか?」
「……まぁ、否定はしないよ」
「貴方の作り上げたロボットたちは非常にユニークです。彼女らは人間のように豊かな感情を持っていて、まるで私が人間ではないかのようでした」
「こいつ……」
「しかし、近未来都市を作るにあたってのデザイン、意匠面だけは課題があります。私の友人にデザインが得意な人がいますから、彼にでも教わってください」
少しむかっとはしたが、セリに全く悪意がないことは明白であり、これ以上何かあっても仕方ないことは理解した。
「………はぁ……じゃあ、もうそれで良いよ」
***
「御形くん。ついにやりました。かなりの権限を手に入れましたよ」
「良かったな」
「ということで、あれをやっても良いですか?」
「ああ。約束だからな」
「感謝します」
力を手に入れた私は、ついに御形くんを不死にすることに成功した。
今まで(基本死ぬようなことはないであろうが)念のため御形くんが死なないように少し気にしながら活動をしていた。本来彼に任せるべきである仕事も、無理やり私がやることもあった。
寿命という尊いものを彼から奪ってしまったことは倫理的にはよくないことなのかもしれない。しかしながら、私は彼が共に生きてくれることを望んでいた。そして、優しい彼は私の意思に応えてくれた。彼は私の我儘を、いつも真剣に聞いてくれる。1つ1つ、丁寧に、それが適切なのか、真剣に考えてくれるのだ。
私は基本的に他人を完全には信用していない。人間という生物は、無条件で信用すべきものではないからだ。ただ、思えば私は御形くんと菘のことだけは無条件で信用していた。なぜ私の中でそのような差があるのか、全てを文章化することはできない。
「ただ、あれか。人を不死にすることはできるが、まだ死者の完全な蘇生はできないのか」
「そうなんですよね。やはり世界全体を支配する神の権限ではないと難しそうですねー」
「はぁ……長い旅になりそうだな」
「そうですねー」
「まぁ、気長にやるか。せっかく死ななくなったことだしな」
お読みいただきありがとうございます。次回は番外編です。




