第23話:彼の言葉は人工知能のようで
第23話です。
「……廊下?」
「どうやら、銃を乱射されて視界が遮られていたときに、この扉が開いたみたいですね」
「……どういうことだ?」
何故か先程まで開く気配のなかった扉がしっかりと開いていた。これは入って良いと受け取っても良いのだろうか?
「入りましょうか。せっかくです」
「あぁ……」
腑に落ちないが、結局のところ俺たちにできることは前に進むことしかなかった。
ちなみに扉の先の廊下は、今度は大理石のようなタイルが貼られた空間だった。これはクォーツか、セラミックか。綺麗ではあったが、これも街の道路だと思うと落ち着かない。もはや家の中なのか、街の中なのか、全く分からない。
「お、あのドアは開きそうですよ?」
「……」
廊下は真っ直ぐ、100mほどだった。
ただ歩くにしては少し長い距離だ。前と後ろ以外タイルが貼ってある壁と床しかないから、とてもつまらない空間と言える。正直、この建物?からはセンスは感じない。
「開けますね」
廊下の奥にあったドアは、初めてのガラスドアだった。曇りガラスになっていて、向こう側は見えないが。
「おや?」
「………ようこそ」
「こんにちは」
ドアの先には1人の人間がいた。その人物は、この無機質すぎる空間には似合わない、人間らしさのある人間に見える。
もしも俺が、芹の影響で散々地神たちをこの目で見ていなかったら、その存在が人間の肉体と心を持った別の生命体であることに気づかなかっただろう。
「あなたがこの国を治める地神ですか?」
穏やかに質問する芹には余裕があった。余裕だけで言えば、芹の方が目の前の神よりもあるだろう。尤も、芹が動揺している姿など見たこともないが。
「……ああ、そうだとも。知っているなら、上から見下ろすのはやめないかい?」
「おっと、それは失礼しました。少ししゃがみましょうか」
芹は少し膝を降り、まるで子供の話を聞く時の大人のように、椅子に座っていた地神と顔の高さを合わせた。
「お前……頭おかしいんじゃないか?」
「おっと、何か間違えましたか?」
「全てを間違えているよ。お前は」
「そうでしたか」
場の緊張感が増した。少しでも何かあれば、爆発しそうだった。
「ああ、そうです。言い忘れていましたが、私は貴方に会いに来たのです。国単位を治める地神である、貴方の権限が、私は欲しい」
「…………本気で言っているんだな」
「ええ。本気です」
「それが、私を完全に敵に回す発言だと、理解しているのかい?」
「そうですね。理解しているつもりです」
「そうか……なら、早く消えてくれ」
「おっと」
一瞬、部屋が光に包まれて何も見えなくなった。俺は目を覆ってダメージを防いだが、光が元に戻り、目を開けると、目の前で芹の体にに大きな穴が開いていた。
「芹!」
「ああ、御形くん。私は別に大丈夫です。御形くんは念の為、自分を守れるようにしておいてください」
芹は体に大きな穴が開いているというのに、全く心配している様子はなかった。
そして確かに、その大きな穴は数秒ごとにだんだんと塞がってきていた。
「避ける気もないのかい?」
「そうですね。今のは避けなくても問題ないと思いました」
「そんなにでかい穴が開いていたら、痛いだろ。お前は痛みを感じたいのか?」
「そんなことはありません。ただ、幸いなことに私は体が「痛み」を感じていることは理解していますが、逆に言えばそれ以外に特に思うことはないのです」
「お前は何を言っているんだ。本当に理解できない」
「まぁ、他人を理解するのは難しいですから」
少し長々とした互いに一方通行の会話が行われたのち、ついに椅子から立ち上がった地神は懐からリモコンのようなものを取り出した。
「お前と話していると、何故かイライラする。目指していたものを見せられているようなのか、分からない。ああ、そう………お前と話していると、人工知能と話しているような虚無を感じるんだよ」
地神がリモコンを押すと、タイル張りの部屋の床が一部変形し、下からロボットが2体現れた。
そのロボットたちは、先ほどの掃除ロボットのように人間とほぼ変わらない姿をしていた。俺が2体をロボットだと分かったのは、最初の動きに僅かな違和感があったからだ。
「P、Q、あいつらを殺せ」
「………!」
「うおっ!?」
ガンッという音が響いた。俺は思わず声を出した。
ロボットのうち1体が、俺の目の前まで1秒未満で迫り、その右手の拳を俺に突きつけていた。
「………?」
「危な……」
俺はその拳を間一髪で受け止めた。拳はその体格からは想像できないほどの威力を持っていたが、幸いなことに俺でも受け止められる程度だった。
「!!!!」
「……ちっ!」
ロボットは何も話すことはない。口のようなものはついているが、意思疎通をする気はなさそうで、何度も何度も俺に向かって拳を放ち続けた。
(まずいな……この調子だと芹の方を見ることができない)
思ったよりは対処できている。ただ、他に意識を向けるほどの余裕はない。芹は死ぬことはないだろうが、この調子だとあいつは穴だらけになっていてもおかしくない。
「……しかし、こんな最新鋭っぽいロボットが、ただの拳の連打か!!」
「!!!!」
俺はとりあえず、拳の連打を止めるべく、より早く動くことにした。体を無理矢理にでも動かして隙を探す。目の前の存在がAIロボットである以上そんなものはないかもしれないが、それでもその想定外を探す。
そして1分ほど経ったのちに、俺は1つこいつの弱点を見つけた。俺は躊躇うことなく、全力でその弱点を狙った。
「………ガア!?」
「終わりだ」
息を切らしたのは久しぶりだった。この後、また違う敵とすぐに戦わなければならないと思うと嫌になってくる。
「………芹」
***
「……大穴が開いてるじゃないか」
「そうですね。思ったよりもこの方の攻撃の威力が強かったようで」
「本当に……少しは痛がったらどうだ?苦しんだらどうだ?」
「痛いと体は思っていますよ、きっと。苦しいとは思いませんが」
「気持ち悪い。本当に」
目の前の男は、自身の体がボロボロになっても何も気にしないかのように佇んでいた。
冷静に考えて、この男は常軌を逸している。
最新鋭の戦闘ロボットに襲われたこの男は、その攻撃を避けるわけでも、受け流すわけでもなく、ただ自身の体で受け止めた。
拳によって自身の胸のあたりに大きな穴が開いたが、こいつは特に苦しむことなくロボットをそのまま抱きしめた。そしてすぐさまロボットの体に何かを打ち込んだ。その結果、何故かロボットはその場に倒れたわけだ。
「私もこれまでにかなりの権限を獲得しました。ですから、ロボット程度では私を止められませんよ」
「……そうかい」
私はリモコンを床に放り投げた。隣で戦っていたもう一つのロボットも倒されたからだ。せっかく最先端を求めたというのに、結局何の役にも立たなかった。
「私の目的はロボットではありません。先端技術でもない。先端技術はすきですが、少なくともこの場にあるものと私が欲しい技術は関係ありません。この場において、私が欲しいのはただ一つ。貴方の持つ権限だけです」
私は本気を出すことにした。ただの人間相手に本気を出すなど恥でしかないが、そうしないとまずい様に思えたからだ。
目の前の人間は、正しさを疑うことなく、何も躊躇うこともなく、私を取り込もうとしていた。
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