少年編その1
皆様大変お待たせいたしました!
「うわぁ。人がいっぱいだねぇ」
「いや、別に何時ものことだろ?」
剣聖を目指す少年少女達は皆剣学校を目指すのだ。今日はその剣学校の入学式で、場所はその剣学校そのものなのだ。つまり、人が多く感じてもそれは別段おかしいことでも何でもないのだ。それに―――、
「確かにそうだけど、外から見ているのと自分が当事者になるって何か違う感じがしない?」
「まぁ、そうだな」
そう、今年に限っては自分達もその一員なのだ。ローズに言われてみて初めて気づいたが、確かに外から見ているのと実際に当事者になるのとでは大きな違いを感じる。
しかし、それだけではあるまい。合計で四つある剣学校の中でも、実はこの東部の街の剣学校だけは少し事情が違っていたりする。
本来、剣学校そのものに大きな違いは無い。北部の街の剣学校に行こうと、南部の街の剣学校に行こうと、学ぶ内容は変わらないし、それを教える教師も一定の期間毎に少しずつ入れかわる。要するに、どこの剣学校へ入学しようとも大きく変わることはそうそう無い。
「今年はあの剣王が育った時の講師が丸々揃ってるからな。他の街からわざわざ習いに来ている奴とかいても驚かねぇよ」
十連擊の剣王が育った環境と全く同じ環境と言ってもおかしくはないのだ。どこで習っていても同じと頭では解っていても、貪欲に他の街から習いに来る人間がいたとしてもおかしくはないだろう。
「どうした? ビビったか?」
俺の言葉を聞いてから黙りこくっているローズに声をかけてみると、なんと震えていた。あの男勝りのローズでも、強いやつが集まって来るって聞くと恐れが勝つらしい。そういうところだけは女っぽいと認めてやっても·······、
「ってことは、このソーディアから強くなろうって人は皆ここに来るって事だよね! くー! 燃えてきたー!」
訂正。やっぱりコイツは女なんかじゃなかった。怯えていたなら兎も角として、ただただ武者震いしてただけかよ。。。
まぁ、何時か剣聖になるのならローズ含めて何れ倒さなくてはいけない敵なのだ。ローズくらいの考え方でいいのかもしれない。
俺とローズはこれから始まる訓練に胸を高鳴らせるのだった。
学校に入学してからの三ヶ月は基礎の身体作りと素振りや型等の訓練を行うことになった。
最初にそれを聞いた時には身体作りは兎も角として、型や素振りなんかがなんの役に立つのかと、バカにしたものだったが、これが意外とバカにできない物だった。
幾度も幾度も指摘され、素振りのフォームを確りとしていく度に、自分が振っている剣が面白いくらいに重くなっていくのだ。
それが、毎朝行っているローズとの模擬戦の結果にも現れている。今迄は五分五分くらいだった戦績も、今では俺が八割勝ち越すくらいだ。
今迄は拮抗していたはずの鍔迫り合いが、今ではローズが一方的に押されるようになっているのだ。ローズも負けじと型を使って応戦してくるが、大概の試合剣の重さで押しきって勝つことができた。
ローズは負ける度に悔しそうな顔をし、二割の勝った時にはとても嬉しそうな顔をする。
そうして勝った負けたを繰り返していく内に、遂に望んでいた授業が始まった。連擊の授業である。
「連擊は、マスターすることができれば如何なる劣性の試合でも、ひっくり返す事ができる······そう言われているが、決して誇張でもなんでもない。そもそもの話、連擊を使えるものに対して、連擊を使えないものは八割がた·······いや、九割は勝てない」
先生の言葉にクラス中が息を飲む。
「何故ならば、連擊はマスターすれば、どんな体勢であろうと言霊一つあれば発動し、通常人間の出せる速度を越えた攻撃を繰り出すことができるのだ」
そう、俺はテレビで何度も見たことがある。体勢を崩して倒れ、後はトドメを刺されるだけだった筈の剣士の体が急に跳ね上がったかのように対戦相手に襲いかかる姿を。
「更にその攻撃の重ささえも人の力を越えた物となる。連擊を使えない剣士が連擊を使える剣士に九割勝てないと言われるのには、こうした理由がある。つまり、連擊を使われれば、連擊を使えないものは防ぐことが出来ないのだ。達人などであれば、連擊が来る前にその予兆を察知し、完全に範囲外へと脱出することで連擊終わりの隙を狙うことで勝てるが、それ以外であれば勝つことは出来ない」
先生の言葉が終わった瞬間、クラスの男が手を上げる。
「先生。話の中で連擊を使えない者はと言われましたが、それはつまり連擊を使える者になら連擊は止められるということですか?」
男の質問に先生が頷く。
「勿論だ。連擊は連擊でなら止めることはできる。連擊の性質として、軌道が決まっている事と、誰が放っても威力は同じであることがある。つまり、理論上相手の言霊に合わせて発動させることができれば、同じ軌道上を描くため、相殺はできる······ちなみにだが、剣聖杯に参加する人間は皆これが可能だ」
そう、だから剣聖杯は人気なのだ。お互いがお互いに連擊を繰り出し、それを連擊で防ぐ。
倒れても、体勢を崩されても、かちあげられても、次の瞬間には剣を振るっている。その人間離れした姿が人気を呼ぶのだ。
「それではこれから一つ目の連擊。一閃を実演する。連擊に関しては剣士によって相性があり、使用できる連擊は人によって違うが、この一閃に関しては誰でも使用が可能となっている」
先生はそこで言葉を止め、剣を木の的に向けて構える。
「一閃」
先生が呟くと同時に、先生の体がブレ――木の的が切り落とされる。
「では、各自的の前で練習すること」
先生の言葉と同時に俺達は各自的の前に立ち、叫ぶ。
「「「「「一閃!」」」」」
それと同時に俺の体が勝手に引っ張られ、剣を振りきる。俺の剣は、一抱えほどある木の的をまるで抵抗も無く切り捨てた。
「ほぉ、最初の一回からやりおったか。今年は中々優秀な者がおるの」
先生の言葉に周りを見回すと、目の前の的が切れていたのは、俺とローズだけで、他の皆は微動だにしていない、もしくは剣をただただ的に当てているだけだった。
次回、もしくはそのつぎ辺りは別視点でのお話を入れてみようかなぁなんて考えていたりします。
ゆっくりと書いていきますので、応援よろしくお願いいたします。