第1話 ジェヴォーダンの獣
「ジェヴォーダンの獣?」
「あぁ、最近、都で度々目撃されてる」
「なにそれ、知らない」
「正体不明の獣だ。オオカミのような見た目で、大きさはそこらの家畜種の竜よりデカい。女性や子供ばかりが被害に遭ってるらしい」
「へぇ」
帝都南端に存在する穂住町。そこのレストランで働く奈都は、大志の話を興味深そうに聞いている。
一方の大志は、果汁30%の薄いオレンジジュースを啜っていたストローから口を放すと「へぇじゃなくて」と続ける。
「奈都も気をつけておいた方がいい」
「えぇ〜、私は大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないだろ」
「だって、私、正確には女の子じゃないし……」
肩まである栗毛色の髪。涼しげな目元に、薄い唇。丈の長いスカートを着こなす男。
所作や話し方は女性的だが、声も体格も男のもので、初見の客はギョッとしている。
それを気にせず二人掛け用のテーブルを挟んで座る二人は、一見ひと組の男女のようであった。
「なに言ってんだ、お前はちゃんと女だろ」
「う、うん」
「じゃあ気をつけろって言ってるんだ」
「……ありがと」
「今、お礼されるような場面だったか?」
「細かいことは気にしないの!」
顔を真っ赤にしてはにかむ奈都に、大志は首を傾げる。
照れ隠しで、奈都は目の前に置かれたジュースに口を付けた。それを飲み干すのを待ってから、大志は席を立つ。
「なにかあったら俺がいる交番まで来てくれていいから。でも出動とかしてると留守だったりするし、緊急の場合は店長さんを頼った方がいい」
「大志のとこに行く!」
「え、まぁ、いいけど」
「ひっでぇな奈都ちゃん。俺のことも頼ってくれよ」
「あ、轟さんのことを信頼してないとかじゃないですよ⁉︎」
「わーってるって」
この店の店長である轟は、豪快に笑った。見た目のゴツさのわりに気さくで優しく、人格者として近所でも評判の男だ。
大志たちのテーブルに店自慢のパンとジャムの入った袋を置いてから、ニカッと笑って大志を見た。
「大志、今日もお勤めご苦労さん」
「店長さんこそ、お疲れ様です」
「最近は反乱軍やら人里に降りて来た獣やらで不穏だけど、大志も十分気をつけろよ」
「はい、もちろん。あ、パン、ありがとうございます」
丁重に頭を下げる。真面目で律儀なその態度に、轟は笑ってしまった。もうそこまでかしこまる付き合いでもないのに、と。
大志は差し入れのパンを持つと、爽やかに笑って轟を見上げた。
「いつもご馳走さまです」
「親がいなくても頑張ってる姿見てるとな、どうしてもお節介焼いちまう」
「お節介だなんて、本当に助かります」
もう一度頭を下げてから、大志は奈緒を促す。
「帰り仕度して来いよ。送って行くから」
「まだ八時だよ」
「さっきの話、聞いてたか? 早めに帰った方がいい」
それに奈都はムッと唇を尖らせた。
「……やっぱり大志、女心がぜーんぜんわかってない!」
「なんだよ急に。悪かったな鈍感で」
「大志なんて置いて一人で帰るもん」
「南端とは言え、帝都は反乱軍の活動で治安が悪くなってきてる。女が一人で歩いたら危ないだろ、送ってく」
「……うん、すぐ用意してくる」
最後の言葉に、奈都は顔を真っ赤にして嬉しそうに瞳を細める。だけどその顔を見られたくなくて、俯いた。誤魔化すようにさっさとロッカールームに向かう。
その背中を見送っている大志の肩に、轟が手を置いた。
「タラシめ」
「え、なにがですか?」
顔馴染みのスタッフや常連の客と話していると、奈都が荷物を持って戻ってくる。
二人で軽く挨拶をして、並んで店を出た。奈都が借りているワンルームのマンションに向かって歩き出す。
大志たちが就職と共に上京したこの町は、帝都とはいえ中央のような煌びやかさは無い。質素で落ち着いた雰囲気の町だ。
反乱軍が度々事件を起こすのはもっと中央の方だが、たまに物流が止まったり店に出す品が道中で盗まれたりと、煽りを食う程度だった。
それが原因の一つなのか、最近は昔に比べて町の様子もピリピリしていると実感している。
帝都は、この国で一番の権力の街。
進化し過ぎた武器、核兵器の使用、水の奪い合い。様々な要因が重なって、第四次世界大戦で文明社会は崩壊した。
核戦争や生物兵器の影響か、急激に変化した地球環境に新たな生態系が生まれる。人類は食物連鎖の頂点ではなくなり、さながら原始時代並みの弱肉強食の世界が再び訪れた。
生き残った僅かな人類を率い、残った知恵と技術で国を再建したのが初代皇帝だ。
現在は64代皇帝が玉座に着き、権威を振るう本拠地としている。皇帝の威光は世界崩壊後、今尚衰えることはない。
そして膨大な広さを誇る帝都は、裕福層から貧困層まで様々な人間が集まる。帝都の中心には皇帝の居が構えられ、それをぐるりと囲むように貴族、領主、領民とそれぞれの階級に見合った住居で生活していた。
そんな世界で、わりと底辺クラスの生まれだと自覚している大志は、今は警察という職にも就き安定した生活を送っていた。
この安定が続けばいい。最低でも自分が生きているうちだけでいいからと願いながら、大志は街の様子をそれとなく見る。
商人や仕事帰りの農民、飲みに繰り出す人々でそれなりに賑わっている。
チラリと日本刀の小尻が見えて、大志は勢いよくその持ち主の顔を見た。
人混みの隙間から見えた人物は女性で、大志は呼吸を落ち着ける。心臓を正常な早さに戻すように細く息を吐いた。
危険生物から身を守る為に、一般市民の武器の携帯は認められている。日本刀を所持している人間なんて何万といるのに、大志はこうしていつも反応してしまうのだ。
そんな大志の様子に気づいているのかいないのか、奈都が明るい声で話を振る。
「今度、サーカスが隣町に来るんですって、大志も一緒に行くでしょう?」
「あ、あぁ、そうだな」
「楽しみねぇ。娯楽が少ない町だからみんな大はしゃぎよ」
「お前は、はしゃぎすぎて怪我するなよ」
「そんな子供じゃありませんー!」
慣れた道を、雑談しながら歩いた。平和な一日の終わりの時間。
「大志、明日もお仕事?」
「あぁ。いつも通り交番にいる」
「そっかぁ。じゃあ、帰ったらゆっくり休んでね」
「あぁ」
女の子より女の子らしく笑う奈都に、大志も笑って返した。本当に、あと少しでいい。心の中ではそう願いながら。
奈都が笑って、幼馴染が元気で、自分も元気で、それだけでいい。
本当の自分を知ったら、上司は怒るだろうか。頭の隅の隅ではそんなことを考える。
「大志、テメーこの野郎。どういうことだ」
翌日、交番に出勤すると上司である佐江島巡査部長が怒っていた。
何事だと大志が荷物を置きながら事情を聞くと、佐江島が大事に上着に隠しておいたタバコが失くなったというのだ。
そんなことで、しかも人を犯人扱いしないでくれという意味を込めて溜め息をこぼす。
「知りませんよ」
「あれはなぁ、俺の少ない小遣いで買った大切なタバコなんだぞ! 窃盗の現行犯逮捕だ!」
「だから知りませんよ、現行でもないし。というか、禁煙なさってたのでは?」
「おう! カミさんの前ではな!」
「なるほど、正確には禁煙してなかったと」
「だってアイツ、体に悪いって怒るんだもんよ」
「いい奥様じゃないですか」
「でもニオイでバレる」
「当たり前ですね」
どこまでも冷静に返してから、大志は奥の部屋で制服に着替える。
警察の証である紺色のスーツを羽織り、交番の前に立った。ちょうど通った初等学院の子供たちが元気よく挨拶をしてくれる。
「ぶちょー、タイシくん、おはようございまーす!」
「おう、おはようさん。気ぃつけていくんだぞ」
「おはよう。今日もみんな、元気でいってらっしゃい」
「はーい!」
手を振って駆けていく子供たち。
大志もにこやかに手を振り返してから、街の様子を見た。
朝市帰りの農家が軽トラックに乗って帰っていく。その道の端では主婦たちが井戸端会議をしていて、衰えた足をゆっくり動かして犬の散歩をする老人。
田舎特有の、ゆっくりと始まる朝の光景だった。
「あ、大志! タバコ引き出しに入ってたわ! そういえば上着じゃカミさんに見つかると思ってここに隠し場所変えたんだった、はっはっはっ」
「よかった、二度と人を疑おうなんて考えてはいけませんよ?」
さっきまで人を疑いの眼差しで見ていたくせに、そんなことを綺麗さっぱり忘れたように晴々しく笑い飛ばす佐江島。大志は慣れたように笑いこの話を終わらせた。
態度はこんなであるが、大志は佐江島のことは頼りにしているし好ましく思っている。気の良い近所のおじさんのような、親しみやすい上司だ。佐江島自身も大志を本気で犯人扱いしていたわけではなく、スキンシップの意味が強い構いたいが故のふっかけだった。
近所の人も笑って見ている。
騒ぐ佐江島に冷静にツッコム大志のやり取りは、近所にとっては名物のようなものだった。
「相変わらず賑やかな交番ね、大志ちゃん」
「これ、お昼に二人でどうぞ」
「わ、ありがとうございます」
「いつも悪いなぁ」
口元はまだ笑いながら、主婦たちがパンや果物を大志に持たせた。
大志は嬉しそうに眉を下げて笑う。同じ年頃の子供を持つだろう主婦たちは、いいのよいいのよと他にもいろいろと手渡した。「大志ちゃんは素直に喜んでくれるから、あげ甲斐がある」とは主婦が口を揃えて言うことだ。
近所の評判も良く、好かれていて、真面目に働く十七の若いお巡りさん。それが大志の評価であり事実である。
わいわいと世間話に興じていると、ざわっといつに無い空気が漂った。
「おい、あれ見ろ、グリーン・バッジだ」
行き交う町人が、次々に足を止めて視線を送る。
大志も思わず、同じ方向を見る。昼間の賑わいの中、注目を浴びる黒い集団。
堂々とした姿勢で歩く、軍組織の中でも異彩を放つ特殊部隊。危険生物の討伐や未開の地への介入、もちろん反乱軍との戦闘など、幅広く活躍している。
帝国の建国時から皇帝の配下としてその力を捧げてきた、名称を『特殊技能保有戦闘員』。
通称・グリーン・バッジ。
黒いスーツの中、胸に光る金色のバッジ。それが証だ。直径約一センチほどのそれには、帝国の紋である双頭の竜が彫られている。
彼らを見る街の人々の視線は尊敬、羨望、畏怖と様々な感情を表していた。
「お疲れ様です」
グリーン・バッジが交番の前を通り掛かる時、佐江島が敬礼で迎えた。
大志も倣って頭に手を持って行く。
すると彼らは立ち止まり、体ごと佐江島たちに向き直る。
「お疲れ様です」
先頭を歩いていた男が返礼をし、それから続けた。
「昨夜、隣の飯戸町で獣が目撃されました。十分お気をつけください」
「はい、そちらも」
人当たりの良い、大柄な男。いかにも軍人然とした風貌である。
この中では一番階級が上なのだろうと大志は直感した。ただ単に歳が一番上そうだからという安直な判断であるが。
「我々は皇帝陛下の命で、目撃情報のあった町の周辺を見回っております。何かありましたらご一報ください」
「承知しました」
佐江島と軍人の男が暫し情報交換をしている横で、大志は手持ち無沙汰を誤魔化すように視線を巡らせた。
その視界の端に、チカリと光が反射する。
反射的に光源の方を見た大志は、おぉ、と感嘆の息を吐く。
そこには予想もしていなかった美青年が立っていた。
まず目がいくのはなんと言っても、光を受けて輝く銀髪だった。太陽光を含んでいるのではと思うほどに眩しい。その隙間には、深い海のような青い瞳が覗く。
適度に焼けた肌、長い手足。スラリとしたスタイルはただの黒いスーツをスタイリッシュに見せる。瞳と同色の青いシャツもよく似合っていた。年齢は大志とそう変わらないように思える。
十人いれば十人が美形だと答えるだろうその人は、グリーン・バッジの集団の一番後ろで気怠そうに立っている。
その様すら絵になって、大志は感心した。
こんなに整った顔立ちなら他に道もあっただろうにとすら考える。
そこで美青年と目が合った。
敬礼もしたし顔見知りでも無いし、目が合っただけで話しかけるのも馴れ馴れしいかと思って、大志は軽く頭を下げた。
すると、美青年も少し頭を下げる。それに応じて、絹糸のような髪がさらりと落ちる。
大志の横にいた主婦たちが興奮したようにヒソヒソと囁く。洗練された雰囲気の都会の男に、田舎の主婦たちは向こう一週間分の話題を手に入れただろう。
「それでは我々はこれで」
「はい」
最後にそう言い残して、グリーンバッジは再び歩き出す。
その際、彼らがショルダーストラップで担いだ重そうな武器を、大志はじっくり盗み見る。
長さがあって、横幅と厚みはあまり無い。ヴァイオリンなどを入れるケースに似ている。
一見鉄製のようにも見えるが、話によると最近では竜の皮膚を素材に使っているらしい。
彼らだけが使うことを許され、彼らしか使えない、この世で最も優れていると言われる兵器。
あれが使われるところを見てみたいとも思うが、まぁそんな機会は無いだろうとすぐに興味を無くす。
銀髪が遠くで光るのをなんとなしに見てから、大志は佐江島と共に交番の中に戻った。
「おーい大志、茶でもしばこうぜ。緑茶と麦茶どっちがいい?」
少し前まであんなに真面目な顔で話していた佐江島は、途端に気安い近所のおじさんみたいな表情でお茶っ葉を二つ手に取る。
「佐江島さんのお好きな方で」
「ビールかなぁ」
「言うと思いましたよ」
笑い合う。いつもと変わらない日常。
このまま獣はこの町には現れず、いつものように迷子と酔っ払いの相手をする。そうして夜は奈都を迎えに行って、また明日が来る。
大志がなによりも正解だと思う、なんて事のない生活。
だけどなんて事のないものは、あっさりと危険にも晒されてしまうらしい。
そんなの、目の前で初恋の人が殺された時点で、彼は知っているはずだった。
「きゃあああああああぁぁぁぁぁ」
悲鳴に反応して、大志と佐江島はすぐに動いた。
交番から飛び出して、おおよその勘で声の方へ走る。商店が並ぶ通りで、女性がへたり込んでいた。
「どうしました!」
佐江島が駆け寄って女性を支えると、女性は「あ……ぁ……」と震える唇を必死に動かす。
大志と佐江島は一気に緊張感を高めた。
「引ったくりよ!」
「は……」
わっと泣き出す女性に、思わず二人は気の抜けた声を出す。
それを敏感に察知した女性が佐江島の両腕を掴んで勢いよく揺らした。
「なによその反応は! あのカバンには今月の生活費が入っているのよ!」
「いや、そうだよな、引ったくりだって重大な事件だよな。すまん、獣の話を聞いたばかりだからよ」
佐江島が慌てて詫びを入れる。
獣の話を聞いたばかりの警察官二人は、勝手にそっちの方向で考えていた。しかも、あんな必死な悲鳴を聞いてしまえば尚更。
佐江島はこれ以上女性を興奮させないように、努めて穏やかな声を出す。
「引ったくり、どっちに行ったかわかる?」
「あっちよ、黒い帽子を被ってたわ!」
女性が指差すのは、人通りが多い商店街の先。
よくよく目を凝らせば、こんな田舎町でいかにも怪しく全力疾走している背中が小さく見える。
「よし大志、行ってこい。こういうのは若いのの仕事だ」
「え、佐江島さんは行かないんですか?」
「オメーなら大丈夫だろ。多少手荒でいいからよ。俺は心が傷付いた女性を助けるっていう重要な任務がある」
「奥様に言っておきます」
「絶対やめろよ⁉︎」
「では行ってきます」
「聞け!」
大志は走り出す。
この距離ではもう追いつけないのではと思えるが、犯人は出店や人の障害に苦戦している。
その内に、大志はぐんぐんとスピードを上げた。
ひょいひょいと人を避けて、あっという間に犯人との距離を縮める。
「そこの黒い帽子の男性の方、ちょっと止まってください」
なるべく手荒なことはしたくないので、大志はその背中になるべく優しく声を掛けたつもりだ。
「止まってください」
だが犯人の方は無視を決め込む。脇にはいかにも女性物のカバンが抱えられている。
「これ以上無視するようであれば、強硬手段に出ます。最後の警告です、止まりなさい」
それにもいっさいの反応を見せず、犯人は逃げることに集中している。
大志は仕方ないと息を吐いてから、スピードを上げた。
ぐんと追いついて、犯人の襟首に指の先を引っ掛ける。そのまま後ろへ引き倒す勢いで投げた。
バランスを崩した男は腰を地面に打つ。だがすぐに立ち上がって、頭に血が上ったのか逃げるのを優先しようとしたのか、盗んだカバンすら投げ捨てて大志に向かった。
「この……!」
固めた拳を大志に振り切る。
が、大志はその拳を両手で捕まえた。無防備になった脇腹に膝蹴りを入れる。
すると犯人は痛みでふらついた。体重が乗っている方の足を見極めて足を払う。
腹ばいになって倒れた犯人の上に乗って体重を掛ける。両腕を拘束して、腕の時計を見た。
「午前十一時十二分。窃盗の現行犯で逮捕」
大志の下で、犯人は諦めたように体の力を抜いた。
「さすが大志!」
「かっこいいぞー!」
「お手柄だねぇ」
捕り物の一部始終を見ていた住民たちは、次々に拍手や歓声を飛ばす。
大志はそれに照れくさそうに一礼をしてから、犯人に手錠を掛けた。
交番まで犯人を連行し、電話で本署からパトカーを要請する。
本署の警察官に犯人の身柄を明け渡して、引ったくりに遭った女性に簡単な聴取をしてからカバンを返して解放した。
そうしてまた平和な町に戻る。佐江島は久しぶりの犯人逮捕に、満足そうに笑った。それから大志の頭を乱暴に撫でる。
「よくやった、俺の教育の賜物だな!」
「そうやって全部自分の手柄にする姿勢、俺も見習いたいです」
「おう、存分に俺から学べ!」
「………」
屈託無く笑う佐江島に、大志も何だか安心して笑う。
上司はいい人だし、近所の人とはそれなりに上手く付き合えていて、町は平和。大志が心から安らぎを感じる場所。
さて、次こそお茶を飲もうと佐江島が茶葉に手を伸ばした時。
「ジェヴォーダンの獣が!」
駆け込んできた市民。途端に騒めく町。嫌に鳴る心臓。
__あぁ、もう、なんでだよ。
ある種の苛立ちすら感じる。問題なら他で起こせと。
佐江島に「大志、ボサッとしてんな出動だ!」と叱咤され、大志は腰から銃を抜いて走った。