川田巡査の日常
三
「おかしいな…」
おまわりは首を傾げていた。
「どうしたんです?凡田警部」
「いや、この少年なんだが…てっきり酔っぱらいか変質者だと思って通報があったんだが、どうもそうじゃないらしいんだ」
少年…?
川田巡査は周りを見回した。尋問を受けているはずの少年がどこにもいない。
「警部、その少年というのは」
「あ、ああ。容疑も晴れたし、家に帰したよ。最近暖かいからな。変な気分にでもなったんだろ」
「名前はなんて言うんですか?」
「素面しらぞう…だと思う」
川田は呆れた顔で尋ねる。
「だと思うって…ちゃんと尋問したんですか?職務怠慢ですよ」
居場所の悪そうな凡田は持っている定期券を渡した。
「なんというか…我々の管轄ではない気がするんだ。彼は、多分極度のコミュニティ障害だろう。会話が成り立たなかったよ」
川田はその男に興味を持った。彼には隠している趣味がある。
気に入った美少年を拉致監禁し、自分に従順させるといった変態だった。
彼の職業はそう言った裏の生活を隠すのに都合が良かった。
なかなかそそるな。コミュ症の少年か。
「ちょっと外回りしてきます」
川田の手にはしらぞうの定期券入れが握られていた。その中には運悪くしらぞうの免許証まで入っている。
川田はコミュ症の少年をしらぞうだと思い込んだ。