王様に対面
近頃のイタズラは作りが細かい。
大広間は西洋の教会のように高ーい天井に広ーいホールで、大きな白い柱が左右に等間隔に並び天井へ向かって伸びている。クレマチスさんの後に着いて石の床に敷かれた真っ赤な絨毯の上を歩く。
そして、王様らしき人物が座る荘厳な玉座前に着いた。クレマチスさんは目で私を促し彼女の横に立つ。
ここまで来る建物内も本当によく作られていた。
まるで本当にこのお城の中でお姫様や使用人さんが暮らしているかのような生活臭があり、石の階段に美麗な家具や壷が綺麗に置かれていてメイドさん達が掃除していた。
こんな私みたいな一般人をドッキリに嵌めるだけなのに建物や人間にこんなにお金を掛けるなんて、凄い人気企画なの? それとも金払いの良いスポンサーが番組に付いているのか?
「聖女様」
ビクッ!
カメラを探してホールをキョロキョロ見渡していたら急に王様から声をかけられ驚いた。
「この度は此方の都合で其方のような可愛らしい娘を、断りもなくこの世界へ召喚した事をどうか許して欲しい」
王様はガッシリとした上背があり癖毛の金髪にやや垂れ目の男性で、声は掠れた渋い感じ。大人の男の色気が漂っている。クレマチスさんが王女で王様の娘ってことよね。うん、色っぽい雰囲気が似ているわ。よくこんなピッタリの父娘役の俳優さんと女優さんを揃えたわね。
「しかしながら我等も異界の娘一人に危険な討伐の命を負わせるのは忍びなく、聖女様には此処にいる選りすぐりの精兵と一緒に魔王討伐へ赴いてもらいたいと思う」
王様の言葉と共に玉座下に控えていた男性4人が私の前に並んだ。
左端の4人の中で1番背が高く体格が良い、白い西洋甲冑を身に纏い腰には剣を下げた男性が声を上げる。
「自分はマジョラム国王宮騎士団第一部隊隊長クレストです。
我が身を呈し聖女様の身をお守りいたします。これからよろしくお願いいたします」
ライトブラウンの短髪に赤い瞳。凛々しい眉毛の男らしいクレスト隊長は硬い口調で挨拶した。
ゴツいイケメンさん、強そう〜。この男この役のためにここまで身体を鍛えたのかしら?
俳優さんって凄いわ。
クレスト隊長の隣、銀色の甲冑を着けた男が口の端を上げて言う。
「俺はマジョラム国騎士団第三部隊所属フェンネルだ。
アンタも急に聖女だなんて祭り上げられて戸惑っているだろうが、あまり気負わずに俺らがサポートするから安心してここで暮らしな」
フェンネルさんは長く畝る金髪を後ろで一つに縛り、耳には数個のピアスをしている。チャラい風体だ。あ、クレスト隊長がフェンネルさんを睨んでる。同じ騎士でも彼らは水と油な感じなのね。
フェンネルさんの隣、清楚な空気を身に纏った男性が口を開いた。
「私はマジョラム国国教ベルガモット教司祭のタイムです。
聖女様のお力になれますよう精進いたします」
見たことが無い青色の髪が真っ直ぐ肩上で切り揃えられた理知的なグレーの瞳の男性。身長は4人の中一番低いけれど、それでも160センチの私と比べて10センチ以上は高い。タイム司祭はクレスト隊長やフェンネルさんよりも落ち着いた物腰で癒し系の男性だわ。
そして最後に灰色の長いローブを身に纏いフードを目深に被った男性。
しかし、何故か彼は挨拶を始めない。でも彼のフード越しに視線を凄く感じる。私を凝視しているんじゃないかな?
タイミングを図っているの?
これはいよいよドッキリの大詰めか。
ここまで凝った展開で最後どうやって私を驚かせるつもりなのかしら?
私ここまでほぼノーリアクションなんだけれど、このまま撮影を続けて良いの?
「ハアーーー、ビャクシン。
貴方の番よ。早く聖女様に挨拶を述べて」
クレマチスさんは両腕を組んでイライラしながら男を促すが、それでも男は喋らない。
クレマチスさん以外は皆、フードの男に対して苦い顔をしながら黙って状況を見ている。
と、おもむろに男はフードを外した。
うわ、綺麗!
フードを脱ぎ現れた男の顔はサラサラの長い銀髪に怖いくらい整った顔立ちの中、印象的に青く輝くサファイアブルーの瞳がキラキラ輝いている。まるで昔漢詩の授業で習った美しい湖に浮かぶ月の様なって表現が頭に浮んで…湖…水…あれ?…この人もしかして
「思い出しましたか?」
男は私を見つめ破顔して聞いてきた。
男の眩しい笑顔に目が眩む。綺麗過ぎて冷たい印象だけど笑った顔は明るい。私は頷きながら答えた。
「…え〜と…溺れた私を救助してくれた方ですね。
あの時は助けていただき、ありがとうございました」
私がお礼を言いながら頭を下げると、何故か彼は笑顔でなくなりシュンッと落ち込んだ。
えー? 何か私彼の期待したリアクションを取れなかったようなのですが、全く分からない。
それにしてもこの美形男性は気分が表情に現れるなぁ。
男は暗い顔してハアーと溜め息をひとつ吐くと、気を取り直したかの様に微笑んで言った。
「私はマジョラム国の魔法使いビャクシン。
貴方を守り貴方に付き従い貴方のどーーーーー」
「ビャクシンは国の奴隷なのよ」
ビャクシンさんの美声を搔き消す程の大声でクレマチスさんが私に向かい言う。
「国の奴隷?」
「ええ、そうなの。彼はマジョラム国に鎖がれた奴隷よ。
国の為に魔法を使い、国の為に存在し、国の為に生きる。
このマジョラム国建国以来、マジョラム国に仕える魔法使いよ」
私の隣で色っぽい口端を上げながら堂々と声高にビャクシンさんの紹介をするクレマチスさん。
そのクレマチスさんの言葉を無視して優しく微笑んで私を見るビャクシンさん。
2人に挟まれて居心地が悪いです…このドッキリのオチは何時つくのか? …いい加減帰宅したい。
「聖女様。今、紹介した4人は腕の立つ英雄達だ。
貴方の盾となって魔王討伐に同行する彼らはきっと聖女様の力になるだろう。
聖女様の身の回りは儂の娘クレマチスに任せる。不自由なことがあれば遠慮無くクレマチスへ伝えて欲しい。我等は出来る限り聖女様の待遇は善処していくつもりだ。
聖女様にとっては知らぬ土地での戦いは想像以上に大変だとは思うが、貴方様の力で何卒マジョラム国を救っていただきたい」
ん? 王様が締めの挨拶みたいな事を言い出した。
あれ? ドッキリは? ドッキリはどこ?
王様の言葉に私は返事が出来ず狼狽える。
なんて言うか…皆さん真剣で…演技ではないの?
いやいや、名優さん達の演技を私なんかに見抜けるわけないし。
しかし、一般人へのドッキリの仕掛けにここまで演出するだろうか?
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もしも…もしも…ドッキリで無いとしたら? じゃあコレは何? 何なの?
胸がざわざわと騒ぎ、どう言って良いのか分からないけれど、取り合えず自分の今一番の希望を口に出してみよう。
「あ…あのぉ…ここまできて…大変言いにくいの…ですが…私そろそろ家に帰りたいです…」
ここまで読んでいただき有難うございました。