表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒い奴隷  作者: 渡辺朔矢
7/42

ここは何処?

冬青とうせいそよそよこ23歳。OL。

彼氏いない歴実年齢。

会社の先輩の結婚式から部屋に帰宅すると其処は水中でした。

 

 チラチラと舞い散る…雪?…あ、違うわ。桜の花びらだ。綺麗だなぁ。

 って、何だか 明るい場所なのに、視界が悪い。桜吹雪が舞いすぎ!

 目が全部開けられない。


「ーーーーーー良かった」

「本当にーーーーーこの子なら負けないわ」


 女性の声がする。2人。先輩たちの声では無いな。聞いたことがない声だわ。

 う〜ん、目が開けなくて、姿がはっきり分からない。


「ニャーー、ニャーーー!」


 猫の鳴き声も聞こえる…あー猫好き。触りたいから見たいのに…何で目を全開出来ないの?


「ニャーーー! ニャーーー!」


「ミントさんたら興奮し過ぎよ」


「ーーーまた直ぐに会える時が来るからーーー」


「ニャーーーーーーーーー!」


 猫がすっごく鳴いていて女性2人が私の側にいるのを感じる。女性達は誰なのかしら?


 ええ? さっきよりも桜の花が沢山落ちて来て凄い! これは桜の雪崩だわ!

 きゃー! 桜の花びらに体を包まれる!


 助けて! って何この状況!?


 いや、私今日は八手先輩の結婚式に行っていたよね。八手先輩の晴れ姿見て楽しかったし、それに人生初、男性からのお誘いを受けて超ハッピーで帰宅したよ。幸せのお裾分け沢山貰った。


 …あれ?… 私、帰宅後どうしたんだっけ?


 急に意識がハッキリして目を開けると知らない白い布の天井が見えた。


 え〜と、此処は何処かしら?

 豪華な花柄のフッカフッカのベッドの上。起き上がって周りを見渡すと高そうな重厚な家具や高級ホテルに飾ってある様な絵画が沢山壁に掛けてある。


 …えええ?…全く見覚えがない。

 此処、病院ではなさそうだし何で私、こんな豪華な部屋で寝ているの?

 ん? …服が…先輩の結婚式に着て行った私のドレスじゃない!

 今まで着た事がない肌触りの良いネグリジェに着替えられている。


「…あ…そうだ! 私…確か…

 家に入ったら…水の中に…」


「ーーー気がついたみたいね」


 声がして見ると目の覚める様な美女が部屋に入ってきた。


 うわぁ、なんて美しいお姫様。

 美女はゆるくウェーブした長い金髪を腰まで垂らし、光の加減で緑にも金にも見える美しい瞳と大きな色っぽい唇。背が高くスリムな身体には緻密な刺繍の施された黄緑色のドレスを着ている。


 美女の後ろからメイドさんが5人、部屋へ入ろうとしたが美女が手振りでメイドさん達を退室させた。


 コスプレ? 何かのイベント?

 それにしても凝った設定だわ。お姫様にメイドさん、それにこの部屋の豪華な内装。人物や建物など全てにしっかりと背景が作られているようね。

 この非現実的な状況は今まで経験した事がない。

 私ってば酔っぱらって映画かドラマの撮影現場にでも入り込んでしまったのかしら?


 美女は首を傾げながら私に近づいて来た。


「美人といえば美人といえなくもないけれど…大したことないわね…」


 私を見つめ扇を口に当て呟いている。丸聞こえなんですけど。そりゃあ、貴女から見たら私なんて普通の見た目だと思います。不細工と言われないだけマシかな。

 しかし凄いなぁ、女優さん? モデルさん? 顔やスタイルが整っているだけでなくて、所作まで綺麗。全身から醸し出される美しさ素敵だわ。

 はっ! 呑気に見惚れていてはいけないかな。


「あの、ご面倒をおかけしてしまいすみません」


 酔って勝手に撮影現場で倒れた私を、目の前の女優さんと部屋の外に居るスタッフさんが介抱してくれたのだろう。


「助けていただきありがとうございました」


 私はベッドから下りて美女へ頭を下げながらお礼を言った。

 すると美女は


「ああ、此方が貴女を呼び出したのだから、貴女がお礼を言うことはないわ」


 と表情無くサラリと返された。


 …?…呼び出しなんて受けた?

 私、タレント事務所や派遣会社に登録した覚えは無いのだけれど。


「貴女、自分が置かれている状況が解っていない様ね。

 説明してあげるから取り敢えず、ベットに腰掛けなさい」


 私は美女に促されるままベッドに腰を下ろす。

 美女は私を見て少し苛ついている様子だ。


(ワタクシ)の名前はクレマチス。マジョラム国の第一王女です」


 ほお、外国名がピッタリの美しい容姿。役の名前かな? それとも芸名? まさかの本名?

 日本人に見えない外見だけれど、とても流暢に日本語を話すから今流行りのハーフタレントかな?


「貴女は異世界よりこの国へ遣わされた聖女様です。

 此処マジョラム国は数年前から魔族の侵攻を受けており、我々人間の住む国土は脅かされているのです。

 どうか聖女様のお力で我々マジョラムの民を救済していただきたいのです」


 …は?…何の話?


「私は第一王女としてこの世界にご滞在中の聖女様の身の回りのお世話をさせていただきます。

 聖女様の身支度が整い次第、城の広間にて我が父マジョラム第14世より魔王討伐の正式な要請を聖女様に受けていただきたくーーー」


 …これって…一般人を狙ったドッキリかしら?

  私、最近忙しくてテレビを見ていないのだけれど、今はこういう手の込んだイタズラが流行っているの?

 ど、どうしよう? どんなリアクションが正解?

 王女様の話に乗っていくのか、聖女役をハッキリとお断りするのか、それとも『これドッキリですか?』と言っていいのか。


 悩む私を尻目にクレマチス王女は扇を勢いよく閉じて鋭く鳴すと、その音と同時に部屋の扉が開き先程のメイド達が手にドレスや箱を持って入室して来た。メイド達は迷いなく私を囲み目線を落としながら私の着せかいを始める。


「え! あの、待って! 肌が見えちゃう、恥ずかしいから!」


 ネグリジェの下には下着をつけていない。服を脱がされるのを必死に拒んでもメイドさんの力は強く、私は背後から羽交い締めにされ抵抗むなしく裸にされてしまった。


「イヤーーー!

 これカメラが何処にあるか分からないけれど、完全に私の裸映ってるよね!

 もう! 止めて! いい加減にしないと訴えるわよ!!」


 涙目で叫ぶ私。

 現代日本において訴えるってかなりの強制力になるはずなのに、メイドさんも王女も無反応でサクサクと私の身支度を行う。メイドさんは私にガーターベルトと腿丈のタイツを装着させ、紐パンを結んだ。


 …うう…プロの手際早い! しかし、恥ずかしい!


「貴女、顔は幼いのに体つきは大人なのね。腰が細いのに胸は大きい。

 でも、大人なくせに体毛が薄いっていうかほぼ無いのね? 不思議だわ」


「ヤダーーー! 王女様! 実況とかしないでぇ。セクハラよ!」


 胸は育乳ブラで体の肉を寄せ集めて盛って作ったのよ! オッパイが大きい方が男性ウケ良いかと思って毎日毎日丁寧に育てEカップになった。ただ、胸が大きいからって恋人は出来ず、痴漢くらいしか寄って来なかった。

 1度コンパで私の胸に興味を持った男性がいて、苣木先輩が『胸もそよ子ちゃんの魅力の1つだし、取り敢えず付き合って見たら? 意外と好きになるかもしれないじゃない』と、次回2人きりで会う事を勧められたけれど、食事中に胸だけを見ながら話してくる男性には嫌悪しか芽生えず付き合えなかったよ。


 大体、クレマチスさんだって芸能人なら永久脱毛とかしているんじゃないの? 私なんてエステの全身脱毛コース〇〇十万円使って三年かかってやっと去年終了したのよ。脱毛だって彼氏を作るために痛みを我慢して頑張って施述に耐えたよ。

 脱毛後のお肌は綺麗になったから男性からモテるかと思っていたけれど、脱毛した事を口に出したり施術後の肌を見せたりするのは恥ずかしくて出来なかったから、脱毛は恋人作りには繋がらなかった。


 私が現実逃避して思いを馳せている間にメイドさん達は私の着せ替えを終えて、押さえつけられていた体はやっと自由になった。

 明るいブラウンの肩にかかる直毛の髪はクシでとかされ、綺麗なローズ色の口紅を塗られた。着せられたドレスは薄い水色で胸元と袖は白いレース編みになっていてウエストは絞られている。タイトロングなスカートには全体に銀色の糸で星や花が可愛らしく縫われて、足元にはヒールの低い白い木のパンプスを履かされた。


 初めて着るスタイルのワンピース。生地が重いし、それに木の靴? なんだか物凄く古風な衣装だわ。


「支度が出来たわね。

 私の後ろに付いて来なさい」


 そう言うとクレマチスさんは足早に部屋を出る。私は直ぐに彼女の後を追った。

 この企画を進行しているプロデューサーを見つけて文句を言ってやるわ。

 この回は絶対に放送しないで! って。
















ここまで読んでいただき有難うございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ