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黒い奴隷  作者: 渡辺朔矢
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対決ワイバーン②

「ジャス隊長、隊を指揮しください!」


 ワイバーン討伐小休止中。

 ジャス隊長へ向けて酷く当たり前の事を要求する私。隊長が第5部隊騎士達に慕われているのは見て分かる。だから、ジャス爺ちゃんが隊長らしく号令をかければ騎士達の動きは統制されるはず。


「うん。いやいや、儂の隊の隊員は皆武骨者じゃ。それだから各々とても強い。儂が指示しん方が各々実力を出せるんよ」


 ジャス隊長は何か動物の胃袋で作られた水筒から水をグビグビ飲み、騎士達の顔を見渡しながら言った。その隊長の言葉を誉と受け取り地面に横たわりながら騎士達は皆ニカッといい笑顔を見せる。信頼関係が強いのは良い。でも


「全然! 良くないないですよ! ほら見て下さい! 怪我をしていない騎士なんて1人もいない! 今日の戦闘の初めに立てた作戦をしっかりと遂行出来ていれば、こんなに怪我人を出さずに済んだはずです!」


 地面に横たわる騎士達を見て言う。荒野の荒地に寝転がる屈強な男達。普通に立っていられる状態の者は私とビャクシンさんクレスト隊長にジャス隊長だけ。

 第5部隊騎士達は皆、ワイバーンに体を傷つけられて立っていられないのだ。


 クレスト隊長とジャス隊長で怪我人を一ヶ所へ集めて、ビャクシンさんが治癒の魔法をかけている。第3部隊の騎士2名も治癒魔法が使えるようだけれどそれ程得意では無いらしいから、怪我の治療は主にビャクシンさんの魔法頼みに。ビャクシンさんめっちゃ無表情で淡々と騎士達を治している。内心は相当に嫌なんだろう。


「ジャス隊長。怪我人を少なくする為に指揮を執って下さい」


 ビャクシンさんのあの雰囲気だと…この後怪我をした騎士を治療してくれなくなるかも…不安だわ


「フー。じゃがなあ、聖女様。そんなチマチマした戦い本当にしたいんか?」


 ジャス隊長は眉をしかめ私に言う。


「チマチマ?」


 作戦通りに戦おうって言っているのにチマチマって何? どういうこと?


「こう戦っちゅうのは体の内側から湧き上がる激情を力に変えて強敵を討ち果たすんが戦闘の醍醐味。儂ら第5騎士団はそういう輩の集まりじゃで。そんな…細かい作戦をいくら儂が隊長とはいえ…ただ勝ちのみを求めて戦闘を行なっても皆満足せんと思うんじゃよ」


 な…何を言っているのお爺ちゃん…


「なあ! お前達! 魔物を倒すっちゅうからには己の限界を敵に叩きつけて勝ちたいよな!」


 思考が追いつかない私を置いて、ジャス隊長はごつい拳を上へ掲げ大声を出した。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ジャス隊長の鼓舞に第5部隊員は負傷している体に力を入れ立ち上がり、ジャス隊長と同じく拳を空へ掲げて歓声を上げた。

 …ああ…もう…馬の耳に念仏…暖簾に腕押し

 と、ことわざが頭を駆け巡る。スッと静かにクレスト隊長が私に近付いた。


「申し訳ありません聖女様。ジャス隊長に集う騎士達は昔から規律に沿わない者達が多くて」


 凛々しい眉を下げて謝まる。クレスト隊長が私に謝罪する必要は全くないと思う。それよりも気になるのは


「…騎士団として…これで良いんですか?」


 クレスト隊長はこれで良いの?

 クレスト隊長の立場上この第5騎士部隊の命令違反的な戦いぶりを許して他の部隊への示しがつくの?

  私はミリタリーとか軍とか詳しく知らないけれど以前タイム司祭の説明で、クレスト隊長はマジョラム国騎士団の中で全騎士団を纏める管理役も担っているって聞いた気がする。


「ええ…まあ…自分が第1部隊隊長につく前から第5部隊はこの様な感じで…ただ第5部隊は魔物討伐に於いて1番功績を積んでおりますので…」


 クレスト隊長は半目でジャス隊長を中心にワイワイと騒ぐ騎士達を見ながら深い溜息を吐く。


 人外の魔物との戦いは実力主義って事なのか。

 まあ確かに命懸けの仕事だから机上で立てる作戦よりも現場の空気で判断していくのも有りなのかな? …いや…危険な事だからこそ計画が大事なんじゃ?


「よおおおし! 野郎ども!! 魔法使い殿が体を治してくれたんだ!

 後半の闘いも全力でぶっ飛ばしていくぜ!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 私とクレスト隊長が憂う横でジャス隊長と第5部隊騎士達は士気を上げる。

 ビャクシンさんは冷めた顔で怪我人を全て治癒してくれた。私とビャクシンさんクレスト隊長が途方にくれる中、ジャス隊長達のテンションは天井知らずに上がっていった。


 …この後…誰か死なないと良いなぁ。



 ▽▽▽



「ちょっと! ジャス隊長後ろ! 後ろ見て!」

「ムンッツ!」

「違う! 違う! そっちじゃないの!」

「ここじゃあー!!」

「違うって言っているでしょ!」


 ワイバーン討伐後半戦。


 果てしなく広い荒野にて、前半とほぼ同数のワイバーンを相手に戦闘は再開された。

 この場所に住むワイバーンの数は魔王が復活したせいで例年の2倍になっていて、通年ワイバーンはこの荒地の上空から出る事はなくこの土地以外で人間を襲う事は無い魔物だという。

 それが今回ワイバーンの個体数が多くなりワイバーンは食べ物を求めて村を襲う様になってしまった。私達はワイバーンの数を減少させる為にワイバーン退治に来ている。


「トオッ! まだまだあ!」

「ジャス隊長! 危ない!」

「そよ子! ◯☆△〜炎!」


 ジャス隊長と私目掛けて急降下をかけようとしていたワイバーンの羽を、ビャクシンさんは瞬時に炎の魔法で燃やした。


「ビャクシンさん、ナイスアシスト! ああ! 待ってジャス隊長っ!」


 ジャス隊長はビャクシンさんの魔法によって地面に落とされたワイバーンに槍を突き刺す。


「グハハハハハ! もっとだもっと来い! ワイバーン!」

「興奮し過ぎよ!周りをよく見て走ってジャス隊長!」

「ドリャ! もう一差し!」


 作戦なんて頭の片隅にも無い第5騎士団。


「隊長ばかりに活躍させないっすよお」

「ウオオ! やってやるぜ!」


 皆、自分勝手に熱狂しワイバーンと戦っている。


 ワイバーンは体が大きく俊敏で空を飛ぶとても強い倒し難い怪物だ。

 この乱戦はクレスト隊長の判断力とビャクシンさんの魔法で、ギリギリ戦いの程を成している。


 今までは私は私よりも格上に囲まれて守られて戦っていた。この戦場は奇跡的に死人が出ていないけれど、危うい戦闘状況が続く。例え大して親しくは無いおっさん達でも死んでほしくない! 私が守んなきゃ! って、もう、もう、私、いっぱい一杯なのよー!


「聖女様。あと3体ワイバーンを倒しましたら撤退いたしましょう!」


 クレスト隊長の凛とした声が響いた。


「ハア…ハア…あと3体?」


 そうだわ。ワイバーンを全滅させる事が目的ではなく、あくまでワイバーンの個体数を通常くらいに抑えたいとクレスト隊長は作戦会議の時に説明してた。

 って事はあと3体やっつければこの危険な戦いを終えれる。


 先が見えてきたわ!


「やああああああああ!」


 斬撃を空に浮かぶワイバーン目掛けて放つ。

 グワアアッツ

 羽を狙ったが上手くワイバーンの目に命中した。…うん…狙い通りじゃないけれど取り敢えず当たったから良し。


 目から血を流し視界を奪われたワイバーンは空中で1体のワイバーンに追突し、2体はもつれるようにして地面に落ちた。


「おお! 聖女様勇ましい剣の振りっぷりじゃな! 儂もまだまだ行くぞお!」

「ウオオ! 俺もやってやるぜ!」

「俺が仕止める!」

「俺だあ」


 地上に落ちたワイバーン2体に向かってジャス隊長と騎士達が一斉に猪突猛進する。皆我を夢中で獲物に向かった。


「ああ! 駄目!」


 追突され落ちたワイバーンはすぐに態勢を整え、ぶつかって落下しただけのワイバーンが羽根を動かし低空飛行で騎士達の真正面から体当たりした。


 グルアア!

「グワア!!」


 そしてワイバーンはジャス隊長の太い胴体を噛み挟み上空へ飛ぼうとする。

 ジャス隊長は槍でワイバーンの鼻を思いっきり刺し貫いた。


 ギヤアアアアア!


 ワイバーンは悲鳴を上げジャス隊長の体を地面へ叩きつける。

 怒り狂うワイバーンはジャス隊長目掛け強固な後脚爪で地に伏すジャス隊長へ振り下ろす。


 ああ! 間に合って! 当たって!


 ザッ! シュウン!!


 私が放った斬撃がワイバーンの足を切り裂いた。

 今回のワイバーン討伐中にも戦闘レベルが上がり、斬撃の強さや命中率も上がっているのが自分でも分かる。


 ギヤアアアアアアアアアア!


 ワイバーンは鼻にジャス隊長の槍が刺さったまま口を大きく開けて私へ牙を剥き飛んで来た。

 私は呼吸を整え剣を下に構えて距離を計り力一杯振り抜く。


 私の渾身の斬撃はワイバーンの口から後頭部までスパッと切り離し、勢いよく飛んで来たワイバーンの巨体がズザザザザザと地面を滑り私の前で止まった。


「「うおおおおおおおおおおおおお!! 聖女様スゲエェ!!」」


 騎士達の大きな歓声が覆う。


 息もつけない戦闘中。

 自分が倒した巨大なワイバーンを見て

 急に胸の鼓動が聞こえ視界が広がり集中力がきれてしまった。


 はあー

 ああ、なんて凄いの。自分の剣技。

 こんな、もう、私ったら無敵みたい!


「危ない! そよ子!!」


 喜々としたほんの一瞬。


 ビャクシンさんに飛ばされる私。


 ワイバーンの強剛な後ろ足がビャクシンさんの婉麗な体を薙ぐのが見えた。







ここまで読んで下さりありがとうございました。

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