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黒い奴隷  作者: 渡辺朔矢
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対決ワイバーン

「隊列整え!」

 ズッシャ。一糸乱れぬ動き。

「喊声!」

 ゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 厳つい雄叫び。


 …ああ…空はこんなにも青く美しく輝いているというのに


 私、冬青そよ子23歳。日本にいた頃は一般OL今は異世界に来て聖女をやってます。

 因みに今日は秋晴れに似た爽やかな気候の中で屈強な騎士さん18人と一緒に、3メートルはありそうな赤茶色のコウモリの羽を広げて飛ぶ複数の凶悪な爬虫類ワイバーンって魔物を討伐に来ました。うふふ、青空の中雄大に飛ぶ巨大爬虫類達、圧巻だわぁ…ハァー…本当何でこんな場所来てんだろう


「聖女様。いよいよ突撃いたしますぞ! 気を引き締めて! グハハハ! 戦じゃー! 狩じゃー!」


 マジョラム国騎士団第5部隊隊長ジャスミンさん年齢72歳。

 ジャスミンって美麗な名前に反しズックリとした体格に長年激しい戦によって顔に刻まれる戦歴の跡。太増しい腕に大槍を握って、若い騎士より誰よりも早く嬉々として戦場へ馬で駆けて行くお爺ちゃん。


「え? ちょ…ちょっとジャス隊長!?」


 今朝、初対面で「儂のことはジャスって呼んでくれ」と強面なのに気軽に声をかけてくれて

「なあにワイバーンなど儂にとったら容易い敵よ。しかし聖女様は初手合わせで怖いじゃろ?

 儂の部隊で隊形を整えて嬢ちゃんを守りながら戦っちゃるから安心せい」

 って言ってくれていたのに、ジャス隊長は率先して隊列崩しワイバーンへ突っ込んで行く。


「聖女様、引け腰にならずとも我らが付いております」


 最初に聞いていた戦略と全く違う動きをする第5騎士団に焦る私へクレスト隊長が声をかけてくれた。


「そよ子。私がいます。大丈夫ですからね」


 私の隣で通常運転でビャクシンさんが微笑んでくれる。


 …ああ…もう! 3人で戦うしかない!


 私は足早に戦場へ向かい腰に付ける聖剣を地に落ちるワイバーン目掛けて抜いた。



 マジョラム国騎士隊には第1から第8まで部隊がある。


 騎士団第1部隊はムキムキイケメンのクレスト隊長が率いる王家を守護する為に選抜され白い甲冑に鮮やかな赤いマントを付けた剣技魔力家柄の優れたエリート達が所属している部隊。通常は城へ勤務して王族や首都の警護が仕事。


 フェンネルさんは騎士団第3部隊。フェンネルさんは別働があり今日の戦いには来ていないが、この部隊は何か飛び抜けた能力を持つ騎士達の集まりらしく、他の騎士団が魔物と戦う際に補佐したり助力に行くことが多いらしい。今回も第3部隊から火の魔法が得意な騎士が2名参加し、空飛ぶワイバーンの羽に火球を放ち魔物を地面へ落としている。


 …うん…ワイバーンは空飛ぶデッカイ蜥蜴。

 上空から力強い尻尾と強靭な後脚鋭い爪で人間を襲ってくる魔物。当初のワイバーン討伐計画では、先ずはワイバーンの羽を魔法で焼き払い地面に落とした後、騎士達で切り倒すって話だった。だからあの第3部隊所属の騎士達は作戦通り魔法でワイバーンを狙い火球を放っているのに


「おい! お前! 俺が戦っているワイバーンに横槍入れんじゃねえ!」


 って、第5部隊所属騎士が怒り空飛ぶワイバーン目掛けて槍を放るが当たる気配は全く無い。


「クッソ! 惜しいぃ」


 第5部隊騎士悔しがってる…ワイバーン討伐作戦を考えた意味は…どこ?


「聖女様! コッチへ魔法使い殿が1対ワイバーンを落としました!」


「ぁはい!」


 クレスト隊長の声で気を取り直し、空から地面に強く叩きつけられた巨大な蜥蜴に対峙する。


「尻尾と後ろ足に気をつけて下さい!」


 ビャクシンさんに羽を焼かれ落とされたワイバーンは大声を上げ怒り狂い、引き締まった尻尾を振り回した。

 冷静に見れば避けられる。

 縄跳びを跳ぶ要領でパッパと上に跳ねながらワイバーンとの距離を詰めた。ワイバーンは長い首を伸ばし私を嚙み殺そうと大きな真っ赤な口を開け…ここ…ワイバーンの喉元へ聖剣を突き立てた。


「ガッツ! ギャガガガ!!」


 ワイバーンの首から聖剣を引き抜くと勢いよく噴き出す真っ赤な血。ワイバーンはグニャリと力無く伏した。そう言えばゴブリンの血も赤かったっけ、魔物の血も赤いんだなぁ。ッパッパラー


「お見事です。聖女様」


 クレスト隊長が私を見て満足気に頷いた。はあー、何とか倒せたけれど緊張したぁ。


「ちっくしょう! さっきから何度も槍を投げてんのに当たんねぇ」


 近くの第5騎士団員が叫ぶ。


 そりゃワイバーンの飛行能力ってとっても高いもの。素手で投げる槍では避けられちゃうわよ。っていうか弓矢でもワイバーンには当てられないし、下手に弓を射ると落ちてくる弓に仲間に当たる可能性があるから使用しないって作戦会議で話してたよね。槍ぶん投げていたら弓矢使ってんのと一緒じゃん! いや、むしろ槍の方が矢よりも危ないわ!


 と、武器が無い状態の彼へワイバーンが勢いよく降下してきた。


「危ない!」


 咄嗟に彼を助けようと聖剣を手に走ったが、第5騎士団員はワイバーンの後ろ足蹴りをギリギリで避け、素手で尻尾を掴みワイバーンの降りてきたスピードを利用して力一杯地面に叩きつけた!


「ガガッ!」

「うおおおおおおおお!」


 周囲の騎士達が仲間の雄姿に沸き立つ!

 騎士は衝撃にふらつくワイバーンの背中に回り込み長い首を両手で鷲掴みにすると


「グギャヤヤヤヤ」

「ムウウウウウウウ!」


 渾身の力で捻り上げた。

 首の骨が折れたのか…呼吸が出来なくなったのか…ワイバーンは泡を吐きながら地面に巨体を倒した。


「おおおおおおおお!」


 第5騎士団員達の喜声。肉弾戦? に鼓舞される騎士って


「だから…初めの隊列は何?…討伐戦略の意味は?」


「…聖女様…この隊に規律ある戦いは望めません」


 クレスト隊長が苦い顔をしながら言う。


「第5部隊はマジョラム国騎士団の中で断トツに実戦経験が多く血気盛んな騎士で編成され戦闘狂ばかり。隊長のジャスミンですら一度戦場へ出れば己が戦う事だけに夢中になり、部下や他の騎士の戦闘など配慮が出来なくなるのです」


 クレスト隊長の説明を聞きながら見れば、ジャス隊長は1人ワイバーンと楽しそうに接近戦中。

 …あのお爺ちゃんよく隊長になれたわね…


「そよ子。第5騎士団などに頼らずも私が貴女を全力でサポートしますから。

 ほら、もう1対地上へ落としますよ。頑張って下さい」


 う〜ん、最初から第5騎士団に依存する気は無かったけれど…この乱れた戦局を放置って…ワイバーンは強力な魔物なんだから私とビャクシンさん、クレスト隊長の様にチームで戦わないと、ワイバーンと戦うには危険度が上がっちゃうよ。


「やああああああ!」


 ビャクシンさんの落としてくれたワイバーンの首を刎ねながら考える。

 かといって歴戦の猛者達が見た目一般女性の私の言葉になんて耳を傾けてくれるわけないわよね。


「ガアッツ!」

「ぎゃあああ!」


 近くの第5騎士団員がワイバーンに後脚の鋭い爪で肩を掴まれた。ワイバーンは男を上空へ引き上げようと翼をはためかせる。


「くっ! この待って!」


 急いで駆け寄りジャンプ。ワイバーンの背後へ跳ぶと聖剣を大きく振りかぶって魔物の背中を斬り裂く!


「ガアアアアアアアアアアアア!」


 ワイバーンは背から血を上げ羽を傷付けられた為、地面へと転がった。騎士の肩に食い込む爪は外れず騎士も一緒に地面へ倒れる。取り敢えず騎士を助けないと、と思い騎士へ近づくが


「そりゃ!」


 他の騎士達が八方から槍でワイバーンを刺し倒した。ワイバーンが死んだと思うと他の騎士達はまた全力で走って次なる獲物に槍を向ける。

 騎士だから…戦う人達だから…仕方がないのかもしれないけれど好戦的すぎるでしょ!

 仲間助けてから戦闘に行きなよ!


「大丈夫ですか?」


 ワイバーンの後ろ足に掴まれたままの騎士はかなり深く爪が筋肉に刺さっていて命が危ない状態。


「ビャクシンさん! 来てください! 助けて!」


 私が叫ぶのを尻目に騎士は


「ぅぅ…ワイバーン…戦いたい…俺も…槍…戦う…」


 うわ言を呟く。

 第5騎士団(この人達)危ない薬でもやってんじゃない? 狂戦士過ぎでしょ! 戦いたいってんならもうちょっと安全に配慮して作戦通り戦闘すれば良いのよ!


「ぐっふ!!」


「!ッジャス隊長!!」


 ビャクシンさんに騎士の治療をして貰い見れば、目線の先ではお爺ちゃんがワイバーンの尻尾に跳ねられ岩山へ叩きつけられていた。


「ビャクシンさん後をお願いします!」


「え? 待って下さい。そよ子!」


 ビャクシンさんに騎士の治療を託しジャス隊長の元へ。ワイバーンは強靭な後脚でジャス隊長の頭を潰そうと蹴りを放つ。間に合ってーーー! 聖剣を勢いよく振り抜き斬撃をワイバーンへ。この技、2日前にクレスト隊長から教わったのだけれど、未だ上手く出来ない。3回に1回くらいの成功率。でも、今は失敗を恐れて考えていられる場面じゃないもの!

 私が飛ばした斬撃はワイバーンの逞しい腿へ命中した。


「ガギャッ!」


 ワイバーンの傷は浅いみたいだが、ジャス隊長への蹴りは阻止出来た。

 ジャス隊長は槍を握り直して


「このトカゲ風情があああ!」


 と槍で突いた。踏み込みが弱かったのかワイバーンの胴体をかすっただけだ。

 ワイバーンもジャス隊長へ攻撃を再開する。


 これ、私があのワイバーンを倒すとジャス隊長のプライドを傷付け恨まれそう?

 ああ! でもなんて不安定な戦い! 危ない! それでも手助けしても「儂1人で勝てた! 邪魔をしおって!」って言われそうだし。んん! ひゃー…今お爺ちゃんワイバーンに食われたかと思った…ハラハラする! もう、文句言われても良いわ! 見てられない! 助太刀するよ!


 私は意を決しジャス隊長とワイバーンの戦闘へ割り入る。予想外にジャス隊長は「共闘じゃあ!」と笑って私を迎え入れた。

 もおおお! お爺ちゃん!無茶しないで! ワイバーンの真正面から闇雲に闘いを挑むなあ!


 この後ずっと私はジャス隊長と一緒に戦う流れになったけれど、共闘とか言うわりにジャス爺ちゃん勝手な動きばかりするからフォローに回るのに苦労した。他の騎士の動きにも肝を冷やされ集団戦闘って大変!って思った。


 乱戦模様の戦場で頑強な騎士達と獰猛なワイバーンの戦いは3時間程続き、漸く人間側の勝利で一旦幕を閉じる事となる。









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