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黒い奴隷  作者: 渡辺朔矢
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タイム司祭。聖女について

 私とフェンネルさんで刈ったオークや私とビャクシンさんで退治した夢魔。

 オークの死体は村の人達が解体し肉や油など村の特産品に。

 夢魔の夢から覚めた村人達は自分達の心の奥底の欲望の事は覚えていなくてレモンバーム村は日常を取り戻した。最後に退治した夢魔を食べた男性も目を開いた時には自分が見た夢は記憶に無いらしく、私と普通な感じで会話した。


 男は子供の頃から肉親や親族との縁が薄くて孤独だったらしい。私達に出来る事は彼を独りきりにしない事だと思って、教会で村人に関われる仕事を彼に与えて貰えるように頼んだ。これで男の食人欲求が抑えられるか不安だが、教会にいた司祭様は大らかで彼を受け入れてくれた。もしも男に異常が出れば伝書でビャクシンさんに伝わる手筈だ。

 聖剣で夢の中の彼を斬った私としては男性の心から夢魔と一緒に不道徳的願望も抜けたと信じたい。


 そういえば結局トンカツは食べられなかった。

 あの夢魔を食べている男性を見て気持ちが悪くなってしまいとても食事する気が失くなった。残念だけれど今回はトンカツと縁がなかったって事で…はあー残念…


 レモンバーム村から戻るとクレマチス姫が4日もお休みをくれた。長旅で疲れているだろうからって。魔物との戦いに目を瞑れば聖女はホワイトな仕事だと思う。いや、クレマチス姫(上司)が良いのか。


 あ、でも本当はビャクシンさんに仕事をさせる為かもしれない。休日の4日の内3日はビャクシンさん私の前に姿を見せなかったから。

 1日だけ私の所へ来たビャクシンさんは可愛い花束を私にくれた。ピンクと白い花で作られた可愛い花達。それがとっても嬉しかった。

 私は前世を知り、でもそれとは関係なくビャクシンさんが好きだと思う。その想いは確かなのだけれど、ビャクシンさんには彼の側に居ると約束したが、まだ恋人として彼に接するには気が引ける。この年まで男性とお付き合いしたことが無いし、急に恋人としての対応を求められても困惑してしまう。だからこうして小さなプレゼントを貰いビャクシンさんと何気ない会話をするのはとても満たされた。


 そして、休日が終わり今日は朝からポツポツと小さな雨が降っている。

 雨の日はタイム司祭のお話を聞く。白い書斎の中でタイム司祭はいつもと変わらず落ち着いた雰囲気で私を待っていてくれた。


「聖女様。今日はスッキリしたお顔をなさっていますね」


 前回ビャクシンさんへの恋に悩んで暗かった私。


「はい。司祭様のお陰です」


 タイム司祭へ恋愛相談したら思いの外悩みが軽くなった。


「そよ子。司祭様のお陰とは?」


「え! …え〜と…」


 今日は当たり前の様にビャクシンさんが同席していた。隣に座り眉を顰め首を傾げて私を見てくる。

 そういえばビャクシンさんは恋愛において束縛系だ。ビャクシンさん以外の男性に相談をしたのが分かり不機嫌そう。だからと言ってビャクシンさんへの恋心を募らせて悩んでいたとビャクシンさん本人に言うのは恥ずかしい。どうしよう!


「魔法使い殿。聖女様は慣れない土地に来て疲労が溜まり気弱になられていたんです。聖女様の育った世界では魔物と戦うことも無く、それは彼女にとって大変なストレスになっていました。

 しかし、その悩みは聖女様に同行する騎士達や魔法使い殿には話せなかったらしいのです。

 貴方方にはとても良く助けて貰っているのでと、聖女様は思慮され打ち明けられなかったみたいです」


 タイム司祭がビャクシンさんへ穏やかに言う。ビャクシンさんは納得出来なそうな感じで私を見つめた。


 好きな人に嘘をつくって良心に引っかかるが、私がビャクシンさんへ説明出来ないのだから司祭様のフォローを肯定して首を縦に沢山振る。。ビャクシンさんは少し寂しそうに微笑み青い瞳に私を映して


「そよ子。私に遠慮はいりません。精神的にも肉体的にも辛い時には私に相談して下さい」


「…あ…ありがとう。ビャクシンさん」


 うぅ、顔が熱い。この世界へ来て半年。ほぼ毎日この美形の顔を見て声を聞いているのに未だに慣れない。胸がドキドキする。


「聖女様、今回はレモンバーム村にてオーク狩りと夢魔退治をされたと聞きました。

 戦闘レベルの方は今どれ位になっていますか?」


 タイム司祭に聞かれてステータス画面を出した。


 戦闘レベル26、体力49、素早さ51、運93、魔力6、聖女 ∞


「素晴らしいですね聖女様。ここまでレベルアップが早いとは」


 タイム司祭が手放しで褒めてくれるが正直、比べようが無いから褒められても迷ってしまう。それにここまで来るのにゴブリンや夢魔などの人形の魔物を斬ったりして醜怪な場面を体験した。この先レベルを上げて行くと今までよりも大変な情景に会うかもしれない…レベルアップするのは素直に喜べない…


「聖女様は戦闘レベルが25を超えましたので、そろそろ中級レベルの魔物と戦っても勝てるでしょう」


「…中級レベル…というと、どんな魔物なんですか?」


 嫌な予感しかしないけれど…魔物知識ゼロの私は想像も出来ないから…タイム司祭に聞いてみる。


 タイム司祭は穏やかな表情のまま机に置かれた新聞くらい大きくて辞典の様に分厚い本のページをめくった。


「そうですねぇ、例えばこの竜系統のワーム。竜の中では手足や翼を持っていない魔物です。巨体さでは竜よりも大きい物もいましてね。沢山の鋭い牙に強靭な顎。ワームの1番の特徴は再生能力がありまして体を切断しても、切ったところが直ぐにくっ付いてしまいます。ですから斬った箇所を焼きながら戦います」


 ページには黒くてワニの頭を持った足の無いムカデがウジャウジャと描かれている。き、気持ち悪い。その上斬っても再生する焼きながら戦うって、気色悪くて面倒くさい魔物だわ。


「あ、これもサーペントと言って水の中に住む大蛇です。水の中にいる魔物ですので場所的に少々戦い難い相手ですが、所詮大きな蛇というだけですので今の聖女様なら戦えると思います」


 本に書かれているサーペントは確かに白い蛇って感じだけれど…大きさが…このちっさいマッチ棒みたいに書かれているのが人間だとしたらサーペントの大きさがヤバイ! あと司祭様、聖女様なら戦えますって簡単に言ってくれるけれど私蛇苦手だから! 見るのも嫌なくらい大嫌いだから!


「それとリザードマンやオーガなど武器を持つ魔物とも戦えますね」


 おだやかにタイム司祭の指す先には二足歩行で手に剣を握り胸当て腰帯を着けるコモドオオトカゲに、先日のオークを直立歩行させ鉈を握り武具を纏う凶悪な豚が描かれている。


 はい、どっちも有りません! 戦いたくないですよー! こんな見るからに暴力的な魔物と好んで戦闘するなんてどんなに戦闘レベル上がっても無理です。今までの戦いで私の性格が好戦的に変っているわけじゃないんですから!


「あの〜…以前から聞きたかったのですが…」


「何でしょうか? 聖女様」


「私って聖女なんですよね? で私は…聖女がどういうものかよく分からないのですが…私がやっている事って戦士とか剣士とか勇者とかの戦う人の要素が強すぎませんか?

 聖女って聖なる女って書くんだし、私に求められる物って神秘性や母性的な物なのでは?」


 私に神々しさや愛情深さを求められても、それはそれで困るけれどずっと疑問だった。だって強さで言ったら筋肉ムキムキ逞しい騎士のクレスト隊長や俊敏なフェンネルさん、最強の魔法使いビャクシンさんが居るんだもの。私が努力して強くなる必要は無いのでは? って。


「成る程、気が付かれましたか」


 おい! 司祭様、気付かれたって何!


「そうです。聖女様に求められるものは実践的な戦闘力では無い。聖女様の真の力はゴブリンに誘拐された女性達を治癒し救ったあのお力です」


 ああ、私記憶に薄いけれど、ゴブリンに攫われ身体も精神も犯された女性達があまりに不憫で、彼女達を元の村娘に戻したいって強く願ったら私の体が光り出して気を失ったのよね。帰城して意識を取り戻しビャクシンさんにあそこにいた女性達について尋ねたら、死んでしまった女性達以外は正気を取り戻し身体の傷も完治して、皆実家へ帰宅出来たと聞いているけれど


「あの時に出された聖女のお力をそよ子様はご自身の意思で制御し出せますか?」


「…え…それは…無理だわ。あの時は激情にかられて自分で自分が分からない状態だったもの。もう1度意図的にアレをやれって言われても…どうやれば良いのか全く分からない…」


 困惑する私にタイム司祭は深く頷く。


「そうなのです。聖女の能力は聖女様しか持ち得ないためその力を使う術が分からないのが現状でして。

 第1代聖女マツ様は戦場で不安定な能力を発動させ魔物との戦いは常に苦しい戦いだったと。第2代聖女サクラ様は幼き頃よりこの地にて心身や魔力を鍛えられたと記実されております。サクラ様の伝記によれば戦闘レベルが33になった頃、聖女の能力をご自身で導き使えたと書かれております」


 え〜と戦闘レベル33ってことは…今の私のレベルが26だから…あと7アップは必要かあ


「そよ子様はマツ様の様に成人しての転移ですので、サクラ様の様にじっくりと体を鍛えるわけにはいかず、マツ様と同じく戦場での実践で戦闘に慣れ、そよ子様の意思で聖女の能力を操れる様になっていただきたい。そよ子様にとっては過酷なレベル上げだとは思いますが、魔王との決戦までに聖女の力を使いこなせる様になって魔物と戦っていただきたいのです」


「つまり私が魔物を倒すのは戦闘レベルを上げるのが目的ではなくて、聖女の力を使える様になるためって事ですか?」


 聖女になる為にレベル上げが必要でだから危険な魔物と戦わないといけない


 タイム司祭もビャクシンさんもニッコリ優雅に微笑んで


「はい。そよ子様なら聖女のお力を使いこなせると思っています」


「そよ子。戦いは厳しいでしょうが私が貴女を守りますからね。怯えなくても大丈夫ですよ」


 ……………………ここまで流されるまま戦闘レベルを上げ強くなって自分なりに少しは満足していたのに、聖女の力を発動って更なる問題が目の前に出てきた。戦闘レベルを上げても聖女の能力が使えるかは不確かだよね? 私…本当に…聖女の力を発動出来るの様になるのかな?







ここまで読んでいただき有難うございました。

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