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黒い奴隷  作者: 渡辺朔矢
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対決 夢魔②

 地面に倒れるフェンネルさん。フェンネルさんは目を閉じスースーと規則正しい呼吸をしている。


「そよ子。騎士殿は眠りに入りました。我々も早くここから立ち去りましょう」


 ショッキングピンクだったフェンネルさんの夢の中は白い濃い霧が立ち込めてきた。フェンネルさんが深い眠りに入ろうとしたところビャクシンさんと私は宿の部屋へと戻る。

 ビャクシンさんは残念そうに私の右手をそっと離した。今朝私が接触を控えてとお願いしたのを覚えてくれているんだ。私は今の私に合わせてくれるビャクシンさんに心が温まった。


 そんな私とは対照的にビャクシンさんは暗い顔をしている。


「そよ子。明日からが大変です。早く寝ましょう」


「大変って?」


 何かあったかな?


「夢魔は今見た通り倒すのは簡単なのですが数が多いのです。明日は夢魔に犯される村人1人1人の夢の中に入らなければいけないんですよ」


「えっ!? ひとりひとり! 夢の中へ!」


 さっきのウエイトレスさんの話では村の人数人と言っていたけれど、数もさる事ながら他人のピンクな夢を後何回も見ないといけないなんて、うぅ心が重い。


「もし、そよ子が嫌でしたら私1人でやりますが」


 しまった。憂鬱な感情が顔に出ちゃった。ビャクシンさんが心配してくれている。


「ううん! 大丈夫! 私も一緒に夢魔退治するよ! 魔物退治をビャクシンさんに押し付けたりしないわ」


 そうよ! ビャクシンさんの隣に立つ為に私は強くなんないといけないんだから、この程度の試練逃げるわけにはいかないわ!


「しかしそよ子何だか顔色があまり良くない様に見えますし」


 ビャクシンさんは過保護だからまだ気にしているみたい。


「大丈夫だったら! 明日も頑張ろうね!」


 思いっきり笑顔でビャクシンさんに告げると自分の部屋へと入った。


 ハァー、ビャクシンさんだって私に合わせて自分を変えようと努力してくれているのだから、私も人型の魔物が斬れないとか甘えていないで何とか自分で倒していかなくちゃ。

 指を振ってステータス画面を出す。


 戦闘レベル23、体力44、素早さ48、運93、魔力6、聖女 ∞


 確かタイム司祭が魔王を倒すためには戦闘レベル45くらい必要って言っていた。ビャクシンさんのライバルが魔王ならビャクシンさんに並ぶにも戦闘レベル45有れば良いのかしら? よく分からないけれど戦闘レベル45を目指して上げていこう!



 ▽▽▽




 ショッキングピンクの空間。ピンクが濃いなぁ。ああ、嫌な予感。

 あれに見えるは大きなベッド。その上で…あ…あれは昨夜食堂にいた若いウエイトレスさんに夢魔に眠らされているおっさんが…うー…見たくない。


『うっふ〜ん』


 ウエイトレスさんは17歳くらい。ブラウンの髪をポニーテールにし大きな緑の瞳に頬にはソバカスがいっぱいある。小ぶりな胸に細い体の健康的な少女。


「ああ、凄い! 〇〇ちゃーん素敵過ぎる! た、たまらん!」


 もう! おっさん! この世界男女関係の年齢制限とか規制は無いらしいんだけれど、日本でなら完全に犯罪じゃん!


「ハイ! そこまでです! それ以上やっちゃうとおじさん夢魔に精を取られ過ぎて死んじゃいますよ!」


 現実世界ではこのおっさんの奥さんや娘さん息子さんが心配しているっていうのに。当のおっさんは鼻下伸ばして楽しんでいる。魔物の仕業とはいえ腑に落ちない。


「な、なんだお前達は! 儂は今良いところなんだ! 勝手に入ってくるな!」


 夢の中では大きなお腹の太ったおじさんなんだけれど、実際は夢魔に精力を奪われかなり痩せ細っている。こんな危険思想の持ち主だけれどおっさんの身を案ずる家族がいるから、このまま夢魔に殺されるのを見過ごす訳にはいかない。


「おじさん! 落ち着いて考えて! 貴方には優しい奥さんや可愛い娘さんがいるでしょ! 最近家族と過ごした記憶はある? ほら、無いでしょ!ここはおじさんの夢よ! おじさんの上に乗る女性は夢魔という魔物なのよ! ずっとここに居るとおじさん夢魔に精を吸い殺されちゃうわよ!」


 おっさんは頭を抱え青い顔でウエイトレスさんを見た。

 ビャクシンさんに言われた。私の聖女の声は覚醒の力があるらしい。私の言葉で長年連れ添った奥さんの存在を思い出し正気に戻ったんだ。

 と、ウエイトレスに化けるサキュバスが私目掛けて突っ込んで来た。


『あと少しでこの男の精を全て飲み干せたのに! 邪魔しやがって!』


「悪いけど夢魔(あなた)の好きにはさせられないのーーーヨッ!」


 夢魔の豊かな胸へ聖剣を突き立てた。男性に憑く夢魔は昨晩フェンネルさんの夢に居たサキュバスに見た目も性格もそっくりで、取り憑いた人間が意識を戻すと私に攻撃して来る。私にとっては攻めてくる方が反撃出来るから有難い。夢魔は聖剣に刺され黒い塵に変わり消えた。


「お見事です。そよ子」


 後ろで見守っているビャクシンさんが声をかけてくれる。

 おじさんは床に伏せ眠りへ入ろうとしていた。ショッキングピンクの空間から背景が真っ白に変わり、慌ててビャクシンさんの元へ駆け寄り現実へと魔法で戻った。


 おじさんの眠るベッドの横では奥さんと子供達が不安そうに私達の帰りを待っていて、おじさんから無事に夢魔を取り除いたと報告したらとても喜んでくれた。家族の笑顔を見て助けて良かったと思いつつ、おっさんが夢で関係を持っていたウエイトレスさんが娘さんと同じくらいの年齢なのに気が付き腹が立った。


 ウー、奥さんに要らぬ心配をかけたく無いから言わないけれど、おっさんがウエイトレスさんに本当に手を出したら斬ってやる!


「そよ子。機嫌が悪そうですね」


 自分の価値観で正邪を決めてはいけないと思っても、モラルに重きを置く私としてはさっきのおっさんみたいな人を見ると気分が悪く怒りが顔に出てしまう。


「…早朝から村の中の眠り人の家を回って…他人の欲望を見るのにちょっと疲れが」


「これから行く家が最後ですから、もう少しだけ頑張ってください」


 ビャクシンさんは穏やかに微笑んで私の隣を歩く。ビャクシンさんの美形にちょっと癒された。

 村で目が覚めない人間の数は16人。男性11人。女性5人。年齢は18歳から55歳まで幅広い。

 寝ている人の症状は皆んなニヤついた顔をして楽しそうにベッドに寝ていた。側から見たらとても幸せそうなんだけれど、眠りの長い人は痩せこけて肌も荒れてるのに笑顔だった。夢魔が人間に対して危険なのが分かる。


 とにかく疲れの原因は他人の性癖を見せつけられる事で、男性でも女性でも好きな異性とデートしたり甘酸っぱい性交渉をしているのを見た時は微笑ましい気分になったけれど、さっきみたいな性犯罪を見ると感情が高ぶってしまう。


 例えば、四つん這いになって女性に鞭を打たれている(ひと)や美男子に縄で縛られている(ひと)はまだその人達の性癖として認知出来たんだけど、大人が子供に性的な事をしていた時は思わず子供に化けている夢魔じゃなくて夢を見ている人間の方を斬ってしまった。


 夢の中で真っ赤に染まる男性を見て「ヤバイ! 人を殺してしまった」と慌てふためく私の隣で夢魔も驚愕してた。冷静なビャクシンさんが「男の命に別状はないですから構いません」と言って夢魔を消し現実へ戻ると、男性は普通に目覚め夢の中で私に斬られた記憶は無かった。平然とした男を見てたら子供を襲う男を思い出して、あんな願望を持つ男いっそ私の手で闇に葬っても良いんじゃないかとーーー


「駄目、駄目、駄目、現実に罪を侵したわけじゃないんだから今斬ったら私が犯罪者だわ!」


 慌てて妄想を打ち消そうと頭を振る。


「そよ子、大丈夫ですか?」


「…たぶん…ハア…なんて言うか…他人の欲望って怖いんですね…真面目そうな顔して心の奥ではあんな願望を抱いているなんて…」


「そうですね。人間の奥はとても深くて暗い。真っ黒なものをそれぞれ気が付かずに持っているらしいですから。でも、人はその底を見なくても大抵はほどほどに満足して生きているんです。

 人間は集団で生きる生き物です。生活にはルールがありますから、余程の馬鹿でない限り道徳から逸脱した行為を実行する者はいませんよ」


 ビャクシンさんは私が怒っている事は現実には起きる可能性が低いと安心させてくれている。

 そうか? そうかな。馬鹿は一定数いるだろうけれど夢魔が見せる欲求は本人も知らないくらい心の奥にあるものらしいし、夢魔を退治して目覚めた人達は夢の内容を忘れていたから大丈夫なのかな。現実に起きないんだし私がヤキモキする必要は無いか。


「聖女ちゃーん!」


 ん、フェンネルさんだ。朝、夢魔に憑かれた村人を助けに行くのにフェンネルさんは二日酔いで頭痛が酷いと言うから宿に残して来た。もう、って言っても夕方だけど頭痛いの治ったのかな?










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