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黒い奴隷  作者: 渡辺朔矢
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対決 夢魔①

 フェンネルさんが魔物に襲われていると分かり、ビャクシンさんは光球を大きくして部屋の中を明るくした。フェンネルさんは眩しい光が顔を照らしても目を覚ます気配は無くて、ふふふと微笑みながら幸せそうに寝ている。


「…何だかとっても…楽しそう」


 フェンネルさんの幸福そうな寝顔を見てつい言葉に出た。


「夢魔は取り憑いた人間の本人さえ自覚していない性的欲求を察知して夢にみせます。もし仮に夢魔の見せる夢だと分かっていても、本能が求める理想的な状況に人間は逆らえないでしょう」


 え〜と、つまりフェンネルさんは深層心理で望む恋愛を夢の中で体験中でこんなに嬉しそうな表情して寝ているのね。…もしかして…フェンネルさんの恋の相手はクレマチス姫?


「夢魔に犯される人は側で見ているには寝ているだけで放って置いても良さそうに見えますが、人間は目を覚まさなければ食事が出来ませんし、彼らは夢の中で夢魔に精力を吸い取られていきます。夢魔に取り憑かれると2ヶ月位で衰弱しあの世へ連れて行かれます」


「じゃあ、早く目を覚まさせないといけないよね。

 でも、声をかけても揺すっても起きないしどうしたら良いの?」


「…あまり気は進みませんが…騎士殿のみている夢の中に入り…そこで夢魔と戦うのが早いかと…」


 ビャクシンさんは美麗な眉を寄せて嫌そうに言う。


「何でそんなに気乗りしないんですか? 夢に入るのが難しいとか危険とか? 夢魔って凄く強いんですか?」


「いえ…夢魔はそれ程強敵ではありませんが…

 夢魔の見せる夢っていうのは理性の働いていない欲望丸出しな願望なものですから、その欲を達している場面に入って行くのは気が引けます。あまり見たいものではないですね」


 ああ、分かった気がする。

 特に知り合いの恋人に甘えている姿とか身内のイチャイチャする様子は私も見たくない。

 身の置き所がないっていうか恥ずかしい気になるわ。

 そして、フェンネルさんのこのニヤケ顔からして彼は今、相当いかがわしい状態を楽しんでいるよね。フェンネルさんが1人で喜んでいる分には良いけど、その場面を見に行くって結構勇気がいるわ。


「そよ子。私1人で夢魔を退治してきても良いのですが、貴女のレベルアップ(経験)の為一緒にきますか?」


 ビャクシンさんがやんわりと気を使ってくれた。

 う〜ん、フェンネルさんの欲求は見たくないけれど夢魔という魔物に一応聖女として対峙しておいた方が…今後また夢魔が人を襲っている所に出くわすかも知れないし…聖女(仕事)と考えて行くしかないかな。


「魔物との戦いの後学の為に私もフェンネルさんの夢の中に行きたいと思います。

 ビャクシンさん宜しくお願いします」


「わかりました。

 では手を握らせてくださいね」


 ビャクシンさんは微笑んで私の右手を取ると低い声で朗々と呪文を唱えた。ビャクシンさんの声が床に落ち小さく光りながら私とビャクシンさんを囲う。ビャクシンさんは詠唱中とても美しい。ビャクシンさんに見惚れているうちに光が魔法陣を完成させ


 ーーー私とビャクシンさんは手つなぎのままフェンネルさんの夢の中に入ったーーー


『キャーウフフフ』

『前から思っていたのよ。貴方ってとっても素敵ね』

『フェンネル好きよ』

『ちょっと私の方が先にフェンネルを好きだったんだからね』

『私が1番フェンネルを想っているわよ』

「ケタケタ、俺も皆んな好きだよ」


 ショッキングピンク色の空間。

 大きな1人掛けソファーへ身を沈め、前から1人膝の上に1人膝掛けに2人後ろから1人合計5人の女性を侍らせたフェンネルさんが鼻の下伸ばして座っている。

 私は顔を知らない女性達だけど、フェンネルさんと女達のやり取りからどうもフェンネルさんの見知った女の人達らしい。


 …ぅわぁ…正直幻滅だわ。フェンネルさん好きな人多過ぎっていうか、さっき夕食で話してくれたクレマチス姫への初恋はどうなったの? あーかと言って、あの女性達の中に姫がいたらもっと許せないわ!…くっ…しかし他人の恋に文句言うのも大人気ないというかルール違反よね…分かっているけど


「ちょっとフェンネルさん女の人のお尻揉みすぎよ!」


 両隣にいる女性のお尻を鷲掴みに揉むフェンネルさんが私の声に反応した。


「ん? あれ? 聖女ちゃん? 何でここに居るの?」


 私の姿を見とめ流石に恥ずかしいのか女性達と少し体を離すフェンネルさん。そしてフェンネルさんは腑に落ちない顔をしている。私ってどうやらフェンネルさんの好みのタイプから離れているようね。フェンネルさんの周囲にいる5人は派手でキツめな感じの女性。クレマチス姫が初恋だから基本的にはゴージャスなタイプが好きなのかな?


『ちょっと! あんた何なのよ!』

『突然現れて私達のお楽しみの時間を時邪魔しないで頂戴!』


 5人の女性が一斉に私をキツく睨む。

 うっ、戦闘レベル23の私だから女5人束になって襲って来られても余裕で跳ね除けれるとはいえ、同性にキツく睨まれるのはちょっと怖い。


「まあまあ皆んな落ち着いて。聖女ちゃん悪いけど今俺お取り込み中だから、ね、察してよ」


 顔中キスマークを付け苦笑いで私に片手を振るフェンネルさん。

 私は隣ではビャクシンさんが絶対零度な目線をフェンネルさんへ向けている。


「これからどうすれば良いですか? ビャクシンさん」


 夢魔を倒しに来たけれどどうやって戦うのか?


「取り敢えず、あの阿保にコレが夢で女は夢魔だと知らせて下さい」


 OK、じゃあ


「フェンネルさーん! フェンネルさんは夢魔に惑わされてますよ! ここはフェンネルさんの夢で現実じゃないんです」


 声高にフェンネルさんに呼び掛けた。


「…え?…夢魔? …夢?…」


 フェンネルさんは首をひねり私の言葉を疑っている様子で周りの女性を触ったり匂いを嗅ぐ。


「いやいや、聖女ちゃん嘘つかないでよ。こんなに柔らかな感触や良い香りのする夢無いよね?」


「嘘じゃ無いです。フェンネルさん今日合った事を思い出して下さい。私達オーク狩りに来てレモンバーム村に泊まったでしょ。レモンバーム村にこの女性達いないでしょ」


「…今日…オーク…」


 フェンネルさんは私の言葉に引っかかったみたいで目を閉じ必死に思い出そうとしている。と、フェンネルさんの周囲の女性達が私に向かい怒り出した。


『この女! 私のフェンネルに変な事言わないで!』

『そうよ! 私達はフェンネルが好きなだけよ!』

『私達がどうやってフェンネルと愛し合おうとあんたには関係ないでしょ!』


 煌びやかな外見の女性達が口々に叫び私に詰め寄る。

 日本で暮らしていた頃こんな目に遭ったらなら泣いてるわね私。でも、この世界に来て剣を握らされ魔物と戦って来た日々精神力がとっても逞しくなっているのよ。今なら八手先輩でも無理だった勤め先の部長にも物申せそうだわ。


「確かに恋愛は自由だと思いますが、貴女達は本人じゃない。仲間のフェンネルさんが夢魔に騙されているのは見過ごせないです」


『うるさーーーい!!!!! 私達の恋路を邪魔するな!!!!!』


 女性達は5人合唱し長く尖った爪を構え私に飛びかかってきた。


 …どうしよう…避けるのは簡単なんだけど倒しても良いのかしら?

 考える私の隣でビャクシンさんが手の平を大きく広げ彼女達に向けて閉じる。5人の女性は地面から少し浮いた場所でボワンと白い煙を放ち、1人の怪しげな美女になって細く白い縄に縛られた状態で地面に尻餅ついた。


『キャッ!』


 目の前に座る美女に驚く私にビャクシンさんが冷静に説明してくれる。


「そよ子が夢魔を引きつけてくれている間に夢魔の正体を出す呪文を組み立てました。目の前にいるのが夢魔、別名サキュバスとも言いサキュバスは男の精を吸い取ります」


 サキュバスは悔しそうに歯軋りしながらこちらを上目使いに凝視している。

 サキュバスは肩までの黒髪に青い瞳が美しく、黒くて細い尻尾と小さな蝙蝠の様な翼が背にある。丸い大きな胸に細い胴体、盛り上がったヒップを黒い小さな面積の下着で心許なく覆っている。

 エロイ、エロイわー。コレは大抵の男性は呆気なく精力を奪われちゃうね。


「それでこれからどうするの? ビャクシンさん」


「そよ子が剣で斬った方がそよ子のレベルアップに繋がりますが…私が魔法で消しても良いです…」


 え〜、悩むなぁ。いくら魔物とはいえ女性の姿だし、襲いかかって来た勢いでなら剣を振れるけれど、こんな抵抗出来ない相手は幾ら何でも斬れないよ。


「すみませんビャクシンさん。今回はお願いします」


 私が言うとビャクシンさんは口端を軽く上げ魔法の杖を袖から取り出して夢魔に振り上げて呪文を唱えた。


『ちくしょーーーー! 覚えてろよ!』


 夢魔は捨て台詞を吐き黒い霧になって大気に溶けた。

 魔物だとしても生物を一瞬で跡形も無くしてしまうビャクシンさんの魔法って怖いくらいに強い。

 ビャクシンさんは美しい顔で平然と最強を見せつけるからそれが余計に冷徹な感じ。

 …ううん…ビャクシンさんの優しさを知っているじゃない。ビャクシンさんの力が強大で彼に畏怖してしまうなら私がもっと強くなれば良い。ビャクシンさんの側にいるって言い出したのは私だ。私がこの人の横に要る為にもっと努力しよう。


 私は無意識にビャクシンさんと繋いだ右手に力を込めた。ビャクシンさんは私に答える様に少し強く握り返してくれた。













ここまで読んでいただき有難うございました。

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