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黒い奴隷  作者: 渡辺朔矢
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村人を襲う魔の手

 ビャクシンさんに夕食を済ませたか聞くとまだ食べていないとのことだったので、食堂でビャクシンさんに食事をとってもらう。ビャクシンさんが何を食べるのか興味があったので彼が注文をするのを黙って見ていたら、野菜スープのみだった。


「それだけで足りますか?」


 魔物料理(ポークテキ)は一般的じゃないからたのまないのも分かるけれど、パンもチーズもハムも食べないのかな?


「ええ、今晩はもう寝るだけですし、あまり食べ過ぎるとお腹が重く寝苦しいので」


 まあ、そう言われれば納得なんだけれど、ゴブリンに誘拐された少女達と食事した時もビャクシンさんスープしか口にしていなかったよね。…パンやお肉は食べないのかそれとも食べられないのか…不老不死の体では色んな物を食べる事が出来ないのかしら?

 やっぱり好きな人の事は沢山知りたいもの聞いてみても良いよね。


「あ、あのビャクシンさんってもしかして野菜スープ以外食べらーーーーーー」

「お待たせしましたぁ! 野菜スープですぅ!」


 タイミング悪くウエイトレスさんが野菜スープを持ってきた。

 うぅ仕方がない、ウエイトレスさんが去ったらビャクシンさんにもう1度聞こうーーー…え〜と…ーーー何故かウエイトレスさんが立ち去らないっていうかモジモジしながらビャクシンさんを見てる。ビャクシンさんから声をかけてもらうのを待っているみたいなんだけれど、ビャクシンさんはウエイトレスさんを無視して食事しだした…ああ…もう!


「あの、何かご用ですか?」


 私が尋ねるしかないよねって、ウエイトレスさん私に聞かれてちょっと不機嫌な顔付きになるけれど、この状況は私のせいじゃないと思うの。


「こちらの美しい方が魔法使い様だと思いまして、それで…あの…ちょっとご相談したいことがあって」


 ウットリとビャクシンさんを見て言う。

 ビャクシンさんの普段着が魔法使いしか着ないローブだから魔法が使えるってバレバレなのかしら。ウエイトレスさんは17歳くらいの女性。若い彼女は見目の良いビャクシンさんに好意を持ったみたい。彼女から熱い視線を注がれるビャクシンさんはウエイトレスさんに興味を示さずスープを飲んでいる。


 ビャクシンさんのこういう私以外に関心を示さない態度はあまり好きじゃない。

 私を1番に考えてくれるのは嬉しい。でもビャクシンさんにとっては私だけ。沢山の人間が住む世界で、私以外の人を彼の中にいれないというのはビャクシンさんを寂しくさせていると思う。

 それに世間から離れ2人だけで生きてはいけないのが人間の営みだ。私はビャクシンさんと人の中で人生を一緒に歩みたい。


「ビャクシンさん、彼女の悩みを聞いてあげて下さい」


 ビャクシンさんはスプーンを口へ運ぶ手を止め、厄介ごとを回避しない私に少し不満気な表情を見せ、ウエイトレスさんの方を向いた。


「相談というのは?」


 ビャクシンさんの美しい青い瞳に映り真っ赤になるウエイトレスさん。彼女はしどろもどろになりながら


「あ、はっ、あの、実は、この村はオークの被害の他に1ヶ月ほど前から眠むり続けるというか、え〜と、目が覚めないみたいな…叩いても揺り動かしても起きなくて…寝ながら衰弱していく男女が複数いるんです。

 で…その…眠り方が普通の感じじゃなくてもしかしたら、魔物の仕業じゃないかと村の皆んな話していて…魔法使い様に調べて頂けたらと思って…」


 ウエイトレスさんはビャクシンさんの視線に舞い上がってしまい、彼女の話の内容はイマイチ分かりづらい。要約すると眠ったままで弱っていく村人がいる。その様子から魔物の仕業じゃないか? と。それをビャクシンさんに調査して欲しいってことかな?


 話を聞き終えたビャクシンさんはスッと目線をウエイトレスさんから外し私を見つめ


「分かりました。今夜は遅いので明日その村人を診ましょう」


 と、返事をしてスープを飲みだした。ウエイトレスさんはビャクシンさんの言葉を聞いて、パッと明るく笑顔で頭を下げるとウキウキと跳ねるように厨房へ歩いて行く。


 あ〜、ウエイトレスさんに言ったというよりビャクシンさん私に宣言した感じ。こう言えば満足でしょうって。…まあ…明日、その眠り続ける村の人を診てくれるとビャクシンさんが口に出してくれたから、面倒だからと断らなくて安心したわ。知恵者のビャクシンさんならその眠り病について何かしら分かりそうだから。


 ビャクシンさんの食事が終わり受付で部屋を1つ借りる。空室が沢山あってビャクシンさんは私の部屋の隣を借りた。部屋へ帰る前にビャクシンさんと一緒に酔っぱらったフェンネルさんの様子を見に行く。

 フロント横の階段を上がり2階のフェンネルさんの部屋の扉をノックするも返事は無い。


「寝ているのかな? このまま朝まで静かに寝かせてあげた方がいいのかな」


「騎士殿はそよ子を放って置いて酒に浸り寝ているのですか?」


 ビャクシンさんが眉間にしわを寄せて怖い顔をして言う。フェンネルさんは聖女(わたし)の護衛という任務も背負っているから、役割をしっかり果たしていないと腹を立てている様子。


「私もここでお酒を飲んだんだけれど凄く強いお酒で、フェンネルさん自身も予想外に酔ってしまったみたいだから怒らないであげて」


 ああ、私がフェンネルさんを庇う発言はビャクシンさんへは逆効果だわ。不機嫌な顔になってる。


 でも実際、フェンネルさんには魔物が食べたいという私の我儘を聞いてもらっているのだし、あのお酒は口当たりがとても良かったからついつい飲んでしまったのは仕方がないの。アルコール度数が高いと知らなかったフェンネルさんを責めないで欲しい。

 そうだわ。フェンネルさん自身もお酒に酔うなんて自覚がなかったみたいだし、紳士なおじ様が面倒をみてくれたとはいえ急性アルコール中毒とかになっていると心配だから、ちょっと部屋を覗いてみよう。


「フェンネルさん失礼します」


 一声かけてドアノブを回すと扉は簡単に開いた。

 部屋の中は真っ暗で廊下の明かりが少し入った程度ではベッドにいるフェンネルさんの顔は見えない。先程のおじ様がいないのは分かるけれど、ここからじゃあフェンネルさんの様子は分からないから部屋の中に入ろう。と、足を踏み入れるとビャクシンさんが私の前に出た。そしてビャクシンさんは小さな光球を出してベッドへ近付く。


 ビャクシンさんもフェンネルさんの事が気になるのかしら? … あー…違うか。私が他の男性に寄るのが気に入らないのね。現世(日本)の私に恋人が出来ないように呪いをかけてた(ひと)だもの。ビャクシンさんはかなりな束縛系だわ。私も恋愛に関しては一途が望ましいとは思って入るけれど、ビャクシンさんと付き合うのなら覚悟が必要ね。


 ビャクシンさんの背中越しにフェンネルさんの顔を覗くと幸せそうにグフグフとだらし無く口を歪めて寝ている。楽しい夢をみているのか、フェンネルさんの顔メチャクチャ緩んでいるわ。普段からキリッとした表情はあまりしないけど。でも、この様子なら大丈夫そうね。


 安心して廊下へ戻ろうと思えばビャクシンさんがフェンネルさんの枕元から動かない。

 何かあるのかしら?


「ビャクシンさん?」


 フェンネルさんを起こさないように小声でビャクシンさんに声をかけた。ビャクシンさんは涼やかな目元を細め、小さな光球に照らされるフェンネルさんの顔を見ながら大きなため息を吐く。


「この役立たず、魔物に魅入られています」


 鋭く冷たい眼差しでビャクシンさんはフェンネルさんを見下ろす。


 ええ! 魔王討伐隊の1人のフェンネルさんに魔物が憑いているの! 酔っぱらっているとはいえフェンネルさんって抜け目無い性格で能力も高いのに。


「一体、どんな魔物にフェンネルさんはやられているんですか?」


「呼び方は色々ありますが夢魔ですね」


「夢魔?」


「人の夢の中に入り精神世界から人間の精力を吸い取る魔物です。

 先程、食堂でウエイトレスが話していた村人が眠りから目覚め無いのもこの魔物が原因でしょう。

 そよ子? どうしました? そんなに目を大きく開いて」


「すごい! ビャクシンさん! ひと目見ただけでフェンネルさんの状態を見抜いたり、魔物の正体が分かるなんてビャクシンさんって本当に最高の魔法使いなのね」


 私にはフェンネルさんは寝ているだけにしか見えないのにと感動してついつい声に出してしまった。

 暗い部屋の中の小さな光に浮かぶビャクシンさんの表情は少し照れたように和らぎ、今までの冷淡な空気から優しい穏やかな雰囲気に変わって私を包む様に見つめてくれる。


 ビャクシンさんはこの世界()しかいない、()しか要らないと思い込んでいる。だから私の言葉や態度に彼は一喜一憂する。この特別感は嬉しくてそして哀しい。ビャクシンさんはこの広い世界の中たった1つの小さな光しか求めないけれど、私はビャクシンさんに()がいなくても幸せを感じて欲しいと思っているから。







ここまで読んでいただき有難うございました。

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