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黒い奴隷  作者: 渡辺朔矢
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宿の食堂で魔物料理

レモンバーム村の宿でオーク料理を食べます。

「お待たせしましたぁ。うちの看板メニューオークテキでぇす!」


 ドンッとテーブルに置かれた大きなオークのお肉!

 ジュワーと辺りに漂う香りが食欲をそそりとても美味しそう!


 目の前の席に座るフェンネルさんに食べていいかと目配せすると


「…じゃあ…食べようか」


 彼は苦い表情で言った。


「いただきます!」


 お皿からはみ出す大きさの柔らかな肉をナイフで一口大に切って口に入れる。


「ン〜〜〜! 美味しい!」


 オークテキにかかるソースはお醤油に似た味がするし、肉には塩と胡椒? でしっかりと味付けがしてある。コレはコレで日本の味に近くてお腹も心も満たされるわ。幸せ〜。


 レモンバーム村へ着いたのは暗い夜を迎えた頃。私の想像以上に村は観光地として宿屋や食堂が多く整備されてはいたけれど、お客さんは閑散としている。魔王復活でオークが凶暴化し数が増え観光客もオークに襲われたりしたからだ。


 まあ、そのお陰でレモンバーム村の観光案内所で聞いた普段なら予約で一杯の1番人気の宿へ入ることが出来た。この宿は3階建てで1階が食堂で2階と3階が宿泊施設になっていて3階には特別室まである。白い壁に青い屋根の颯爽とした雰囲気が素敵な宿。

 宿の食堂のメニューにはカツが無くてガッカリしたけれど、フェンネルさんに話して案内所で聞いたらこのお店から10分程行った所の食堂で、オーク肉にパン粉をまぶし揚げた料理が食べられる店があるらしい。

 今夜はもう遅いからこの宿で食事をして寝るが、明日の昼にカツのお店に連れて行ってくれるとフェンネルさんは約束してくれた。

 やったね! 今晩のテキも美味しいけれど、明日のカツも期待しちゃうわ!


 …しかし…それにしてもオークテキ美味しいのに、フェンネルさんはこの料理あまり好きじゃないのかな?

 お肉を食べてはいるけれどいまいち乗り気じゃない感じ…あ…魔物料理って一般的には食べない物だから


「フェンネルさん」


「ん?」


「あの…私に付き合わせてしまってすみません。

 オーク料理…フェンネルさんは食べたくなかったですよね」


「あー、まあ、自分から食べようとは思わないかな。

 でもね…食べられないって訳じゃないよ…むしろ好きって言うか」


 フェンネルさんは眉を下げお酒をグイッと口へ入れた。


 オークテキを注文した時に一緒にアルコールも注文している。私にはこのお酒はアルコール度数がかなりキツイ。口当たりは良いのに後でシッカリアルコールが効いてくる。せっかくの旅行だから地酒を注文したけれど、これだけ強いお酒は明日絶対に二日酔いになると思うから、私は飲むのを早々に諦めた。


「魔物料理を見ると…昔を思い出してね…」


 アルコールがかなり高いのに、フェンネルさんはお酒に強いのかグイグイ飲みながら話す。

 そういえばフェンネルさんとは結構一緒に行動してきたのに、こうやって食事やお酒を一緒に摂るのは初めてだわ。


「俺の生家はマジョラム国の辺境にあって、俺はその地の領主の3番目の息子として生まれたんだ。領主の息子っていっても俺ん家かなり貧乏で、食う物が無い時には領地内にいるコカトリスを食って生活していた」


 フェンネルさん…顔色は変わらないけれど目が遠くを見ているような感じ…

 酔っ払ってんのかな? …どうしよう…お酒取り上げたほうがいいかしら?

 う〜ん…でも饒舌にフェンネルさんの事を話してくれてるし…もう少し様子を見ようかな。


「そんで10歳の時、俺の戦闘レベルとステータスの高さにビジョラムの王族が目を付けて…俺は親元を離れビジュラム城で暮らすようになったんだけれど…俺がコカトリスを食ってたのを知ってる奴らがいてさ。魔物食いって物凄く蔑まされたんだ」


「ああ、生活環境が違うからっていじめは酷いですね」


 王族や貴族って自尊心が高くて閉鎖的な人が多いみたいだし、基本首都で暮らしているから地方の生活文化とか考えもしない。才能を認められて僻地から上がった少年に対しての風当たりは強かったんだろうなあ。


「うん。あ、でも俺戦闘能力が高かったから、俺に聞こえた悪声の主は大人も子供も殴ってた」


 ハハハと明るく笑いながらフェンネルさんはテキを頬張りお酒を飲む。

 フェンネルさんって普段は飄々とした雰囲気なのに…今夜はやけに豪快な様子…と思いきや急に落ち込んだ。やっぱ酔ってんのかな?


「ただ1度だけ…クレマチス姫に哀れみの顔をされた時…俺はね、本当に傷ついたよ」


「え? クレマチス姫」


 クレマチス姫にたった1回哀しそうに見られた事が、貴族達に蔑まれるよりもトラウマになっているの?


「城に上がったばかりの頃、年上の奴等に囲まれて田舎者だの魔物を食う未開人だの罵られて、俺は腹が立って魔物は美味い! って叫んじまったんだよ。この城で出る肉よりもコカトリスの方が何倍も美味しいって。その俺を見てクレマチス姫は肩を落として可哀想な子を見る感じで俺を見ていたんだ」


 その状況は、本当にクレマチス姫がフェンネルさんを魔物を食べる哀れな少年として見てたのかな?

 もしかしたら、貴族に囲めれ貶められる少年に対して不憫とか、魔物を食べないといけない暮らしを心配してとか?

 あ、でも私も男装姿を姫に気の毒そうにと見られていると思ったから、クレマチス姫の艶っぽい妖しい目つきがそう感じさせるのかも。


「俺はさあ辺境伯の息子で、俺の曽祖父が王族で姫と俺は遠縁なんだ。

 俺は城へ上がって初めてクレマチス姫に会った時に…こんな綺麗な少女がこの世にいるなんて信じられないと感動したんだ…」


 ん! いきなりのこれは恋話なの!

 憧れな(ひと)に人に忌み嫌われる魔物を食べる少年として見られてしまったから、魔物を食べる事が心の傷になっているのね。


「美しい姫に魔物食いって見下されると…俺は…好物だった魔物なのに…口にしようって気がしなくなって…」


 ああ、成る程理解出来る気がするわ!

 恋した相手に世間的には下位な行動をしているのを知られるのは格好が悪いと思うもの! 特にフェンネルさんは見た目を気にするタイプみたいだし余計にそう感じたのね。

 それにしても、フェンネルさんってクレマチス姫の事が好きだったの!

  久々に聞く他人の恋話! ワクワクするわ! 今もフェンネルさんはクレマチス姫の事が好きなのかしら? …気になる…聞いたら答えてくれるかな?


 と、質問しようとしたらフェンネルさんは大きな肉片を口に運んで


「クッハー! 久々の魔物肉うめえーーー!」


 ガツガツとオークテキを頬張ってグビグビお酒を飲み叫んだ。


「この野性味が美味い! 首都で上品ぶって食事するよりもずっと美味く感じる!」


 あー、フェンネルさん今まで押さえていた気持ちが爆発したみたい。

 でも、美味しく食べるのは良い事なんだけど声のボリュームがデカイ!? いくら空いているとはいえ私たちの他にお客さんが5組は食堂にいるの。騒音は迷惑だよ。大声を出すのを止めさせないと。


「フェンネルさん静かに。もう少し小さな声で」


 対面に座るフェンネルさんからお酒のグラスを取り上げようと手を伸ばした。

















ここまで読んでいただき有難うございました。

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