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黒い奴隷  作者: 渡辺朔矢
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対決オーク

「プギィーーーーー!」


 黄金色に近いオレンジと透きとおる青が交じり合う空の下。腰丈の草が伸び放題の見通しの良い草原に魔物の声が響き渡る。高い鳴き声を上げ草を薙ぎ倒して走る肌色の大きな魔物。


「聖女ちゃん! そっちへ1頭行った!」


「分かりました!」


 2メートルは有にある大きな豚に似た魔物が、草の中を私目掛けて突進して来る。

 巨豚はオークという名の魔物で畑や家畜を襲い、時には人間を襲って食べてしまうらしい。

 ゴブリン(ひとがた)に比べたら斬るのを躊躇う気持ちは生まれないし、それにオークは鼻の短いデッカイ豚って感じでとっても美味しそうな見た目をしている。


「ブッ! ブギィーーー!」


 私を目に留め鼻を大きく鳴らし加速して突っ込んで来るオーク。

 日本にいた頃だったら巨体な生物にすごい勢いで向かって来たられたら恐怖で体が動かなかったけれど、戦闘レベルやステータスの上がった今、オークの動きは遅く見えるし直進しかしない彼らの動きはとても捉えやすい。


 突撃を闘牛士の如くギリギリで躱しオークの太い首へ聖剣を落とした。


 バッ! シャン!!


「ピッーギイ!!」


 オークの首は皮1枚で繋がれ、巨体は地面を滑り倒れる。真っ赤な血を噴き上げ草むらに横たわるオーク。

 フェンネルさんが駆け足で来た。


「フゥ、だいぶ狩ったなぁ」


 今朝、私とビャクシンさんが色々とあったからフェンネルさんと此処(オーク狩り)に着いたのは昼過ぎ。当初の狩りの予定時間が短くなってしまったけれど、聖剣が思っていた以上に使い易くてサクサクと魔物(オーク)を倒せたよ。


「ええ。沢山斬りましたねえ。

 でも、私手が痛くないですしそれに疲れもあまり感じていないです」


 あんな巨大な魔物を力を入れずにスパッと斬れる聖剣。恐ろしいほどの斬れ味。

 そして剣を使い終わり刃を下に向けるとフッと鞘が現れ剣を納めてくれるオート機能。聖女サクラ様が剣に着けた付加の内の1つらしい。鞘を失くしたり剣刃での怪我の心配が無くて大変便利だ。


「あー、やっぱりその聖剣って凄いんだね」


 フェンネルさんの言葉ににっこり微笑み桜色の鞘に頬擦りする。

 聖剣は見た目はシンプルで飾り気がない十字の剣だけど、握り易い! 軽く振れる! 鋭い斬れ! で機能性は抜群。 本当に良いものを貰った。


「それに何と言っても、あの魔法使い殿を気絶させたっていうのに俺は驚いたよ」


 フェンネルさんは愉快そうに腰に手を当てニヤつく。


 今朝、私はビャクシンさんが余りにも強引だったから聖剣で殴って強制的に黙らせてしまった。

 やり過ぎたとは思うけれど後悔はしていない。

 でも叩いた後にビャクシンさんが目を覚ます気配が全く無くて、慌ててクレマチス姫とフェンネルさんを呼びに行った。倒れるビャクシンさんを見てフェンネルさんは何故か感動したって言って私を褒め、クレマチス姫も口の端が上がるのを必死に押さえながら


「聖女様…心配しないで大丈夫よ…ププ…こんな間抜けな姿のフェンネル初めて見た…ププ…今日のレベル上げはフェンネルと2人で行って…ププ…いい気味…ププ…」


 って、あれ? クレマチス姫ビャクシンさんに恋していると思っていたのだけれど? 違ったのかな?

 まあ、クレマチス姫がビャクシンさんを看てくれるって言うから心強い。


 気絶するビャクシンさんをクレマチス姫に任せて、最初の予定通りフェンネルさんと私2人でオーク狩りに来たのだ。



「ところでフェンネルさん。狩ったオークはどうするんですか?」


 広い原っぱに点々と転がるオークの死体。このままオークの死体を置いて帰るのは勿体無いと思う。

 何故ならオークって豚に酷似していて、私は今無性にトンカツが食べたいの!この世界にも揚げ物料理はあるから、今日倒したオークをお城に持ち帰り料理していただきたい。ただ、1頭が何百キロもある巨体だから、私とフェンネルさんだけでは馬車で運べないよね。しかし1頭で良いからお持ち帰りしたい。


「聖女ちゃん…ヨダレ出てるよ…」


「ハッ、じゅる。失礼を」


 しまった! フェンネルさん、めっちゃ引いている。


「オークの死体は近隣の村人が集める段取りだよ。

 その村では昔からオーク料理が盛んで村人も食べるけれど観光資源にもなっているからね。

 ただこの数年、魔王復活の影響でオークが急激に増えて凶暴化し、村人の手に負えなくなったから俺達が今回狩りに来たんだ」


 ああ、ここは近くの村の人達の猟場なのか。この世界でも猟場の権利とかあるのかな?

 しかし私は日本を離れ早5ヶ月。好物のトンカツを食べたい欲求は高まっている!


「あの、例えば1頭だけでいいのでオークをお城へ持ち帰っては駄目ですかねぇ?」


 一応私が戦って倒したんだし報酬って事で1頭貰うってのは、ムム、フェンネルさん難しい顔してる。


「…う〜ん…何で聖女ちゃんが美味しそうな食べ物を見る目でオークを見つめるのか分からないけれど、魔物を食べたいのなら専門料理人でないと魔物は調理出来ないよ」


「…魔物専門料理人?…」


「そう。魔物は誰でも調理できる訳では無くて、オークならオーク専門料理人が必要だし、ミノタウロスならミノタウロスのコカトリスならコカトリスの其々の専門家が料理した物でないと駄目だよ。素人が魔物を料理して食べると食中毒を起こして死んだりするから危ないんだ」


 そうなのか、外見や特徴が豚みたいでもオークは魔物だから、フグみたいに毒のある臓器を持っていたりするのかな?


「それにお城の料理人は王族への責任から魔物を調理しないはずだよ」


「ええ! お城で出される料理は美味しくて品数も豊富だから、あそこのコックさん達なら何でも料理出来るのかと思っていました」


 フェンネルさんは夕焼けに煌めく金髪を軽く横に振り


「魔物を食べるって事は食料危機で他に食べ物が無い状況から民は仕方なく魔物に手を伸ばしたんだよ。

 王様が魔物を食べないといけないような飢餓的状況はマジョラムの歴史上無いから、お城では危険な魔物を料理する必要は無いんだ」


 ああ、納得だわ。マジョラムってかなり大きな国だもの。

 国王が食べ物無いなんて国土の広さからもあり得なさそう。


「じゃあ、私がオークを食べるのは無理そうですね」


 ううう…すっごく残念だけれど諦めるしかない…せめてオークを解体してロースかヒレ部分のスライス肉が手に入れられれば、私でもトンカツを作れるんだけど…食材が手に入らないんじゃ手作りも出来ない…


 ガッカリする私を見てフェンネルさんは言う。


「そこまでオークを食べたいのなら、この近くの村レモンバームに行こうか?」


「え?」


「魔物を食べる技術を習得した土地はその知識を門外不出にしているんだけどレモンバーム村はオークを観光名物にもしているから宿や食堂でオーク料理を食べられるんだ。聖女ちゃんがオークを食べたいと望むなら、今晩レモンバームの宿へ泊まる事になるけれど俺が連れて行ってあげるよ」


 急な話だけれど、観光地へ名物を食べに行くなんて! しかも宿へお泊まり! 異世界(ここ)に来て初めての旅行だわ!


「あの、フェンネルさんの都合が良ければ私レモンバーム村に行ってみたいです」


「OK! じゃあクレマチス姫には今晩レモンバームに泊まる事を伝えておくよ」


 きゃあ! 楽しみ! 旅行大好き!

 OLの好物の1つ旅行! 年数回の長期の休みには先輩や女友達を誘ってよく旅行に行っていた。

 旅の予定に期待して旅の体験に喜び旅を楽しんだ思い出を胸に仕事に励む。


 今回ワクワクする時間は短いけど今からこの世界での初めての経験をすると思うと急激に気持ちが高揚してくるわ! 私が食べたいトンカツが有るか分からないけれど、観光名物を食べにいざ行かんレモンバーム!












ここまで読んでいただき有難うございました。

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