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黒い奴隷  作者: 渡辺朔矢
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占い

普段なかなか使う予定がない有給で占いに来てみました。

 新幹線の止まる駅の上の大型ショッピングモール。

 その建物内13階のエスカレーター際にあるカーテンと衝立で仕切られた狭い空間の中に苣木先輩が教えてくれた占い師さんが居る。


 今日は有給を取って占いに来た。平日の昼中だというのに3時間並んで漸く順番が回ってくる。

 苣木先輩から凄く人気のある占い師さんだとは聞いていたけれど、こんなに長時間待つとは思っていなかったわ。しかし、これだけの行列が出来るのだから、ここにいる占い師さんはさぞかし未来への良いヒントを告げてくれるのだろう。すっごく期待してしまう!


「大変お待たせしました。次の方、どうぞお入り下さい」


 低いけれど透き通る様な良い声がカーテンの中からする。開けて中に入ると思ったていよりも明るい蛍光灯が照らす場所で占い師さんは頭から白い大きな布で全身を覆い、手と目しか姿が見えない状態で椅子に座っていた。


 布のせいで顔も体も見えないが、肩幅が広くて上背が高いし声の感じからして若い男性の様だ。

 私は男の占い師さんに視てもらうのは初めて…ちょっと緊張してしまうなぁ…


「こんにちは。

 こちらに掛けて記入用紙に必要事項を書いてください」


 占い師さんに促されて、目の前の簡易的な椅子へ腰掛けた。

 占い師さんと私の間には紺色の布をかけられた机があって、その上にはメロンくらいの大きさの美しい透明な水晶が置かれている。紙には必要事項といっても名前と生年月日を書くだけ。


「お願いします」


 記入して占い師さんに渡すと


「ありがとうございます。

 そよ子さんってお名前なんですね。涼やかな良いお名前ですね」


 と優しく言って、男の占い師さんは場を和ませてくれた。「いえいえ、そんな…」と照れる。


「そよ子さんは此処は初めてですよね。

 うちはお一人様占う内容は1つで30分間〇〇〇〇円になりますが、良いでしょうか?」


「はい」


「今日、そよ子さんが知りたいのは恋愛。何時そよ子さんが運命のお相手に出会えるのかって事ですね?」


「はい、恋人が欲しくて」


「わかりました。では早速占ってみましょう」


 占い師さんに机上の丸い水晶を両手で囲うように指示された。


「失礼します」


 と言って占い師さんが私の手の上に手を重ねる。

 軽く心臓が跳ねる。男性に手をこんなにシッカリと包まれるのは初めてだから。

 占い師さんの手は綺麗で指が長く大きくて私の手はスッポリと覆われとっても暖かい。


「そよ子さん、水晶の中を覗く感じで見つめてください。

 そうです。良い感じです」


 この水晶すっごく綺麗な透明だなぁって思うけれど…?…私には自分の顔が逆さまに映っているのが見えるだけ。そういえば水晶占いも初めての経験だわ。こんな感じで未来が分かるのかな?


「あ、そよ子さん、水晶から目線を外さないで下さい。

 もう少しでそよ子さんの未来が見えますから」


「す、すみません」


 成る程、私が見つめる水晶を見て占い師さんが霊感で水晶から私の未来のビジュンをよみとっている感じなのか。占いっていうよりも透視とか未来予知って感じなのかな? 苣木先輩に占いの手法を聞いておけば良かった。


「う〜ん、そよ子さん。失礼ですが今迄、彼氏がいたことがないですか?」


「あ、はい。そうです。今年で23歳になるのですが、恥ずかしながら1度もなくて」


 凄い! 私の事を何も話していないのに当てた!


「あ〜、そうなんですねぇ。何だろう? う〜ん……」


 占い師さん、なんか悩んでいる? もしかして、私にはこの先の人生にも彼氏がいるのが見えないのか?


「あ、もう両手と目線を水晶から離していただいても大丈夫です」


 水晶から手を離して占い師さんを見ると彼は水晶を持ち上げて覗き込んでいた。

 ゴクッ、緊張する。


「私が見たところ、そよ子さんの運命の相手はかなり遠い所にいる様ですね」


「え!? それはつまり…出会えない…ということでしょうか?」


 ガーン! ショック!! まさかこんな最悪の結果を聞くなんて。


「いえいえ、違います。

 そよ子さんは運命の男性に出会える筈です。

 水晶の中には…そよ子さんと…背の高い男性が寄り添っているのが見えますから」


「ヤッター! バンザーイ!! 」


 思わず両腕を上げ大声で喜ぶ。


「…ただ…」


 え? 何? 占い師さんが怪訝な目で私を見る。


「とても言いづらいのですが…そよ子さんには…男性が近寄らない様に邪魔するものが付いているみたいです。呪いっていうのか」


 …は?…のろい? のろいって


「えええ! のろいって人から恨まれたり妬まれたりして不幸に貶められる、あの呪いですか?」


 占い師さんは頷く。


 まさか…そんな…いや、確かに今までの人生で自分と性格が合わないと感じる人とか沢山出会ってきたけれど、私が酷く誰かを虐めたとか貶めたとかはした事が無いよ!

 彼氏が欲しくて沢山の男の人に声をかけていた時だって、彼女や奥さん持ちの人には当然近づかなかったもの。呪いをかけられる程の恨みをかった覚えは無いよ。


「そよ子さん、落ち着いてください。

 呪いといっても私もハッキリと分かるわけではないのです。ただ、水晶を通して見た感じそよ子さんには何かが付いているようなんです。その何かを取らないと運命の相手はおろか異性と付き合えないんじゃないかと思えます」


「その何かってどうやれば、何をすれば取れるんですか?」


「呪いの正体は私には分からなくて…正直、そよ子さんの様なケースは初めて見たので…」


 言い淀む占い師さんを他所に私は何だか少し落ち着いた。

 今迄お金と時間をかけて女子力付けて出会いの場に沢山行って、積極的に男性にアタックしてたのに恋人が出来ないから、その度に反省して自分に足りないモノや悪い所を追求して沢山努力してきた。私は心身共に疲れてしまっている。

 呪いって怖い話なんだけれど、頑張っていた自分は悪くなかったんだ。

 そっか呪いがかかっているんじゃあ、自分をどんなに磨いても恋人が出来るのは無理だったんだね。

 彼氏が出来ない原因が自分の努力とは別にあると分かってスッキリした。


「そよ子さん。気休めかもしれませんが、凄く神格の高い神様が祀られている神社をお教えしますので、良ければそこで厄払いをしてもらって下さい。あと、コレをどうぞ」


 占い師さんは机の下から薄紫と桜色の2色で作られたミサンガを出して、私に手渡してくれる。


「このミサンガ私の手作りなのですが、厄除けと良い恋愛ができるように祈りを込めて編んだんです。

 そよ子さん、良かったら貰ってください」


「え…っと…いくらですか?」


「いえいえ、お金は入りません。プレゼントします」


「ええ、いいんですか。有難うございます」


 なんて、良心的な占い師さんなんだ。


「フフフ、この先の未来でそよ子さんが運命のお相手と出逢える事を祈っていますね」


 占い師さんの顔は見えないけれど、声の感じからして微笑んでくれているようだ。

 私は占い師さんがくれたミサンガを手に目の前にかかる深い霧が晴れてきた気がした。






ここまで読んでいただき有難うございました。

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