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黒い奴隷  作者: 渡辺朔矢
25/42

対決ゴブリンの巣

赤毛の少女と父親の話を聞きました。

 細い月が寂しげに空に浮かぶ夜。

 月明かりすら殆ど無い夜の森。高い木々に鬱蒼と茂る闇の中で体を屈め、少し離れた大きな岩の前を見張る。岩の前には小さな篝火が2本焚かれ数匹のゴブリンがウロウロと歩いているのが見える。


「…聖女様って…凄いな」


 長くうねる金髪を1つに括り耳には数個のピアスを着けるチャラい感じのフェンネルさんが、私の隣で長い足を折り曲げて地面に片膝をつけて言う。これだけ光が無いと横にいるフェンネルさんの顔も見えない。


「…凄い?…」


「戦闘レベルの上げ幅が高いのと巡り合わせが…やはり運命的な感じがするよ…」


 私がどういう意味ですかと小声で聞くと、フェンネルさんは悪い意味で言ったんじゃ無いよと小さく囁いて言葉を付け加えた。静かにしろと私達の1歩前にいるクレスト隊長がフェンネルさんに鋭い口調で注意を飛ばす。


 私は戦闘レベルが昨日1日で15から21に6アップした。普通じゃないレベルの上がり方をしているらしい。

 う〜ん、運命っていうか流されるまま巻き込まれていたらこうなったって感じで、私が凄いわけではないと思う。



 ▽▽▽



 先ずは昨日、村の少女3人をゴブリン達から助けた事から始まり、今朝娘達を村に送って行ったら娘とその親達に村の他の女性達もゴブリンに攫われたから助けて欲しいと頼まれた。ビャクシンさんは私に村人の頼みを聞く必要は無いと言ったけれど、私は村の人達の様子を見て断れなかった。


 例年、ゴブリンが誘拐する女性の人数は1年間に多くても3人か4人くらいだったのが、魔王が復活したこの数年でゴブリンの活動が活発になり、今年に入って村の若い娘は殆ど連れ去られてしまったのだという。


 村の女性達は少女達の母親とは思えない程老けた見た目をしていて、村の中には年頃の若い女性が見当たらず幼い少女も少ない。かと言って男性の数も多いかというと女性よりは沢山いるけれど、怪我を負っていたり体が欠損している男が多い。


 話を聞くと、ゴブリンは女性を誘拐する現場を村人に見つからないようにずる賢く姑息に連れ去る。偶々ゴブリンの犯行現場に出くわした男性がゴブリンに襲われるてしまう。ゴブリン1匹は非力だが集団で武器を持っていきなり襲って来るので、村人はゴブリンの攻撃を防げずに手足を失くしてしまうし運が悪いと殺される。


 村の人達だって今まで頑張ってゴブリンに抵抗していたけれど解決には及ばないそうで、私は村の娘さん達を救いたいと考えた。私達でどうにか村の女性をゴブリンの魔の手から救い出したいとビャクシンさんにお願いしてみる。彼が断ろうとした話をビャクシンさんに助けて欲しいと言うのは気が引けるが…私1人ではどうしたら良いのか分からない無理な話しだから…


 ビャクシンさんは村人の話を黙って聞いていたけれど、私が女性を救いたいと懇願したら小さな溜息を落として

「気は進みませんが…計略はありますから…そよ子はこの村で待っていて下さい」

 と言って瞬間移動した。


 私はビャクシンさんが女性奪還作戦を考えてくれるなら安心と大船に乗った気で村の中で呑気に座り赤毛と茶髪の少女とその友人達とお喋りをしだした。皆、瞳をキラキラさせて魔法使い様が美しいとか魔法初めて見たとか剣士様は何故女性なのとか、何処の世界も子供は好奇心一杯で色んな質問をされる。

 明るい子供の顔を見るのは楽しいけれど、子供達の勢いが凄くてちょっと大変と思っていたら、ビャクシンさんはクレストさんとフェンネルさんを連れて短時間で帰って来た。


「聖女様! ご無事で!」

「聖女ちゃん! 昨夜は大丈夫だった!」


 2人共私の身を案じてくれていた様子で私の周りの子供を掻き分けて私の側へ駆けつける。

 …ビャクシンさんの信用度って低いのかな…。


 この後、私は昨日ゴブリンを剣で斬った話と少女達の村の話をクレスト隊長とフェンネルさんにした。

 ゴブリンを剣で斬る事は未だに躊躇う気持ちはあるが、ゴブリンに誘拐された女性達を救いたいと2人に話すと、クレスト隊長とフェンネルさんは直ぐに事態を飲み込み女性救出作戦を行う事になった。



 ▽▽▽



 そして今、私はクレスト隊長とフェンネルさん、ビャクシンさん達とゴブリンの巣だといわれる大きな岩の洞穴前にいる。


 作戦の指揮を執るのはクレスト隊長。流石、隊長だけあって戦略を練るのが早いというか、私以外の3人の行動は事前に決めていたかのようにスムーズに動いている。私はこの奇襲において目の前にいるゴブリンを斬ることだけ考えろと指示された。拐われた女性達はクレスト隊長が助けだしてくれる。3人が頼りになるから心配はないけれど…敵に奇襲をかけるこの張り詰めた空気…今までの人生で他者を襲うって場面が無かったから緊張するわ。


 静かな夜の森の中で真っ暗な木の茂みからゴブリン達を見つめた。ゴブリン達はゆったりと退屈そうにフラフラ巣穴を漂っている。


「…それでは…行こうか」


 クレスト隊長の言葉を皮切りに私達は声を上げずにゴブリン達目掛けて走った。

 私は剣を両手に強く握り一番近いゴブリン目掛けて剣を振るう。昨日のゴブリン同様、軽く2つに斬れる。岩穴の前に佇むゴブリン達は自分達が攻撃を受けたと理解するのが遅く呆気に取られた状態で私に斬られていく。


 斬る! 斬る! 斬る! 斬る!

 隊長に言われた通り目の前のゴブリンを斬る!

 洞窟の中からは異常を察したゴブリン達が手に武器を持ち、ワラワラと此方へ出て来た。


 多い! 数が多い! どんだけゴブリンがいるの!?


 と、ゴブリンの数に驚愕する私にクレスト隊長は突然の無茶振りを言う。


「素晴らしい剣技です。聖女様。

 ここまでご成長されておられるなら、この場は聖女様にお任せします」


「えっ!? 任せるって?」


 クレスト隊長を見ると岩の洞窟の中へ走って行く。隊長はゴブリンの大群を物ともしない。クレスト隊長の剣の一振りでゴブリン数匹が宙を舞い倒される。クレスト隊長は押し寄せるゴブリンの波を逆走してゴブリンの巣の内へ入って行った。

 クレスト隊長の後を舌打ちしながらビャクシンさんが追う。ビャクシンさんも湧き出てくるゴブリン達を魔法で跳ね避けて洞窟奥へ消えてしまった。


 ビャクシンさんが私から離れるとは予想していなかったから途端に不安になった。


 約束したわけではないけれど私のピンチには絶対ビャクシンさんが助けてくれると勝手に思い込んでいた。ビャクシンさんについて行きたいけれど、ゴブリンの数は凄まじく多くて斬っても斬っても新しいゴブリンが現れて、とてもじゃないけれど私の剣の力では隊長とビャクシンさんを追いかける事が出来ない。


 気持ちが散漫した私にゴブリンが飛びかかってきた。


「…しまっ…!」


「グギャア!!」


 フェンネルさんが素早い足捌きで私の横へ移動しゴブリンを剣で薙ぎ払ってくれた。

 フェンネルさんの動き早い! 旋風みたい!


「聖女ちゃん! 敵に集中して!

 聖女ちゃんは此処で俺とゴブリンを斬っていれば良いんだから!」


 フェンネルさんがゴブリン達を軽々斬りながら私に向かって大声で言った。


「聖女ちゃんは洞窟の中には行かなくて良いからね!」


 え? 何で? もしかして最初からこういう予定だったの?

 理由は分からないけれど、この場で敵を斬り倒す事が私の役目なのだと思い直してゴブリンと戦う。

 私のステータスは体力も素早さもアップしているから、力は衰えずゴブリンが複数で攻撃をしてきても避けられる。次々に出てくる醜悪なゴブリンを一心不乱に1撃でやっつけた。私の頭上ではレベルアップ音が高らかに何度も鳴っていた。



 ▽▽▽



 巣穴前の篝火がチラチラと辺りを照らしている。

 地面には数百を超える数のゴブリンが倒れ真っ赤な血の池が出来ていた。

 ゴブリンはもう洞窟の奥から出て来ない。


 ハア、ハア、ハア…終わった? かな…ハア、ハア……


 さすがにこれだけの数を倒すといくらレベルが上がりステータスが上がっても、息切れがして膝やら肘やらが震えてくる。呼吸が少し楽になりフェンネルさんを見ると、彼は平静としていて息も荒らさずに剣を腰の鞘に納めた。そして笑顔で私を見る。


「それにしても聖女ちゃんの剣は無駄な動きががないね。

 君は敵の命を一振りで仕留めていた」


 フェンネルさんはタイム司祭と同じ他人を褒めて育てる系なのかしら? よく私の長所を見つけてくれる気がする。私は褒められる方が頑張れる気がするから有難い。

 それに、そう魔物を殺す時は私は出来るだけ一太刀で斬ろうと思っているの。


「それは…昔祖父母が生きていた頃に一緒に見た時代劇で…首切り役人が一振りで罪人の首を跳ねていたのを思い出して。そのドラマでは、例え罪を犯した者も最後は苦しまずに一撃で楽にしてやるのが美しい剣だと言っていたから、私もそういう剣を振るいたいです」


 例え自己満足だとしても命を殺めるのなら、せめて自分なりの美学を持ちたい。


「時代劇? ドラマ?

 聖女ちゃんの言葉は全部は分からないけれど、自分の振るう剣に信条を持つなんて武人なんだね聖女ちゃん」


「ぶ、武人!?」


 ええ! そこまでは望んでいないわよ私。

 そんな武闘派になったら彼氏が出来なくなっちゃうよ!


「聖女ちゃんって本当に驚異的な上達ぶりだよね」


 いや、私よりもゴブリンを沢山斬ったフェンネルさんに言われても…あ…でも考えてみれば剣を振るって数百の敵を斬るって、この異世界に来た当時の私と今の私は最早別人だよね。


「…自分でも驚きです…ところでフェンネルさんもレベルアップしていましたよね?」


 ゴブリンを斬っている間、1度だけフェンネルさんの頭上で音が鳴ったのが聞こえた。


「あ、気がついていたの? 気になる? もしかして俺のレベル見てみたい?」


 フェンネルさんはニヤニヤしながら私に言う。


「フェンネルさんが良ければ見たいです」


 だって、よく思い出せば魔王討伐メンバーのレベル、誰1人知らないのよね私。前から気にはなっていたけれど急に『レベル見せて』は他人の財布の中を覗く感じがして言い出せなかった。


「全然、良いよぉ」


 フェンネルさんは超軽い感じで画面を開いて見せてくれた。


 戦闘レベル40、体力82、素早さ88、運48、魔力4


「えええ!? 戦闘レベル40って凄い! ビャクシンさんてこんなに強いんですか!?」


「ふふふ、俺見た目からは想像がつかない強さってよく言われるんだよねぇ」


 それは褒められていないのでは。でも、そう言っちゃう気持ちわかる。だってフェンネルさんからはクレスト隊長みたいな強そうな迫力全く感じないし、先程の戦いの中でゴブリンを斬る動きは早かったけれど戦闘レベルが40もあるなら、この戦いはフェンネルさんにとっては楽勝だったんじゃん。…あ…


「ッツ!?」


 と、急に女性の悲鳴が聞こえてきた。いっぱいいっぱい頭に響く女達の叫び声!

 恐怖や絶望、悲しみ助けて欲しいと耳を塞いでも駄目! 頭の中に直接入ってくるんだ!!


「どうしたの? 聖女ちゃん!?」


 女性達の絶叫はフェンネルさんには全く聞こえていない様子だ。


 …行かなきゃ…私が行かなきゃ…

 抑えられない衝動につき起こされて走り出す。


「待って! 聖女ちゃん! 洞窟の中には入らないで!」


 フェンネルさんが私を大声で静止するけれど、私は真っ暗な洞窟の中へ飛び入った。

 後で考えればフェンネルさんが本気を出せば私を止められたんだろうけれど、多分彼は聖女(わたし)に彼女達を救って欲しかったんだと思う。









ここまで読んでいただき有難うございます。

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