カエルに変えられた少女
魔法って本当に凄い。
ゲコッツ、ゲコッツ、ゲコッツ、ゲコッツ、ゲコッツ、ゲコッツ、ゲコッツ、ゲコッツ、ゲコッツ、
う〜ん…カエルの鳴く声が聞こえる…う〜…うるさいなぁ…でも…まだ眠いから起きたくない。
ペッ! チョ〜〜〜ン!!
「きゃあ!」
寝ていた私の顔に冷んやりとしてブヨっとする感触が襲ってきて、驚いて飛び起きると布団の上に大きなウシガエルがいた。
「ええ!? 何でカエルがこんな所にいるの?」
「…剣士様…」
昨日助けた赤毛の少女が不安気に手を胸元で握り締め私を見ている。茶色の髪の少女も何か心配事があるらしくおずおずと怯えた雰囲気だ。
少女達は昨日ゴブリンから助けた時に私が剣を振るっていたから、私の事を剣士様と呼んでいる。
正直、聖女様よりも剣で戦う自分は剣士様という呼び名の方が合っていると思うので、少女達に私の呼び名の訂正はしないつもりだ。
「おはよう。どうしたの? 二人共、元気がない様子だけれど」
「あ…あの…私達…今朝…友達が1人居なくなって…」
と、赤毛の子が言う。茶色い髪の少女は赤毛の娘の後ろから首を上下にたくさん振っている。
少女達に言われて部屋を見渡せば、昨日助けた黄金色の髪の美少女は部屋の中に居ない。ビャクシンさんも見当たらない。
「ん〜〜〜、ビャクシンさんも居ないみたいだし、もしかしたら2人で出かけたのかな?」
「「違う、違うと思います!」」
2人の少女はブンブンと首を横に振る。
何でそんな必死にビャクシンさんと黄金色の髪の少女が一緒なのを否定するのかな?
「あ、あのそこの、カ、カエル!」
茶色の髪の毛の少女が吃りながら指差す、私の隣でゲコッゲコッと低く鳴く大きなウシガエル。
「魔法使い様にバーベナはカエルへ変えられちゃったんです!」
赤毛の娘は勇気を振り絞り私へ訴えた。
えええ! そりゃあ、ビャクシンさんは何でも出来る魔法使いだから、人間をカエルに変身だって簡単に出来るだろうけれど、何の為に女の子をカエルにする必要があったの?
「わたしたち、早朝見ちゃったの。
魔法使い様が杖を振ってバーベナをカエルに変えるのを。
魔法使い様はとて怖い顔をしていて、その後お外へ出て行きました」
赤毛の少女は怯えながら説明して私の手を取った。茶髪の子も赤毛の娘の背中にくっ付き震えている。
2人共表情からビャクシンさんへむけていた恋慕の情はなくなっていた。
トッ!
「ああ、そよ子。目が覚められたのですね」
ビャクシンさんの姿を見て少女達はビャクシンさんから隠れる様に私の体に縋り付く。ウシガエルもビャクシンさんが怖い様で慌てて私の腿の上によじ登ってゲコゲコ声を上げるのをやめた。
「ビャクシンさん。女の子が1人いないのだけれど…あの…」
ビャクシンさんに少女をカエルにしたのってストレートに聞いてしまって良いのかしら?
ビャクシンさんはツカツカと私に歩み寄ると、私の膝の上のカエルの足をヒョイッと握り
「あの娘ならこの醜いカエルにしました」
と、平気な顔で言った。
それを聞いて私の背に隠れる2人の少女達はヒイッと息を飲み、ヒキガエルは宙釣りにされて苦しそうにゲコゲコ涙を零して鳴いている。
そうだ、ビャクシンさんだって少女をカエルにしたのは訳があったはずだわ。
「何で少女をカエルに変えたんですか? 」
私が理由を尋ねるとビャクシンさんは眉間にしわ寄せて
「この娘は私に甘言を吐き近づいて来たのです。
子供が悪さをすれば罰を与えねばなりません」
甘言? つまりあの黄金色の髪の美少女はビャクシンさんを誘惑したのかな?
まあ、確かに褒められた行動ではないけれど恋に積極的な娘なのね。
「ゲコゲコッツ、ゲコーーーーーー!」
ヒキガエルは瞳から大粒の涙を流す。
多分、ごめんなさい、もうしません!って言っているんだと思う。
「少女も反省している様ですし、元の姿に戻してあげてください」
「…わかりました…そよ子がそう言うのなら人間に戻しましょう。
しかし、今日ここにいる娘達の住む村に着くまでは醜いカエルの姿でいてもらいますから」
ビャクシンさんは青い瞳を冷たく光らせてカエルを見た。カエルはビクーーーッと震えて縮こまる。
私はビャクシンさんの言葉に頷きベッドから立ち上がって、彼に握り上げられるヒキガエルを両手で受け取った。カエルの少女はヒックヒックとえずきながら私を見上げる。
「大丈夫よ。村に着いたら元の姿に戻れるから。
これからは大人の男性に妄りに近づいてはいけませんよ」
「ゲコゲコゲコゲコ」
少女は余程懲りたのか素直に返事をした。赤毛の少女と茶髪の少女は一先ず友達が人間に戻れると分かり人心地ついた様子だったが、ビャクシンさんへの恐怖は消えず朝食の間も村に着くまでの道すがらもずっと私の側を離れなかった。
もしかして、ビャクシンさんって誰にとっても怖い存在なのかしら?
▽▽▽
朝から歩き詰めで昼過ぎにやっと村に着く。
ヒキガエルは私が腕に抱いて歩いたけれど、2人の少女達はずっと自分の足で歩いていた。大人の私でも歩くのが大変だったのにこの世界の子供は健脚だな。
村の手前でビャクシンさんが指をパチンッと鳴らしヒキガエルだった少女の姿を戻す。人間の姿に戻った黄金色の髪の少女は目に薄っすら涙を浮かべて私に頭を下げて、ビャクシンさんは見ないで村の中へ駆けて行った。赤毛と茶髪の少女達は私とビャクシンさんへ「お世話になりました。ありがとうございました」と早口に言って、黄金色の髪の少女の後を追う。
「「「 お父さーーーん! お母ーーーーさん! 」」」
少女達の親は農作業中で少女達の声を聞き娘の姿を見て、仕事道具を放り出して少女達の元へ駆けつけた。
「ああ! ビオラ! 良くぞ無事に!」
「アリッサム! 心配したぞ! どうやって帰って来たんだ?」
「バーベナ! 良かっ……お前……なんだか生臭いな?」
赤毛の娘も茶髪の子も黄金色の髪の少女も親元へ帰れて安心したのか母親に縋り付いて泣きしだした。
少女達の泣き顔を見るとやっぱりあの娘達はまだまだ子供なんだなぁと思う。
私とビャクシンさんは少し離れた所から少女達が親に抱き寄るのを確認していた。
私の両親は私が大学時代に離婚した。私が高校生の頃から夫婦仲が冷めてきたなと思ってはいたけれど、父母は各々新しいパートナーが出来ていてお互い納得の上での決別だった。私には1人、2歳下の弟がいるが弟は高校を卒業して他県の大学へ合格。私たちの学費は両親が離婚後も払ってくれたので社会人になるまで親としての責任を十分に果たして貰ったと思う。
気軽に帰れる自分の実家と呼べるものは無くなってしまったが、親には親の人生があるから仕方がない。
私もここまで育てて貰ったのだから、運命の相手を見つけて自分の巣を作ればいいんだし恋活頑張ろう!
親と一緒の少女達を見て久し振りに自分の家族を思い出した。と、ビャクシンさんにそろそろ戻りましょうと促され瞬間移動で森の中へ帰ろうとした時、赤毛の少女が彼女の父親と一緒に私とビャクシンさんのところまで猛スピードで走って来る。
「待って〜! 待ってくださーーーい! 剣士様! 魔法使い様!」
赤毛の少女、足早いな。
「…そよ子…私嫌な予感がします」
ビャクシンさんが瞬間移動の魔法を唱えるのを遮る。
「あんなに焦って走って来る人達を無視するのはどうかと思うの」
ビャクシンさんの気持ちは分かる。あの赤毛の少女の表情からして良い話じゃなさそう。でも、だからこそ聞いて上げないといけない気がする。
「剣士様〜! 魔法使い様〜!」
赤毛の少女は私とビャクシンさんの前に来て息を切らしながら話しだした。
ここまで読んでいただき有難うございました。




