助けた少女達と
キャンプは大勢で行く派ですか?
焚き火の上には黒い鍋。鍋の中で赤いスープがグツグツと煮えて湯気をたてる。
3人の少女は温かいスープを入れた木の器を持ち、慎重にスプーンを使って飲み出した。少女達はすっごくお腹が空いている様子だけれど、彼女達の目の前にいる美しい魔法使いを意識して女子らしく小さく口を開いてスープを飲む。
丸太に座りスープを飲む少女達は、ビャクシンさんの魔法で着せた深い緑色のロングワンピに黒い防寒のあるタイツそして黒い靴を履いていて、3人ともとても似合っている。少女達の髪や顔そして体の汚れもビャクシンさんが魔法で清浄した為、ゴブリンに襲われてボロボロだった少女達の面影はもうない。今の彼女達は本当に可愛い。
そんな少女達の様子はとっても微笑ましい。
ゴブリンに攫われ恐怖に顔を歪めせていたのが嘘みたいに今の3人は可愛らしい普通の少女達。
怖かった事は忘れてこのまま元の暮らしに戻してあげたい。
「そよ子、余所見をしていないでちゃんと食事をしなさい」
私が女の子達を見ていたらビャクシンさんに注意された。
「ん、私食べてるよ」
軽くイラっとする。だってスープもパンもチーズもビャクシンさんが私に沢山盛ってくれたから、普段より量を多く食べているしこぼしてもいないのに。しかし、これだけの食事の準備をビャクシンさん1人にやって貰った手前強く言い返せない。
「…あ…あの」
少女の1人が声を上げる。綺麗な黄金色の髪をフワッとなびかせた緑色の瞳の美少女。彼女はビャクシンさんを見つめて真顔で聞いた。
「お二人は恋人ですか? それとも、まさか夫婦ですか?」
ブーーーーーッツ、口に含んでいたスープを吹いてしまった。何故? この状況でそんな質問をするの?
「ああ! そよ子、大丈夫ですか? ほらタオルで拭いて」
私が口から吹いたスープは少女達にもビャクシンさんさんにも焚き火の上の鍋にも運良くかからなかった。私の横に座るビャクシンさんからタオルを受け取り口を拭う。ケホケホ少しむせる私の背中を優しくさすりながらビャクシンさんは黄金色の髪の少女に向かい
「そよ子は私の大切な女性です。私にとってはそよ子以外の人間は大した意味を持っていない」
凄い非常識なアンサーしたあーーー! ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ
…あ…でも私は聖女でビャクシンさんは魔王討伐隊の1人。魔王を倒す為、聖女の私を特別扱いするのは有る! 有る有るそういう理由有る!
私は自分の答えに納得する。
「は? この剣士の女に魅了の魔法をかけられているの? こんな美形な男性にこの程度の女性では釣り合いが取れてないんじゃない」
黄金色の髪の少女はハッキリと聞こえる声量で独り言を言った。異世界美少女キツイなあ。
まあでも、うん言いたい気持ちは理解出来るよ。あと、赤毛の少女も茶色い髪の少女もビャクシンさんの私を特別な女性って言葉にガッカリした表情になっている。
皆んな、ビャクシンさんに恋しちゃってるもんね。子供って思った事を言葉や表情に出しちゃうね。
因みに彼女達に魔法をかける時、少女達がビャクシンさんに裸を見られるのを恥ずかしがるので(当たり前だ)私が手でビャクシンさんの目隠しをした。ビャクシンさんは背が高いから立膝をついてもらい、私が彼の背後から手を回して目を塞いだ。ビャクシンさんに私から触れるのめっちゃ緊張する。どうしてだろう? ビャクシンさんから抱きつかれるのは安心するのに。…あれ?…私ビャクシンさんに警戒したり安心したり…結局、私にとってビャクシンさんは危ないのか安ぐ存在なのか…どっち?
「お姉さんは魔法使い様をどう思っているの?」
茶色の髪色の少女がオズオズと私の顔色を伺う。
う〜ん、私は悩み考えるビャクシンさんへ対する気持ちは
「……複雑……」
口に出た言葉はそれだけ。でも、そうこの答えは間違いなく私の本心。
ビャクシンさんの事を嫌いでは絶対にないけれど好きだとははっきり言えない。ビャクシンさんを警戒するのに安心もしてしまう。彼の近くにいるのは怖いのに、だけど離れたくない。
私の答えを聞いて首を傾ける少女達。
しかし、ビャクシンさんはビャクシンさんへ対する私の複雑と言う言葉も彼の許容範囲だったらしくニッコリと微笑んで私を見つめる。
「大人って難しい」
赤毛の少女は呟いて木の器に口をつけてスープを飲み干した。
少女達はこの森に近い集落の村の子供らしいが、私とビャクシンさんだけでは彼女達が住む村まで送って行くのに半日くらいは時間がかかるらしくて、今日はもう夜になるからと彼女達の帰宅を諦めた。
少女達の親や兄弟が心配しているだろうから明日、朝早くに女の子達を村まで送ってあげようと思う。
少女達を助けてすぐにビャクシンさんに瞬間魔法で女の子達を村へ帰してと頼んだけれど、『魔力を持たない人間に移動魔法を使うと精神崩壊してしまう』と説明された。少女達に魔力が無いのがどうして分かるのか聞くと、自分よりもレベルの低い相手なら他人のステータスが見れるらしい。
私は少女達に了解を取って彼女達のステータスを開いた。3人の少女は戦闘レベルは1、体力8〜10、素早さ6〜9、運35〜48、魔力0だった。この数値はフェンネルさん曰く普通らしい。
だけれど、赤毛の女の子だけ魔力が5あった。
魔力5ってお城から魔法使いに推挙される値だよね。魔力は生まれ持った素質で普通の人は魔力を持たない。魔力が4以上あると国の役人から魔法使いの適性有りって声がかかるらしい。
赤毛の子に魔法使いになれるかもよって教えてあげようと思ったけれど、ビャクシンさんに目配せで止められた。友達がいる前で言わない方が良いって。成る程、いくら友達でも才能にヤキモチ焼かれちゃうかもしれないものね。
この異世界では魔法使いは格別な存在。平民でも魔法力が高ければお城勤が出来て、高い給金や地位が国から貰えると聞いた。だから魔法使いは憧れの職業。でも、生まれ持った特質だから個人の努力ではどうしようもない。魔力が高い事は皆んなの憧れであり、嫉妬の対象になっている。
黒い鍋のスープが空になり、私も女子達もお腹が膨れて眠くなってきた。
食器の片付けも焚き火の始末もビャクシンさんが魔法で消してくれて、昼間泊まりの支度をした木のウロの中へ全員で入った。少女達は目をキラキラさせて魔法で作られた部屋の中を見渡して、こんな綺麗なお部屋初めて見るとキャッキャッ騒いでいる。
さて、どうしようか?
私は1つだけの大きなベッドを見つめた。
私と少女3人で一緒に寝るには少し狭いから、あのベッドは少女3人で寝てもらおう。ビャクシンさんにあと2つ魔法でベッドを出してと頼もうかな。広い部屋だからシングルベッド2つくらい余裕で置けるよね。
「ビャクシンさんーーー」
ビャクシンさんを見ると彼は鋭い目つきで部屋を走り回る少女達を睨んでいる。
ビャクシンさんって子供が嫌いなのかな? あ、私の視線に気が付いて怖い表情を消したわ。
「そよ子、何か?」
「あの、女子達をそこの大きなベッドで寝かせても良いかな?」
するとビャクシンさんは下唇を噛んで
「…ええ…仕方がありませんね」
と、一応許可をくれた。
「それで、申し訳ないのだけれど私とビャクシンさんが其々寝られる様に、シングルベッドを2台出して貰えるかな?」
「…わかりました…」
ビャクシンさんは渋い顔をして袖から黒い杖を出すと魔法でベッドを2つ出現させた。
もしかして、ビャクシンさんは少女達が居なかったら、あの大きなベッドで私と2人で眠るつもりだったのだろうか? …え〜と…私とビャクシンさんが一緒に寝る必要は全く無い。大体ビャクシンさんと同じ布団の中に入ったら興奮と緊張で寝られるわけない。
やっぱりビャクシンさんは私にとって警戒する人物なのか?
はしゃぐ少女達を落ち着かせて、私と一緒にビャクシンさんに魔法で寝間着に着替えさせてもらい各々与えられたベッドに潜り込んだ。私は寝る前に自分のステータスが気になり布団の中で画面を開く。
戦闘レベル21、体力40、素早さ43、運92、魔力6、聖女 ∞
今日1日で戦闘レベルが3もランクアップした。それにしても…ものすごく大変な1日だったなぁ…
ここまで読んでいただき有難うございまた。




