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黒い奴隷  作者: 渡辺朔矢
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対決ゴブリン③

ある意味ゴブリンよりも危険な男と2人きり。

遂にそよ子はドロドロな関係に堕とされてしまうのか。

「そよ子、私は水を汲んで来ますから、此処で焚き火の番をしながら待っていて下さい」


「はい」


 夕暮れ時、木のウロの中で泊まる準備が出来た後、私とビャクシンさんは夕食の支度をする事にした。ビャクシンさんは魔法でパンやチーズなどは出せるらしいがスープなどの温かい食べ物は無理らしい。森の中は冷えるから体を温める食事をしようとビャクシンさんに言われて、今から森の中でスープを作る事になった。


 ビャクシンさんは黒い杖を振り大きめの鍋を出して、川へ水を汲みに木々を避けながら歩いて行った。

 川がどれくらい離れた場所にあるのか私には分からないけれど、1000歳を超える魔法使いのビャクシンさんなら分かるんだろうなぁ。


 ビャクシンさんの姿が見えなくなり、まだ幾分明るい森の中で焚き火を見つめる。

 この焚き火はビャクシンさんが魔法で枯れ枝を集めて等分に枝を折り火をつけてくれた。彼は多分私が寒い思いをしない様に火の番をさせてくれたんだと思う。パチパチと音を立てて燃える焚き火の前は暑いと感じるくらいに温かい。


 そんな親切なビャクシンさんの何に私は恐怖を感じるのか?

  整い過ぎた外見? 最強的な魔法を使えるところ?

 それとも1000歳を越える人間離れしているところ?

 

 ……う〜ん……ある意味ビャクシンさんの全てが恐れの対象だよね。


 整い過ぎの美しさは神々しく。魔法も凄い威力だしあの強そうなクレスト隊長でも1対1でビャクシンさんと戦えば勝てそうもない。この世界でビャクシンさんの敵と言えば魔王くらいのレベルなんじゃないかな? 魔王がライバルって神様くらい強いって事じゃない?

 人間離れというのも人でない特別な存在なわけで神に近いっていうか。私はビャクシンさんを人間の上に立つ存在だと認識して超常的存在に対する畏怖の念をビャクシンさんに感じているのか?


  …ム〜〜〜…違う…もっとこう心の中…心の奥の方でビャクシンさんに対して私は警戒しているんじゃないかな?

 何て言うのか身の危険を感じるって感覚? でも、ビャクシンさんの私に接する態度は優しいとか大切に扱ってくれたとかで、1度も乱暴な扱いをされた事はないじゃない。危険なんてないわよね。


 危険といえば、さっきの私へ突進して来たゴブリン達の方がよっぽど危ない存在だわ。

 人間の女性に対して孕ませようと乱暴する事しか考えてない生物だったたし……そうだわ……ビャクシンさんへの懐疑心よりもあのゴブリン達をどうやって倒すかの方が問題だよ。



「キャーーーーー!」


 ハッ!? 女性の悲鳴?



「ヤーーーーーー!」


「ィヤアァァァァァ!」


 今迄、静かだった森の中に複数の女の悲鳴が聞こえて来た。

 金切り声で泣き叫ぶ女達の声に悪い予感がして、腰の剣を握り声のする方へ急ぎ歩きで移動する。

 多分、昼間にクレスト隊長に教えられたゴブリン達の習性。人間の女性を攫って来たのではないか?


 木の茂みの中を出来るだけ音を立てない様に身を捩りながら女性達の叫び声がする場所を覗いた。女性達は木々が倒れる少し開けた場所に集められ、女達の周囲には醜悪な姿のゴブリンが20匹程いる。

 私は声を上げそうになる口を押さえ身震いした。


「ヤメて! ヤメて! ヤメて!」

「イヤダーーー! コワイーーー!!」

「お父さん! お母さん!お兄ちゃん! 助けてーーー!!」


 泣き叫ぶ女性達はどう見ても10代前半の少女で顔も体つきも幼い。

 3人の少女は恐怖に顔を歪めて精一杯ゴブリンに手足を動かして抵抗しているが、少女達を囲んでいるゴブリン達は数が多く競う様に少女達の体を押さえて服を剥ぎ取っている。

 身長だけなら少女達の方がゴブリン達よりも数10センチ大きく見えるが、複数のゴブリンを相手に争うほどの力は少女達には無いんだ。

 冷える森の中、少女達の衣装は破かれて他人に見られては恥ずかしい柔肌を晒されてしまった。


 こ…こんな…酷い! ど、どうしよう! あんな幼気な少女達に…ゴブリンは…

 ヤ…ヤダヤダ!! 止めてよ!! そんな醜いもの入れようとするな!!

 う、嘘! 駄目! 彼女達はまだ子供だよ!! 非道な事するな! 壊れちゃう!!


「イヤーーーーーーーー!! 誰か助けてーーーーーーーーーー!!」


「ぅわああああああああああああああああああああああああああ!!」


 剣を両手で握り少女の甲高い悲鳴に我を忘れて大声を上げながら突進した。


 少女の華奢な足の間へ体を入れていたゴブリンの細い首へ剣を振るう。ゴブリンの頭と体が離れ赤い血が噴き出した。

 夢中で少女達の体を押さえていたゴブリン達は呆気にとられ状況が直ぐには飲み込めない。

 首を刎ねたゴブリンの横で急襲に気付かず、泣く少女の下半身に身を沈めようとするゴブリンの背中を剣で斬る。ゴブリンの体は虫を斬った時よりも抵抗なく真っ二つに分かれた。


「キヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

「ヒャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

「ヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 最初に悲鳴を上げたのは斬ったゴブリンの体から吹き出す血を浴びた少女で、仲間の体から流れる血に阿鼻叫喚するゴブリンと狂人状態の私の叫びが続く。


 年端もいかない少女達を強姦しようとする下衆な魔物!


 ゴブリン達は最初は混乱し逃げようとする者が多かったが、敵は私1人しかも女だと分かると手に棒や短剣を握って襲いかかってきた。だが、ゴブリンの動きはそんなに早くない。力も私より弱い。


 ここで私がゴブリン達に負ければ、少女達は陵辱され孕まされてしまう!

 そんな事は許さない!!


 女にとってレイプは生きながら死ぬこと、残酷な状態なのだ!

 自分の近くにいるゴブリンへ勢いよく剣を振るい殺す!

 斬る! 斬る! 斬る!


 パッパラーッパッパラーッパッパラー……頭上で高らかに鳴るレベルアップの音。ゴブリン達の耳障りな咆哮と自分の雄叫び。恐ろしい程跳ねる自分の心音と息遣い……



 小さな緑色の魔物が点々と倒れる赤黒い血の池で剣を固く握り立ち尽くす私。

 動くゴブリンがいなくなりようやく自分の中が静かになった。


 と、小さな衝撃が私の体に当たる。放心状態で見れば少女の1人が私の腰に抱き付いていた。そして次々に少女達が私へ近づき彼女達は震えながら


「……たすけて……くれて……ありがとう……」


 お礼を言ってくれた。


 少女達の感謝の言葉を聞いて真っ黒くなっていた心の中に温かな光が湧いてくる。私は人型の魔物を斬った恐怖心や罪悪感よりも、この娘達を守れた事に大きな喜びと達成感を覚えた。


「……良かった……助けられて……」


 私は腕の中に少女3人を囲った。


 フッと気付けば自分が飛び出た木の茂みにビャクシンさんが佇んでいる。

 美しい顔を悲しげに歪めて今にも泣きそうな様子で


「…あ?…」


 私の視線に反応してビャクシンさんは暗い顔で私に向かい土下座した。


「え? 何で」


 この世界にも土下座ってあるんだ。っていうか土下座って謝罪だよね。ビャクシンさん何に謝っているの?


「結界も張らずにそよ子を1人にしたせいで、こんな過酷な戦いをそよ子にさせてしまい申し訳ない」


「え、いや、ビャクシンさんのせいじゃないよ。

 悪いのはゴブリン。この森に住む魔物ゴブリンが極悪なのであって、ビャクシンさんを責める気持ちはないよ」


「しかし、私がもっと気を配ってそよ子を守っていれば、そよ子が嫌がるゴブリンを剣で斬り殺す事をさせないでいられたのに」


「う〜ん、確かにゴブリンを斬るのは人道に反すると思っていたけれど、今の私はこの少女達を救えてこれで良かったと思ってるの。だから、お願いビャクシンさん顔を上げて。ビャクシンさんは悪くないから」


 ビャクシンさんはゆっくりと顔を上げて立ち上がり、私達の方へ歩み寄ってきた。まだビャクシンさんの心の中では納得いかない感じで眉間に少しシワがよっているけれどいつもの美しい顔だ。


 ハッと私の腕の中の少女達がビャクシンさんを見て息を飲むのが分かった。

 3人の少女は背の高い美形な魔法使いの姿に魅了され、青白かった頬をピンク色に染め瞳を潤ませてビャクシンさんに魅入った。

 ああ、その感情分かるわ〜、美しさって本当に罪って思うくらいビャクシンさんって綺麗だものね。


 と、


「「「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」


 3人の少女は自分達の淫らな格好に気が付きビャクシンさんへの羞恥心から黄色い悲鳴を盛大にあげて私の背後へ隠れた。

 …ウウウ…耳が…耳がキーンってなった…














ここまで読んでいただき有難うございました。

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