表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒い奴隷  作者: 渡辺朔矢
20/42

対決ゴブリン②

無理! 無理! 無理! 無理!

駄目! 駄目! 駄目! 駄目!

嫌! 嫌! 嫌! 嫌!

 

「オイ! こいつオンナだ!」


 ゴブリンの1人が好色な顔で叫ぶと、その言葉に反応して色めき立つ他のゴブリン達。


 声を上げない虫を倒してからの次の剣の相手が人間に似たゴブリンってハードル急に上げすぎでしょ!

 私、人を素手で殴ったことも無いのよ! 人間を剣で斬ったら人殺しだよ!

 ゴブリンは魔物だとしても見た目完全に人に見える! 人を斬ったら……!


 ハッ! でも待って言葉がわかると言うことは会話で意思の疎通を図る事が出来るかも知れない。

 そうだ! 暴力では戦争を無くす事など出来はしない!

 話し合いでこそ、お互いの平和的世界の確立が実現するはず!

 頑張れ! 私!!


「ゴ、ゴブリンの皆さん。初めまして。 私の話を聞いてくださーーー」


「オンナ! オンナ! オンナ!」

「ホントだ! ムネフクランデル! シリマルい!」

「ヤッタおんな!! ツカマエテ、スミカヘモチカエロウ!」


 あれ? 声が小さかったかな? ゴブリン達、私の声が聞こえていない?

 ゴブリンは(おんな)を発見して興奮状態。

 よし! もう一度。今度はもっと大声で


「ゴブリンの皆さーーーん!! きいてくださーーーい!!」


「オレいちばんニ、キヅイタ! オレがサイショにヤル!」

「イヤ! オレがサキにミタ! オレだ! オレだ!」

「コウイウコトはハヤイモノガチダ!!」


 ゴブリンは私の言葉には全く耳を貸さずに嬉々として我先にと飛びかかって来た。


 私に向かい駆け寄ってくるゴブリン達の顔付きは、変態! 変質者! 痴漢! 強姦魔! 最低なケダモノ! 女の敵!

それでも、そんな醜悪なゴブリン達を見ても剣で切った時の感触や叫び声、吹き出す血を想像してしまい、腰の剣を抜く事が出来ない。

 怖い! 気持ち悪い! でも、人を斬るようで罪悪感が!

 ゴブリンを殺すことは出来ないけれど、ゴブリンに襲われるのも嫌だ!

 ど、どうしたら? どうすれば?



 ゴブリン達が走り寄ってくるのがスローモーションに見える。

 これは事故に遭う前、時を遅く感じるあの状態。


 ……あ……


 ゴブリンの手が伸びて…私の手首が掴まれ…


 やだ…やだ…やだーーーたすけ…て


 ビュン!


 目の前まで来たゴブリン達は青白い光に跳ねられ


 ボッ! ゴオオオオオオオオオオオオオオ!!


 私から遠退き


 ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!


 真っ赤な炎の中悲鳴さえなく消し炭になった。

 私は瞬きもせずその光景を見て背後から回された長い腕に包まれる。



「…魔法使い殿…手を出さないと約束しましたのに」


 暗い木立から出て来たクレスト隊長の赤い目はゴブリンを焼いている炎に照らされて、いつもより一層迫力のある眼差しで私の後ろのビャクシンさんを睨んでいる。


「無理強いし過ぎですよ。クレスト隊長」


 凛とした優しい音色の声が耳横から聞こえる。

 私は恐怖の対象が消滅して、私を抱きしめてくれるビャクシンさんの温かさを感じてやっと体が動かせた。人型を殺せと言われた想定外の怖さとその極限状態から助けられた安堵から涙がボロボロと溢れて嗚咽を上げ泣いてしまうと、ビャクシンさんは抱きしめる腕の力を少し強くしてくれた。


「………………」


 そんな私をクレスト隊長とフェンネルさんは無言で見ている。私は自分の感情を制御出来ず只々感情のまま泣いた。20歳を超えてこんなに無我夢中で泣いた事は今まで無くて、やっと私が泣き止んだ時ビャクシンさんがクレスト隊長とフェンネルさんへ向かって言った。


「今から5日間。私が1人でそよ子のレベル上げをします。

 貴方方2人は馬車の場所にでも待機していて下さい」


 は? ビャクシンさんの言葉の意味が理解出来なくて皆固まった瞬間、ビャクシンさんは私を抱きしめたまま魔法で瞬間移動をした。


「「 聖女様!! 」」


 クレスト隊長とフェンネルさんの叫び声を後にして、私はビャクシンさんと一緒に深い緑の森の奥へ立っていた。



 ▽▽▽



 ビャクシンさんは美しく長い銀髪を靡かせて宝石の様に輝く青い瞳に整った顔。背は180センチ以上ある。彼はいつも見せてくれる落ち着いた笑顔で私を見下ろしている。


 こんな美しい(ひと)と森の中で2人きり!

 ついさっきまで安らげたフェンネルさんの腕の中が、急にこの世界で1番心臓に悪い場所になった。

 ど、動悸が動悸が凄い!


「フフフ、そよ子。2人きりですね」


 今まで見たことが無い程楽しそうに笑うビャクシンさん。


「取り敢えずそよ子も疲れている事でしょうし、野営の仕度をしますね」


 ビャクシンさんは袖の中から黒く光る細長い華奢な杖を出して、歌う様に呪文を唱えた。彼は左手に杖をつまみ、囲りの木の中で1番大きな大木のウロに白く光る魔法をかける。ビャクシンさんの姿が余りにも優雅で目を奪われた。アニメや映画で見る魔法よりも現実の魔法の方が煌びやかでで綺麗なんだなぁ…ビャクシンさんの魔法だけかしら…


 ビャクシンさんの歌に合わせて木がグニーグニーッと丸く膨らんだりキュッと締まって伸びたり形を変えて、そしてポンッと軽い音を響かせた後、元の木の姿に戻った。


「え? 結局、変わらないの?」


 様々な形に変化した後の普通の木の状態に肩透かしを食らった気分で言うと、ビャクシンさんはいたずらっ子の様に口の端を上げて


「そよ子。此処から中に入って見て下さい」


 と、木のウロを指差した。


 う、ビャクシンさんを疑うわけでは無いけれど自然の木の中って虫とか潜んでいそうで怖い。チラッとウロを除くと真っ黒で中? が有るのかも分からない。


 …不安…いやいや、さっきゴブリンの魔の手から救ってくれたし、この世界に来た時溺れる私を救助してくれたのもビャクシンさん。戦闘レベルを上げる時には強い魔物から結界を張って陰ながら守ってくれて、私の怪我を治癒してくれた。今迄ビャクシンさんは私を大事に扱ってくれた。信じるしか無い!


「お、お邪魔します!」


 右手を木の表皮に当てて体を支え、左足をウロの中へ先に入れた。足が地についたので頭と体を入れるとウロの中は蛍光灯が着いているかの如く明るいシャンデリアが照らして、床は白い大理石で歩くと足音が鳴り美しい木目の壁と天井からは香木の良い匂いがほのかに香っている。


「うわぁ、眩しいー、綺麗いー、広いー」


 此処がどこで、何の目的で来たのかを忘れるくらい見入ってしまい叫ぶ。


「魔法って凄い! ビャクシンさんてファンタスティック!」


 木の外観からは想像がつかないくらい中は広くて豪華で、右端には白い猫足の華麗なダイニングテーブルやチェアが部屋奥には白くて美しい天蓋付きの大きなベッドが1つ見える。…大きなベッドが1つ…ベッドが1…


「!!」


 何度も瞬きして目を大きく開けて見直してもベッドが1つしか無い?

 慌ててビャクシンさんを見ると彼は普段通り微笑んでいる。


 どうしよう! 声に出して聞いていいの? 寝具が1つ足りないのでは? って、だってこの部屋の中にはソファーが置いて無いから寝るのはあそこだけだよね? まさか私は床で寝ろってビャクシンさんが言うはずは無いだろうし、ビャクシンさんが床で寝る筈もないよね? いやしかし…ビャクシンさんは1000歳超えた魔法使いだから普通な寝方ではないのかもしれない…よし…聞きづらいから夜寝る前までこの問題は保留にしよう。仕事していた時も焦って質問するよりも少し間を開けた方が良い結果に繋がった事あったし。

 

「そよ子。どうですか、この部屋? 気に入ってくれましたか?」


 ビャクシンさんの問いに冷静を保つ様に心掛けて表情を取り繕い


「…ええ…とても」


 と答えた。

 ビャクシンさんは私の返事を聞いて満足気に微笑む。まるで、ずっと望んで欲しかった物がやっと手に入り大事に保管して愛でる愛好家のような。


 私は彼の笑顔を見ながら心の奥で鳴り響く警戒音に気が付いた。

 クレスト隊長やフェンネルさんクレマチス姫タイム司祭。皆んなと一緒にビャクシンさんといる時は気持ちが落ち着いているのに、ビャクシンさんと2人きりになるのはとても緊張する。


 でもそれは、ビャクシンさんが美形で美し過ぎる形や色、オーラを持っているから私は気が引けているんだろうと思っていた。でも、今分かった。それは少し違う。ビャクシンさんが美しいからって緊張しているだけじゃ無い!

 彼に対して理由はハッキリしないけれど、私はビャクシンさんを『怖い人』だと感じている。異世界に来て私の身をずっと守ってくれる優しい(ひと)なのに…心の底で気を付けろと私が私に叫んでいる…











ここまで読んでいただき有難うございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ