表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒い奴隷  作者: 渡辺朔矢
2/42

恋人が欲しい

恋人が欲しいOLさんです

「ハッ! 嘘? 八手(やつで)先輩、結婚するんですか?」


「ちょ…嘘って何よぉ」


 仕事の帰り、久しぶりに飲んで行こうと同じ部署の先輩2人に誘われて居酒屋に入った。

 取り敢えずビールから始まり、今は三杯目のカクテルを各々味わっている。


 八手先輩は今年27歳。ショートカットの溌剌とした爽やかな美人。5年付き合っている彼氏と半同棲の生活を送っていて、彼氏が八手先輩との結婚になかなか煮え切らずにいる。そして、一週間前に小さな喧嘩から彼氏と別れたと先輩から聞いた。


「だって、八手先輩。一週間前に彼氏と別れたって教えてくれたじゃないですか?」


「うん、そうなんだけど、その三日後に『やっぱり俺にはお前しかいない。結婚してくれ』ってプロポーズされたんだよねぇ」


 八手先輩は幸せそうに笑って焼き鳥を食べる。


「フフ、八手さんも長い春が終わって結婚するのね」


 新婚の苣木(もちのき)先輩が微笑む。30歳に見えない小柄な可愛い顔立ちの苣木先輩は異性にモテモテで、結婚するまで男性からのお誘いが引く手数多だった。


 同じ部署の仲良く遊んでくれる先輩たちが結婚するのは、なんかとっても置いてきぼりをくらった寂しい気持ちになる。…うー…これからお二人を誘って遊び難くなるなぁ。

 ああ…でも…今は入社以来私を可愛がってくれた八手先輩の新しい人生の門出をしっかりと祝福しなければ!


「八手先輩、結婚おめでとうございます。

 さっきは直ぐにお祝いが言えずにすみません」


 先輩達は彼氏いない歴実年齢の私と違い、赤い糸で結ばれた男性と出会い恋愛して結婚するんだなぁ。

 猛烈に羨ましい! 私も早く運命のパートーナに出逢いたい! そして結ばれたい。


「あー、ありがとうね。そよ子。っていうかそんな寂しそうな顔しないでよ。

 別に結婚したって私、仕事やめないから。そよ子と飲んだり遊んだりこれからもするし。

 あんた、未だ全然若い23歳でしょ! これから出会いが沢山あるわよ!」


 八手先輩は励ます様に私の背を叩いた。


「そうね。そよ子ちゃんはまだまだ1人の男に縛られず遊ぶ年齢だわ」


 苣木先輩も合いの手を打つ様に私を元気づけてくれるが


「いやいや、先輩達だって私の男関係の無さは知っているでしょう?

 私、今まで男性と付き合えた事が無いんですよ。

 もういい加減、本気で恋人と呼べる男が欲しいんです!」


 私がジト目で2人を見ると先輩達の声がつまった。



 そう、私、冬青そよ子(とうせいそよこ)23歳は神憑り的に男性に縁がなく、今迄恋人ができたことがないのだ。

 高校を卒業するまでは、恋愛にうつつを抜かさず勉学に励むことが自分の将来の為だと思えて、異性関係に全く興味を抱かず生きていたが、大学生になりふと周りを見渡して急に恋人が欲しくなった。

 恋したい気持ちが芽生え女子力向上に励み自分を磨き、男性にアピールしだしたが恋人は出来ない。


 友達も私の恋活(恋人を作る活動)を応援してくれてコンパに行きまくり、バイト先や大学の同学部の男性にも積極的に声をかけた。知らない女子からは男好きな女だと後ろ指さされるくらい行動した。


 大学2年の時友人の情報で私を好きだと判明した男性が次の日、大学を辞めて自分探しの旅に海外へ飛び、大学3年の時に良い雰囲気になった2つ上の先輩は就職して忙しくなり、音信不通後に職場で出会った女性と結婚。

 社会人になってからもコンパには積極的に参加し、会社でも周囲の輪を乱さない程度に男に話しかけてきたが私に恋人が出来る気配は無い。私が一線を超えても良いと思った男性は転属や家庭の事情で私の近くから居なくなってしまう。


 男運が無さ過ぎだわ。


 因みに体の関係だけを求められたらお断りさせてもらっている。

 女友達の中には『体から始まる恋愛もあるよ。そういう恋愛にも飛び込んでみたら』と勧められたが、心の底から体優先の恋愛は無理なのよ。


 現代の恋愛において貞操感は持っていたら駄目なのか?



「そよ子ちゃん、落ち込まないで」


 異性にモテる苣木先輩が声をかけてくれる。


「そんなに深刻に悩んでいるなんて気付かなかったわ。

 そよ子ちゃんは綺麗で背が高くスタイルも良いものだから、その内に良い(ひと)が直ぐに出来ると思っていたのよ」


「苣木先輩、慰めてくれてありがとうございます。

 でも、私こんなに女子力アップや男性と知り合うため飲み会やらに出かけて行き積極的に声をかけているのに恋人が出来る手応えが全く無いから…もう、辛くて…八手先輩の結婚報告を聞くのにこんな私の暗い話で盛り下げてしまい、本当にすみません」


「そよ子…気にすんな…私もそよ子が頑張って恋活してたかは知ってるし。

 まあ、うん、そよ子は少し異性に対して潔癖な態度だから、なかなか男性の胸に飛び込んではいけない性格で恋人が見つからないんだけれど、私はずっとそよ子がいつか体を開ける男と出逢えるって応援してるから」


 八手先輩は優しく笑ってくれた。…っていうか先輩、心を開くんじゃなくて体を開く…って八手先輩酔ってきている?


 今迄、恋活しながら真面目なお付き合いができる相手を探している。つまり私が求めるのは結婚、生涯のパートナーなのです。


「私も先輩達のように人生を一緒に歩ける運命の相手に出逢いたいです」


 本音をポロリと呟いた。


「う、運命って。ハハハ、そよ子は本当にロマンチストだよなぁ」


 片眉下げて苦笑する八手先輩。

 と、急に苣木先輩がアイフォンを操作し始めた。


「そよ子ちゃんが運命の相手というなら私、凄くよく当たる占い師さんをそよ子ちゃんに紹介してあげるわ」


「…え?…占い?」


「うん。今まで話さなかったけれど私が結婚出来たのも、この占い師さんに相談したからなの」


 苣木先輩はアイフォンの画面に怪しい紫色で作成されたページを開いた。


「私、結婚前に複数の男性から交際を申し込まれていたのだけれど、皆素敵な人達ばかりでどの人と付き合ったら良いのか分からなかったの。考えれば考えるほど、どの男性も私にはもったいない様な気がしてきて、全員お断りしようかとも考えたけれど私ももうじき30歳だし、結婚して落ち着きたい気持ちが強かったから断る勇気を持てずにいたの」


 え? 苣木先輩は華やかな異性交遊を楽しんでいるとばかり思っていてけれど、そんな風に悩んでいたの。

 …なんて贅沢な悩みだ…


「それである日、その事を友人に相談したら未来が見える占い師さんがいるからってこの人を紹介されて。半信半疑で占って貰ったんだけれど、占い師さんの言葉を聞いていたらなんかスッと自分の本当に望む男性が見えてきて、今の夫と付き合う事が出来たのよ。

 占い師さんが言うには、『未来は沢山用意されているけれど、その中から貴方が望む幸せな未来へ進める様にヒントを教える』っていうのが、その占い師さんの使命らしいの」


「え〜、ちょっと怪しくない?」


 八手先輩が心配そうに私を見る。


「八手さんは占いに否定的だからその占い師さんを紹介しなかったんだけど。

 そよ子ちゃんは恋愛に手詰まりな状態みたいだし、ちょっと気分転換にでも占ってもらったらと思うの」


 う〜、占いかぁ。実は半年に1回はタロットや手相を見てもらってはいるけれど、今まで見てもらった占いが当たった事はない。だいたい皆『今は少し無理みたいですがもうすぐ良い運気に入って恋人は現れますよ』とか『2、3年の内に素敵な男性と巡り合えますよ』とか言う。

 又は『貴女、まだ若いんだから自分の好きなことをしなさい』と、恋愛ばかり考えないでと説教された事もある。若いからこそ、恋愛したいのだけれど。


 苣木先輩のアイフォンに映し出されている画面は占いらしい怪しい紫色で書体は鮮やかなピンクだが、料金は手頃な設定だし内容もシンプルに説明書きがされていていた。

 まあ、占いって基本は気休めだと思うし、苣木先輩が此処に行って幸せになっているなら、私も私が望む幸せな未来のヒントを聞けるかもしれない。


「先輩、情報をくださってありがとうございます。

 私の運命の恋人に出逢うヒントをこの占い師さんに聞きに行ってみます!」


 苣木先輩は笑顔で占い師さんのサイトを私に送信してくれた。














ここまで読んでいただき有難うございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ