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黒い奴隷  作者: 渡辺朔矢
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対決ゴブリン①

「おはようございます。聖女様」

「おっはー、聖女ちゃん」

「おはよう。そよ子」


 曇り空の下、戦闘レベルを上げる為に城外へ出かける日。

 マジョラム国騎士団第1部隊クレスト隊長、騎士団第3部隊所属フェンネルさん、マジョラム国魔法使いビャクシンさんが揃ってお城の裏口で私を待ち構えていた。


「おはようございます。今日は大人数ですね」


 って、言っても普段、騎士1人、魔法使い1人、私の3人パーティが今日はもう1人騎士様が多いというだけだけど。クレスト隊長とフェンネルさんが一緒にいるのにちょっと違和感。


「聖女様の戦闘レベルが15になりましたし、聖女様は剣も使える様になってきましたので、今日は少し大変な場所へレベルアップへ行ってみようかと思います」


 クレスト隊長が男前な顔に笑みを作りながら言う。

 確かに虫とのバトルの途中で、私の武器を木の棒から剣に代えて剣は振れるようにはなったけれど…鬼隊長が言う少し大変って…私にとってはヤバイくらい大変って事なんじゃ…嫌な予感がする…


 暗い気持ちになる私にフェンネルさんが近付いて来て


「聖女様、これプレゼント」


 綺麗な緑色のフードコートを渡された。

 フェンネルさんは金色の長髪をゆるく一つにまとめ耳にピアスのチャラい風体で、女性へ贈り物を上げるのは慣れている感じだからか、私に躊躇わさせずにコートを受け取らせた。


 あ、私、男性から衣類を貰うの初めてだわ。何だか嬉しい。

 と、思ってフェンネルさんへお礼を言おうと見れば、クレスト隊長もフェンネルさんも私にくれたコートと同じ緑色の外套を羽織りだした。よく見ればビャクシンさんも魔法使いのローブが緑色。


「え? 」


 何故に全員で同色の衣装?


「この緑色が森の中に自分達の姿を同化させて、敵から視認されにくくさせるのですよ」


 クレスト隊長が説明してくれるが森に同化しながら戦う敵って?

 私は大きな不安を言葉に出そうとしたが、隊長はこれ以上の説明は現地でするからと私を強引に馬車へ乗せ

 た。馬車はフェンネルさんが手綱を握り勢いよく走り出す。横の席にはいつも通りビャクシンさんが穏やかな頬笑みをうかべて私を見ていた。



 ▽▽▽



 鬱蒼と茂る木々の中を出来るだけ足音を立てないように歩く。

 馬車から降りて1時間くらい経つが、体力レベルが35あるお蔭か、息が少し弾むくらいで疲れは然程感じない。異世界召喚直後ならこれだけ歩けば足が痛くなって動けなかったと思う。


 フェンネルさんを先頭にクレスト隊長、私、ビャクシンさんの順で森の奥へ入って来た。

 フェンネルさんが何か見つけた様子。クレスト隊長へ目配せして止まる。今日のレベルアップの敵が見つかったのだろう。ドキドキ私、何と戦わされるのか?


 と、クレスト隊長が振り向き、私の後ろにいるビャクシンさんを見て


「魔法使い殿、聖女様から離れていて下さい」


 低い小さな声で注意した。


「今日のレベルアップの目的は分かっている。邪魔はしない」


 チラッとビャクシンさんを見ると彼は真っ直ぐクレスト隊長を見つめ私の側を離れない姿勢みたい。

 この森で何をやらされるのか不安を持つ私は、ビャクシンさんが私を守ってくれる態勢なのを見て少し気持ちが安らいだ。クレスト隊長はビャクシンさんに強く言っても彼が引かないのが分かり、溜息を吐いて私に視線を移した。


「聖女様。今日聖女様が対峙します敵はゴブリンです」


「ゴブリン?」


 ファンタジーに疎いから魔物の名前を聞いても分からない。


「ゴブリンはこの森奥を拠点に生活をしていてマジョラム国領土の家畜や作物を盗んだり、マジョラム国の女性を誘拐してゴブリンの子供を産ませる最悪な魔物です」


「…子供を…産ませる…」


 うへぇ、怪物に攫われて無理矢理妊娠、出産って最低な魔物ねゴブリンって。


「聖女ちゃん、こっちへ来て」


 フェンネルさんが私に手招きする。フェンネルさんのいる所から彼が指差す方を見ると、人間の子供? 小学校低学年くらいの背の高さの緑色で痩せた人型の魔物が数匹たむろっていた。


 ゴブリン達を見て、私は体から血の気が引く。

 此処から見えるゴブリンは肌の色が緑で耳が長細くて目が糸の様に切れ長。鼻が細く高くて口がかなり大きい。そして頭や手足の作りはどう見ても人間の子供に似ている。


 ゴブリンは人に近いというか人間の子供そっくりな背格好。アレに剣を振るうなんて私は出来ない!

 だって、人を傷付けてはいけないって教えられて生きてきたの!

 しかも子供に刃物を向けるなんて非道、絶対に出来ない!


 足がガクガクして手を胸の前で握り締める。

 私の怯える様子にフェンネルさんが気付いた。


「聖女ちゃん、大丈夫。生き物を剣で斬り殺すのは初めは誰だって怖いんだ。

 だけど、慣れるから。剣を振るっているうちに何も感じなくなるから。怖いのは最初だけだから」


 いや、全く納得出来ない!


「聖女様。聖女様が倒す魔王は人型なのです。

 ですから、人型の魔物に躊躇わず剣を向けられる精神力が必要です。ゴブリンは人型の中では最弱な怪物。それでいて我々人間への被害は大きく、人々の暮らしを脅かす魔物なのです」


「そんな、ゴブリンが邪悪だと言われても、いきなり目の前の人型を殺すなんて無理!」


 2人が私にどうにか剣を握らせゴブリンと戦わせようと説得してくるが、無理なものは無理! 今までスライムや虫は日本でも退治したナメクジやクラゲ、ムカデやゴキブリに似ていたからそれ程抵抗無く倒したけれど、あんな人間の子供に似た大きさの魔物、絶対に剣で斬れない!


 2人の言葉に耳を塞ぎ立ち尽くす私。

 しかしクレスト隊長もフェンネルさんも私がゴブリンに剣を向けることは私の為なのだという信念を持っているらしく、彼らは自分からゴブリンへ向かっていけない私の為に強硬手段に出た。


 突然、私とゴブリンの間にあった木の茂みを切り落として、ゴブリン達に私の姿を見せたのだ。

 流石、魔王討伐に選ばれた騎士様達らしく一瞬の剣技で力強く素早く木の枝を撃ち払い、クレスト隊長とフェンネルさんは左右の茂みへと隠れた。


「!!??」


 急に現れた人間に驚くゴブリン。


「…ヒッ!?」 


 恐怖で動けない私。


 すると


「ナゼ? ココにニンゲンいる?」


「きゅうニ、デテキタ!」


「もりデ、マヨッタノカ?」


 ゴブリン達は私にも分かる言葉でヒソヒソと話しだした。


 …エエエ…言葉まで話せるなんて! こんなの人間と変わらないじゃないっていうか人間と同じじゃん!



















ここまで読んでいただき有難うございます。

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