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黒い奴隷  作者: 渡辺朔矢
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そよ子の休日

意外とホワイトな仕事レベルアップです。

 晴天の空。雲ひとつなく爽やかな風が吹いている。

 マジョラム国のマジョラム城の中にはとても広くて整備のされたガーデンがある。円形の水を高く吹上る噴水を中心に左右対称な花壇。こんなに立派な園庭だけれど訪れる人はかなり少ない。王様の住むお城だもの。一般人は入れないし此処へ来られる貴族だって限られている。


 今日の様なお天気の良い日には光と水と咲き乱れる花々が目と心を楽しませてくれて、この噴水前のベンチは贅沢にも私1人の特等席になっていた。

 この異世界に来て早2ヶ月が経ち、昨日私の戦闘レベルは15になった。


 戦闘レベル15。体力35。素早さ39。運91。魔力6。聖女 ∞ 。


 戦闘レベルの最大値は49で体力や素早さ運は99。魔力のみ1から9までの数値で表されるらしい。魔力は普通の人はほぼ0に近く4以上有ると魔力持ちとして城へ仕える事が出来る。私の魔力は6だから高い方だが、だからと言って直ぐに魔法が使える訳ではなく、修行が必要だと教わった。


 でも、私は聖女という任を全うしたいだけだから、多分魔法を教わる事は無いと思う。魔王を倒す為の魔法使いはビャクシンさんという最強な存在がいるんだもん。今から私が魔法を習得するのは時間の無駄だわ。


 戦闘レベル15。自分ではこの数字が凄いのかそれとも大したことがないのか判断がつかないが、クレスト隊長曰く、2ヶ月という短期間でこの戦闘レベルになるのは尋常ではないらしい。


 この異世界、ステータスが見られる人間は限られるのだが、見えなくても人々は力の数値を生まれ持っていて、その力の強さによって職業が決まると言っても過言ではないらしい。

 騎士になりたい男性は、戦闘レベル10か体力レベルが25を超えてないと騎士見習いに成れず、戦闘レベル10から騎士としての修練を積んでレベルアップを目指すが、戦闘レベル15以上になるには厳しい修行が必要なのだと。


 戦闘レベル15、体力35になった私は一般的な騎士よりも強くなっている。

 …正直、信じられない…

 こんなに鍛えているけれど不思議と外見は変化が無いから。腕も足も異世界に来た時と大きさは変わらない。筋肉ムキムキになってはいない。マッチョにならないのは女としては嬉しい。というか、もしもクレスト隊長みたいな逞しい身体になったら絶対に私はレベルアップを止めている。


 しかし、数字上はそこいらの騎士より強くなっている私。見た目は羊だが中身は狼ってこと。彼氏が欲しいなら絶対にこの強さは異性にバレてはいけないよね。騎士より強いのは隠して生きていこう。

 キラキラ光る水しぶきを見ながら心に誓う。


 そういえば昨日、クレスト隊長のステータスを見せて貰った。


 マジョラム国第1騎士団 クレスト 25歳。

 戦闘レベル40。体力89。素早さ82。運44。魔力5。称号 勇者 。


 先程のレベルの話しを考えれば、クレスト隊長は覇王並みに強いね。

 流石、魔王討伐隊の一員に選ばれるだけある。クレスト隊長の家系は歴代マジョラム王に使える騎士で血筋は良く、彼は騎士見習いの時点で戦闘レベルが13あったそうだ。その後、騎士としてレベルアップに励み戦闘レベル35になった時『称号 勇者 』がステータス画面に現れた。その為25歳と若くしてマジョラム国第1騎士団隊長と普通ではあり得ない地位を得たと聞いた。


 クレスト隊長は血統も良く実力を持っての大出世だから周囲も納得の地位。

 そんな実力があり貴族のクレスト隊長の嫁選びが実は難航していると、若いメイドさん達が城内で井戸端していた。


 顔やスタイルは男らしく逞しく、地位がありお金持ちのクレスト隊長を陰ながら慕う女性は少なく無いが、彼の隣に立ち生きていくには自信が無くて隊長の事が好きな女性達は及び腰になっている状況みたい。

 そうだよね、いくら条件が良い異性がいても持ち物が良すぎると自分には無理というか、背負えないというかアタック出来ないよね。でも、まあ私は日本では駄目元で高レベルの男性にも声をかけていたけどね。結果は全敗。無しの礫でしたが。ああ、でもそれは呪いのせいだったのかな?


「あーーー、友達が欲しいなぁ」


 恋人はいなかったけれど女友達はいた。お持ち帰りもされないコンパの帰りでも、女友達とお喋りしたりカラオケ行ったり、彼氏と旅行なんて経験はなくても女友達と海外へ飛んだりして楽しかった。男性経験は無くとも同性の交友関係は幅広く付き合えていた。


 しかし、この異世界に来てメイドさん達は私とほぼ同年齢の20代前後の女性が多いのに、職業意識が高いのかお喋りに私を入れてくれない。聖女の私は彼女達からしたら特別な存在で日常会話をするのは失礼だと思われているのか。クレスト隊長の噂話も混ぜてもらおうと近寄ったら、蜘蛛の子を散らす様にメイドさんは去ってしまった。


 私の身の回りの世話を焼いてくれるクレマチス姫は、私の体調に本当によく気を使って見てくれる。

 今日のお休みも私の疲れを見通して姫がクレスト隊長に私の休みを貰ってくれたのだ。

 体調管理は良くしてくれるけれど、クレマチス姫は私の世間話やお喋りには付き合ってくれない。姫としての執務が忙しいだろうから仕方がないけれど、ちょっと冷たく感じてしまう。


 王様に気さくに話せる女友達を数人下さいって直談判してみようかな?

 いや、しかし王様から派遣された女性を友達と認定していいのか?

 あーーー恋人どころか女友達すらいないって寂しすぎるわ!


 ザブザブ綺麗な水が上がる空の向こうお城に取り付けられた大時計が見える。11時40分。もう少しでお昼の時間。徒然なるままに1人考え事をしていたけれど、今日のお昼はお城の食堂でいただく予定になっている。食事時間に遅れるのは給仕の方に申し訳ないからそろそろ食堂へ移動しよう。


 薔薇に似た厚い花弁の重なる蔓に咲く赤い花が、庭の所々に作られているオブジェや木に絡まり艶やか咲き誇っている中をテクテクと歩く。

 一般開放したら恋人達が愛を語る場所として賑わいそうね。


「ん?」


 そんな風に考えていたら赤い花が咲き溢れる大きな囲いの向こうから男女の声が聞こえてくる。

 王族の方かしら? 貴族…それとも庭師?


「……でしょ!…いい加減…しなさい!」


 聞こえてくる声の大きさからして喧嘩かな? 城の食堂へ行くにはこの道を通るしかないのにどうしよう。

 他人の話しを盗み聞きしたくない…あれ?…


「…貴方の為…思って!」


「…関係ない…」


 この声クレマチス姫とビャクシンさんじゃない?


 ヤ、ヤバイ! 知り合いの男と女の会話はもっと聞きたくないというか、関わってはいけないと思う。歩くのをやめて2人から見えない様に花の絡まる壁に急いで身を寄せた。

 しかし、2人から離れた場所だけれどクレマチス姫の声は大きく、ビャクシンさんの声はよく通るから聞こえてしまう。


「ビャクシン、貴方はこの国と隷属契約を結ぶ奴隷なのよ。

 聖女のお守りが貴方の使命じゃない。それなのにこの2ヶ月、貴方は聖女のレベルアップに毎回同行するから貴方の仕事が滞っていると魔法塔から報告がきてるの」


 クレマチス姫がキツイ口調でビャクシンさんを責める。

 ビャクシンさんが常に私のレベルアップに付いて来るのは、魔王討伐メンバーだから当たり前かと思っていた。

 彼はマジョラム国の奴隷。国の為に尽くす身だもの、私の警護以上に重要な仕事があるのかも。それを放っておいて私にかまっていたのでは怒られても仕方がない。


「分かりました。今迄溜めてしまった仕事は今日中にやりましょう。

 それから今後は仕事をしっかり片付けますよ」


「貴方の仕事をするのは当たり前だわ…それだけじゃなくて…貴方が聖女に毎回同行する必要はないって言っているの」


「私には有ります」


「わがまま言うのは止めて!

 どれだけビャクシンが聖女(あの女)を想っても、聖女には元の世界で逢いたい男がいるのよ!」


「……………………」


 そうだ…私には八手先輩の結婚式の二次会で出会った桂さんと食事の約束をしている為、出来るだけ早く帰還したい…って言っても実は桂さんの顔をハッキリと思い出せなくなってきているんだよね。やばい…確か桂さんは…メガネ…綺麗なシルバーのメガネをしていたはず…うん…顔は思い出せないけれどメガネで分かるわよ…きっと…


「私、お祖母様から聞いているのよ。貴方の過去。

 ビャクシンにはずっと追いかけている女がいるって。その女性があの聖女なのね?」



「……………………」


 あの聖女って私の事かしら? ビャクシンさんが追いかけているって何で?

 2ヶ月前に初めて会ったのにずっとって? ??? 全く心当たりが無い。


 それにしても、必死に喋るクレマチス姫とは対照的にビャクシンさん冷静っていうか無って感じ。整った顔立ちにスカイブルーの瞳が凪の湖を連想させるくらい心に揺らぎが無い様子で立っているわ。


「ビャクシンしつこすぎよ! 大体、あの聖女は貴方の事に気がついていないんでしょ。

 諦めて別の恋人を見つけた方が良いんじゃないの。貴方見た目は若いのだし能力だって高いわ。

 たった1人を追い求めずに沢山恋愛しても、仕事に差し支えなければ咎められないわよ」


 ん? 何だかクレマチス姫頬を赤らめて潤んだ目。

 ビャクシンさんを見ながら恋愛を勧めているみたいな言い方? …はっ…もしかして…クレマチス姫はビャクシンさんの事が…好きなの?


 と、ビャクシンさんは長い銀髪を掻き上げながら青い瞳を鋭く輝かせクレマチス姫に言い放った。


「姫様には私の気持ちなど分からないでしょう。

 私はその1つを手に入れられるならば、どんな罰だろうと恐れませんよ」


 美形のキメ姿! 凄い色香が溢れ出して見えるわ!

 こんなに離れているのに心臓がドキドキする。姫も顔を真っ赤に染めてビャクシンさんに見惚れている。あ、クレマチス姫急に踵を返してお城へ走って行ったわ。ビャクシンさんもゆっくりとお城の方へ歩いて行く。


 この世界に来て群を抜いて美しいビャクシンさんは目の保養っていうか見ているだけで眼福だけど、私には彼は綺麗すぎて恋人やパートナー的な存在には望めないと思う。クレマチス姫くらい美人ならビャクシンさんの隣に立てるのに、姫は好きみたいだけれどビャクシンさんは別に好きな人がいるって事か?

 ビャクシンさんが恋する人ってどんな人かな?


 …その(ひと)が羨ましいな…

 昔、聞いた。女は想うよりも想われる方が幸せって。私も1度でいいから男性から求められる経験をして見たいわ。






ここまで読んでいただき有難うございます。

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