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黒い奴隷  作者: 渡辺朔矢
17/42

⑥桜の木

もうドロドロの関係は嫌なんです。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー。


「絶対にビレアだよね。

 貴女を私が間違えるはずはないんだよ」


 第2代聖女が握っていた小さな薄ピンクの花を咲かせる木の枝。


 その枝にビレアの魂と同じ色を感じた。

 だから、私はこの世界で聖女サクラの持っていた枝に似た花の木を探し出して庭に植え、貴女を接ぎ木して毎日少しづつ私の魔力を注いできたんだ。魔法で一気に育成すると貴女の魂が消えてしまうから、ビレアに目覚めて欲しくて毎日少しづつ少しづつ育てて、花の木は私の身長を追い越した。


 そして、ビレアは何度か可愛らしい薄ピンクの小さな花を沢山咲かせてはハラハラと悲しげに散って、輝くような緑の大樹になる。季節の移ろいと共に姿を変えるビレアを何年も見てきた。


「もう、目覚めているのでしょう? ビレア。

 何故? 私と話しをしてはくれないのですか?

 貴女は今世、植物に転生されましたが、私の魔力がビレアに満ちて貴女が話したいと思ってくだされば、私にビレアの声が届くのですよ」


 木には薄ピンク色の花の蕾が付き始めている。今年も貴女は華麗に咲き誇るのでしょう。

 私は木の表皮に手を当ててピンクの花が咲く木に向かい懇願する。


「貴女と最後に言葉を交わしてから200年は経っている。

 ビレア、貴女との思い出は一欠片も無くしてはいない私ですが、やはり生の会話に勝るものはないのです」


 私は木の周囲に腕を回して抱きつき頬をつけた。木はガサガサとした感触で自然の香りがする。


「お願いです。ビレア。

 私がこの世界で唯一愛する貴女の声を私に聞かせてください」


 ビレアに抱きついていたが彼女は何も言ってはくれなかった。


 しかし…例え話せなくても…ビレアが此処にいるだけで私の心は空ではなくなる。


 もしかしたら、明日にはビレアが前世の時のように私へ語りかけてくれるかもしれない。

 この数年、私は毎日ビレアと話せる事を期待して毎日を過ごしていた。




 ▽▽▽




「おはよう」


 ビレアに朝挨拶をする。昼間は仕事でビレアに会いに来られない。夜は王女に『木に話しかける貴女の姿が怖いから夜間の庭へ出ることは禁じます』と言われたので、朝と夕の2回しかビレアに会えない。

 私は先々代の王女との約束で、マジョラム国第1王女の命令には逆らえないから仕方がないが……。


「ハーーー、しかしながらこの庭は私しか訪れないと言っても過言ではないのに、夜中ビレアに話しかけていても誰も此処には来ないのだから放っておいて欲しいものだ」


 木に腕を巻きつけながら1人愚痴ると


「それは母様が魔法使い様の体を心配して言ったのよ。

 夜中にも来ることを許したら、魔法使い様は寝ずに此処に居つくでしょうからね」


 背後から聖女の声が聞こえる。


 この場所へ私が居ない時に聖女サクラが来ていた事は気が付いていましたが、今まで私がいる時には来なかったから大目に見ていたのに。朝のビレアとの2人きりの時間に…チッ…


「…サクラ様…私は今大事な時間を過ごしているのですよ。

 朝早くと夕方には此処には来ないでいただきたい」


「…その木…わたしが異世界転移してきた時に握っていた枝でしょ。

 わたしにとってもこの花木は特別なのよ。魔法使い様、独り占めはしないで頂戴!」


 聖女の言葉に振り向くと、先日20歳になられた聖女サクラ様は眉を顰めて人差し指を私に向けている。



 今から18年前。魔王復活を察知したマジョラム国王族は200年前に魔王を倒した聖女が必要になり、聖女召喚の儀を行った。そしてその儀式で現れたのは片言しか話せない幼い女の子サクラ。

 黒く真っ直ぐに伸びる髪を後ろで高く結び、大きな黒い瞳にふっくらした頬。この世界に来た小さな聖女に絆されたマジョラム国第1王女の手により大切に育てられたサクラは明るく物怖じしない性格に成長した。


 この私にズバズバ言ってくるのは第1王女とこの聖女だけだ…まあ…確かにビレアはこの聖女サクラが異世界から持ってきた花の枝。サクラ様にとっては覚えてはいないだろうが故郷の花だから、心の奥で郷愁を感じるのかもしれない。


「分かりました。サクラ様。

 では、私が仕事で来られない昼間の時間帯はサクラ様が此処へ来られるのを許可しましょう」


 本当は何人もビレアに近づけたくないのだが、サクラ様を拒否しても結局彼女が王女に告げ口するのは容易に想像できる。すると、サクラ様を溺愛する王女が怒り私がビレアに会う回数を減らされるかも知れない。1日2回ビレアに会える時間は死守したい。


 私が広い心で聖女にビレアを見ることを許すと彼女は大きく口を開け


「うわー、上から目線。ってこの庭だって魔法使い様のものじゃないじゃない。

 本当はお城にいる皆が来ても良い所なのに、魔法使い様が近寄るなオーラ出して他に人が来られない様にしたんでしょ」


 サクラ様は呆れたと呟いた。


 ムッ…折角私が大切なビレアに近付くことを認めてやったのに…


「そんな器量の狭い愛し方しかしないから、答えてもらえないのよ」


「ハアッ!

 何を言いだすんですか! サクラ様のようなお子様が愛など理解できようはずもない!

 他人の恋情に口を出してはいけないと王女様から教えていただいていないのですか!」


 私とビレアの間に無遠慮に入られたと感じて、カッと頭に血が上り思わず聖女(こども)に怒鳴ってしまった。


「フンッ! 私先月結婚したのよ! 子供じゃないってーの!

 だいたい、そんなに興奮して言い返してくるなんて図星なんじゃない?」


 聖女は私の怒気を感じても怯まずに、寧ろ彼女は腰に付けた剣へ手を掛け私と戦う構えを見せる。

 聖女の戦闘レベルは48。人間にしてはかなり高い戦闘能力だが私に敵うはずがない。王女に甘やかされているから私が自分を攻撃するはずがないと高を括っているのか。


「サクラ様は誰に私の話を聞いたのです?

 私はこの木をとても大切に思っているのです。

 他人が此処へ来て美しく咲く花の枝を幼ない貴女がした様に折ってしまうかも知れないじゃないですか?

 宝物を大事に保管しないはずがないでしょう?」


 …小娘相手に声を荒げるなど恥ずかしい事だ…一呼吸置いて落ち着いて話さなければ

 しかし、サクラ様は私の言葉に全っく耳を貸さずに


「魔法使い様が何百年もそんな強引で自分勝手な愛し方をするから、彼女は苦しいのよ!

 …束縛するだけが愛情の示し方では無いのに…」


 サクラ様は顔を歪め心配そうに木を見つめる。

 私は不思議に思い聞いた。


「彼女が苦しい?

 何故? サクラ様はまるでビレアの存在を知っているかの様に話すのです?」


 と、聖女は急に口ごもり少しの間迷っていたが思い切った様に木に走り寄りビレアに抱きついた。

 ブチっと頭の血管が鳴る。この木は私の宝だと私以外近寄ってはいけないと先程説明したのに


「サクラ様、木を見るのは良いですが、その様に力一杯抱きつくのは止めてください。

 木が傷んでしまいますから」


 聖女をビレアから引き剥がそうと手を伸ばすと


「…わたしこの木の…お姉さんからずっと魔法使い様の話を聞いていたの」


 え?


「お姉さん、魔法使い様との恋に悩んでいて…わたしでは子供だから全然力になれないけれど…」


 ま、まさか


「…話を聞くだけなら出来たから…」


「やっぱりビレア! 話が出来る様になってたんじゃないですか!!

 何で? サクラ様とは話すのに! 私には声を聞かせてくれないんですか!?」


 ショックだ! サクラ様とは会話して私にはしてくれないなんて!


 すると、聖女は大きな溜息を吐いて


「魔法使い様のそういう他人の話を聞かない態度が駄目なんだよ!」


 首を横に振りながら人差し指を私に向けて来た。













ここまで読んでいただき有難うございます。

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