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黒い奴隷  作者: 渡辺朔矢
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タイム司祭。過去の聖女について

雨の日はタイム司祭からマジョラム国の歴史や聖女について学びます。

 戦闘レベル11。体力29。素早さ33。運90。魔力6。聖女 ∞ 。


「聖女様、素晴らしい成長ぶりです。

 たかが1ヶ月程で戦闘レベルが11まで上がるとは、私は想像も出来ませんでした」


 雨がザアザアと沢山降る日。ランプの灯で照らされる白い書斎の中。

 マジョラム国国教ベルガモット教のタイム司祭が優しげなグレーの瞳を細め私の戦闘レベルアップを褒めてくれている。今日はタイム司祭からマジョラム国の歴史や聖女と魔王討伐について学ぶ日だ。


 白い華麗な椅子へ座って温和な雰囲気のタイム司祭の話を聞くのは心がとっても落ち着く。


 この数日、鬼のクレスト隊長に連れられて森の中の虫を撲殺し回っていた私。


 23歳一般事務職の普通なOLが、森の中を走り細めの丸太を振り回して虫とは思えぬ大きさの気味の悪い昆虫を叩き潰す。現代日本でなら正気の沙汰じゃないよ。初めのうちは1匹倒すのに30発くらい叩いていたけれど、今は虫を1発か2発で仕留められるようになった。


 クレスト隊長の私を強くするという狙い通り、丸太を振ることで体はとても強くなったと思うし、気持ち悪い虫の様子を見て感じる事により精神的にも鍛えられた。私の体は見た目は変化はないけれど、スタミナと戦う感覚がついたのは自分でも分かる。


 でも…絶対に…クレスト隊長に感謝なんてしないんだからね!

 私が強くなるのは一刻も早く日本へ帰り恋活(恋人を作る活動)をするため!

 私のいた世界へ帰るには魔王を倒さないといけないから、仕方なくも強くなるの!

 私自身は強さなんて求めてないんだから!


「本当にそよ子は頑張りましたね」


 と言って隣に座るビャクシンさんは美しいサファイアブルーの瞳を輝かせ私を愛でる様に見つめる。


 ビャクシンさんは毎回レベルアップへ同行してくれて、丸太を握るボロボロの私の手を治癒したり私が倒せない強い魔物や怪物から結界を張って私の修行を守ってくれている。

 素敵な男性に気にかけてもらえると勘違いして…ビャクシンさんを好きになってしまいそう…


「それでは今日は聖女様に歴代の聖女について、お話をしたいと思います」


 タイム司祭は机の上に置かれた大きく分厚い本の中、美しい女性が描かれているページを開いた。

 本に使われているのは紙ではなく、動物の皮を鞣した物。その皮に特殊な画材で色を着け黒い髪の女性を描き、女性の着ている衣装には糸で刺繍もしてある。凄く手の込んだ芸術作品だわ。


「この絵は今から800年程前に作られました。この女性はマジョラム国に初めて召喚された聖女マツ様です。マツ様も今の聖女様と同じく異世界の日本という国から来たと伝承に残されており、彼女は魔王討伐後、元の世界へお帰りになりました」


 タイム司祭の指す女性は江戸時代からこの世界へ来た様子で、黒い髪を大きく上に結い上げ簪をさし鮮やかな紫色の着物を着た日本美人が書かれていた。


「この女性が元の世界へ帰ったと聞いて安心しましたが、元の世界に帰ったとどうして断言出来るんですか?」


 元の世界に返してくれると聞いてから疑問なんだけど、召喚が出来るから返還することも出来ると単純に考える。でも、王様は私が召喚された時間に戻してくれると言っていたわ。それってかなり難しい事じゃない? 時間を操るみたいなものでしょ?


 タイム司祭は私の問いに眉を顰めて言う。


「私では詳しく分かりませんが、こちらの世界へ来る時の聖女様とあちらの世界へ帰った時の聖女様のご様子が、召喚の儀の間にある鏡に一時(いっとき)ですが映るそうなのです。

 初代聖女様が向こうの世界へお帰りになった時、鏡には聖女様が住まわれていたであろう大きな金色の魚の作り物が乗った建物の中で、マツ様は変わった頭髪の男性と抱き合っていたとの話が残っています」


 大きな金色の魚の作り物が乗った建物ってお城かな…変わった頭髪ってお殿様か…マツ様はお姫様だったのかな? 具体的な話があるという事は、元の世界へ本当に戻してもらえると考えていて良いのか。


 タイム司祭は私の無言を了解と受け取り、話を続ける。


「その後、今から400年程昔。2度目の聖女様召喚で来られた女性がこちらのページに描かれているサクラ様です」


 タイム司祭の開いたページには大きな黒い瞳の小さな幼女が描かれている。幼児? 赤ちゃん?

 私の表情から疑問を察したタイム司祭は直ぐに説明を始めた。


「ただ、サクラ様は聖女様の本名ではないのかも知れません。

 2度目の聖女様はこちらの世界に来た時2歳か3歳ほどの幼子で、手に薄いピンク色の小さな花が咲く枝を持ち上げて頻りに『さくら、さくら』と言っていたそうで、当時のマジョラム国第1王女様が聖女様をサクラ様と呼びお世話をされたそうです」


「そ、そんな幼い子供が」


 親から離れて見知らぬ世界へ飛ばされ魔王と戦わされたなんて! 酷い!!

 私は虫との激闘を思い出し幼いサクラちゃんも私と同じ事を強要されたのかと腹が立ってきた。

 しかし、隣からフフフと笑みの漏れる声が聞こえる。何で笑っているのビャクシンさん?


 私の視線に気がつき、ビャクシンさんは顎に手を当てて微笑んだ。


「そよ子。私…フフフ…当時の事を思い出してしまって。

 幼児が聖女召喚で現れた時の王族や貴族、司祭達の慌てようといったらなくて…フフフ…混乱する大人の中、サクラ様は第1王女の足元へ駆け寄り手に持つ花を見せて『さくら』と何度も言いながら王女へ笑顔を向けたんですよ。

 その聖女様の可愛らしい様子に王女は絆され、それはそれは大事にサクラ様を育てていましたよ。サクラ様は王女様を母様と呼び2人はまるで本当の母娘のようでした」


 あれ? ちょっと待って

 …ビャクシンさんの話し方に違和感が…ビャクシンさんは親戚の見知った子供の話をしているみたいに400年前の聖女の話を私に聞かせているよね?


「あの、聖女様」


 首を傾げてビャクシンさんを見る私にタイム司祭が話しかけてきた。


「最初にクレマチス姫が聖女様に説明した通り、ビャクシン殿はマジョラム国に(つな)がれた奴隷であり、国の為に魔法を使い、国の為に存在し、国の為に生きる存在なのです。

 魔法使い殿はマジョラム国が建国してからずっと生きている不老不死のこの国の生き字引なのです」


 …そう言えば…クレマチス姫が大広間で魔王討伐隊の自己紹介の時に言っていたけれど


「マジョラム国建国以来って…ビャクシンさんは一体…何年生きているの?」


 私は横に座る超絶美形な魔法使いに恐る恐る聞いた。ビャクシンさんは少し考えて


「今年で1088歳ですね」


 サラリと答る。大した問題は無いよという感じで。


 …1088…凄すぎて、全く時の感覚がわからない。

 ビャクシンさんの顔や体は20代くらいの青年に見えるし、声も凛と張りのある低い声で若々しい。1000年以上生きているなんてビャクシンさんを見ても全く想像つかないが、これがいわゆる不老不死の人なのかな。

 ん? ちょっと待って?


「っていうか、奴隷としてマジョラム国に繋がれて存在しているって、ビャクシンさんは国の為に死ねないって事なの? マジョラム国があり続ける限り、生きて国に尽くし続けるしかないの?」


 それは残酷な話じゃない? だって、何だって終わりがあるから頑張れるはずなのに。

 死ぬのは怖いけれど死なずにズーっと働くのは精神的に辛いと思う。ビャクシンさんが可哀想だ。


 と、強い力でビャクシンさんは椅子から私を持ち上げて彼の腕の中へ抱いた。


「ッツ!?」


「そよ子、私の事を考えてくれて有難う。しかし私は貴女のお蔭で大丈夫ですよ」


 な、何が? 私はビャクシンさんに何もしてあげていないよね?

 ビャクシンさんは私の頭に頬擦りしながら言うけれど、こんな美味しい状態どう対応して良いのか本当に分からない!? 顔から火が出そう! 胸がドキドキして壊れるぅ!


「オッホン! 魔法使い殿聖女様をお離しください。年頃の女性に対してむやみに抱きつくなど失礼ですよ」


 タイム司祭が目を伏せながら咳払いし、ビャクシンさんを諌めてくれた。


「ああ、すみません。そよ子。」


 ビャクシンさんの腕から解放さて今更ながら思う。

 彼にとって私はどうやら特別な人間みたい? それはやっぱり私が聖女だからか? それとも他に理由があるのかしら?















ここまで読んでいただき有難うございます。

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