タイム司祭のお話。レベルアップについて
※この作品のレベルアップはなんちゃって設定というか、かなり適当です。
作者が子供の頃ドラクエをプレイしていた時『魔王を倒しに行くには勇者のレベルをどれくらい上げたらいいのか?』と友人に尋ねたところ、『勇者が45レベルくらいになったらいける』と教わりソレを元に考えているからです。因みにプレイしたドラクエは魔王へ行く前に止めてしまいました。
雨の降る日。
雨の日はレベルアップに出かけるのが大変だからと、タイム司祭からマジョラム国の歴史や聖女について学ぶようにクレマチス姫から言われ、お城の中に有る書斎へ連れて行かれた。
歴史を学びこの国の成り立ちや魔物と人間の対立などを知っておいた方が、魔物と対峙する心構えが私に出来るだろうというのがタイム司祭の考えだ。タイム司祭は職業柄、戦闘は出来ず魔王討伐隊の時の役割は治療役らしい。
「ここよ。入って」
今日のクレマチス姫は鮮やかな赤色のドレスに金色の豊かな髪を編み上げ、華奢なうなじが見える。白い頬にほんのりのせたピンクのチークは彼女の色気を増していた。
この世界、テレビも雑誌もネットも無いから観る物が無い。しかし、この異世界に来て私が出会った人間は美男美女が多く、しかもクレマチス姫は高貴な王女様で身に付けている物は芸術品レベル。豪華な美女の動作を目の当たりにするのは目の保養になっています。
それにしても、もう少し親しい会話をクレマチス姫としたいのだけれど、彼女にはなかなか気さくに話しづらい感じがある。出来れば八手先輩や苣木先輩みたいにお喋りしてみたいのだけど。
書斎の中は真っ白な壁に明るい照明がいくつか付いていて、薄暗い部屋を明るく照らしていた。因みに照明はチューリップ形のガラスの中に魔物の油を入れて芯を燃やしているとのこと。教えてもらった時は気持ちが引いたが、臭いが無いのと生活に灯りは必要なので今は異文化として受け入れた。
「こんにちは。聖女様」
大きな窓辺に、とても立派な白い机が置いてありタイム司祭が優しく椅子へと誘ってくれる。
タイム司祭は ゆったりとした物腰で分厚い本を本棚から取り出し私の前に置いた。タイム司祭の声は低いのだけれどよく通り聞きやすい。タイム司祭に会うと耳から癒される感じだわぁ。
「今日は、生憎の空模様の為、私が聖女様へマジョラム国についてお話し申し上げたいと思います」
「はい。宜しくお願い致します」
私は座ったままタイム司祭へ頭を下げる。
この国の礼儀作法はまだ知らないけれど、タイム司祭に私は真面目な生徒と映ったのかニッコリと微笑まれた。
「さて、ところで、姫様と魔法使い殿も聖女様と一緒に国の歴史についてご静聴されていかれるのですか?」
タイム司祭は微笑んだまま、私の横の椅子へいつのまにか座ったビャクシンさんと、私とビャクシンさんの間に身体を押し入れて立つクレマチス姫に声をかける。ビャクシンさんは無表情で即答した。
「ええ、そのつもりです。
なにせ、私程この国の歴史について詳しく知っている者などいませんし、それに妙齢の男性と女性を部屋の中に2人きりにするのはよくありませんからね」
妙齢の男女って私とタイム司祭かな? いやいや、タイム司祭は素敵な大人の男性と思うけれども、彼は司祭ってくらいだから神様に身も心も捧げているんじゃないの? 生まれてこのかた異性関係の無い私と司祭様が間違いを起こす事など想像出来無い。
ビャクシンさんの整い過ぎている美しい顔は表情を作らないと冷たい辛辣な態度に見える。タイム司祭が『失礼な』と怒り出さないか心配だ。しかし、タイム司祭はビャクシンさんの言葉を
「確かに魔法使い殿よりこの国の事を知る者などいませんね。どうぞ、ご同席下さい」
と、やんわりと受けた。流石、大人な司祭様。
タイム司祭は穏やかな態度のままクレマチス姫を見た。
「姫様は如何なさいますか?」
「…私は…聴けないわ。今からダンスの練習に行くから」
クレマチス姫は少し迷った後に苦しそうに答えて唇をキツく結び、一瞬キッと私に鋭い視線を送ると足早に書斎を出て行った。
え!? クレマチス姫に睨まれた? 私、姫に何もしていないよね?
当惑する私を余所にタイム司祭は冷静な声で
「それでは聖女様、今から始めさせて頂きます。
先ず始めに聖女様のステータスから説明させて下さい」
聖女についての講義が始まる。
ステータス画面を出現させてステータスの意味を教えてくれるタイム司祭。最初は先程のクレマチス姫の態度が心に引っかかったが、ステータスって子供の頃プレイしたゲームみたいで話が進む内に姫の事は一時消えてしまった。
「ほぉ、聖女様は既に戦闘レベルが3に成られているのですね。素晴らしいです」
タイム司祭はどうやら人を褒めて育てるタイプみたい。私は褒められて嫌な気にはならない。寧ろ嬉しくてもっと頑張りたくなるタイプ。因みに画面の出し方はスライムを倒しに行った時にフェンネルさんから教わっている。
「自分のステータスを見られる者はこの世界では限られております。
ある一定の修行を収めた者や特別な能力を持つ者で無い限り、ステータスを見る事も知る事も出来無いのです」
おお、この世界の人達は皆コレが見えるのかと思ったけれど違うのか。
「修行とは私の様な神に仕える為に学んだり、騎士の様に身体を鍛えたりした者達です。その修行者達の一握り、選ばれた者だけがステータスを見る事が出来ます。
そして、特別な能力とは魔力を持って生まれたごく少数の人。魔力は0から9の数値で表されるのですが4以上の魔力を有していますと一般人でも城の魔法塔へ使えることが出来ます。大変珍しい能力でなかなか魔法使いになれる能力を持つ者は現れないです」
この世界でも魔法が使えるって珍しいって事なのか。
私は隣に座る美形な魔法使いをチラッと見た。すると、ビャクシンさんは私を見ていたらしく目がバッチリと合ってしまい、急いで目線を逆の方へ移動させた。
ビャクシンさんには筋肉痛の治療とはいえ生脚を見られたし触られた。あの恥ずかしい感覚が今も抜けず、ビャクシンさんの姿を直視出来ない。顔が熱くなって、心拍数も上がってきた。
「特別な存在とは聖女様のことでもあります」
タイム司祭は私のステータスを見ながら教えてくれる。
「聖女 この称号は、そよ子様しか付いておりません。そして、聖女の下に付く ∞ マークはそよ子様の聖女の能力が最高値だということです」
はー、落ち着いて私。目の前にはタイム司祭が居るもの。此処ではビャクシンさんが私に触れる事はないわ。ん?…私…ビャクシンさんに触られる事を意識し過ぎだ。
「戦闘レベルは49を超えますと最高値 ∞ 表示に変わります。
聖女様の今のステータスですが戦闘レベル3、体力11、素早さ12、運89、魔力6、聖女 ∞ と値が出ていますね。体力素早さ運は99を超えますと ∞ になります。
体力、素早さ、運のステータスの伸びは個人差が大きく、同じ魔物を倒しても数値の上がりは人によって違います」
ビャクシンさんに気を取られていたらいけないわ。
タイム司祭の説明を聞かなければ。
「因みに大まかな強さの目安として、戦闘レベル3は大人の女性の中では強く、レベル6で一般男性と同じくらいの強さ、レベル15を超えていきますと訓練された騎士クラスの強さになります。聖女様には魔王討伐までに戦闘レベル45は欲しいところです」
「戦闘レベル45!?」
現在レベル3の私からしたらかなり強くならないといけないと感じるわ。そんなに強くなれるのかしら?
そして女としてそんなレベルの強さを持っていいのか?
単純計算で一般男性の7倍の強さで、騎士の3倍強いって、相当じゃない?
そんな強者になって魔王を倒したとして日本に帰って桂さんに会った時、彼に私は女性として認識してもらえるの?
見た目がムキムキになっていなければ大丈夫? いやいや、そこまで強くなっていたら誰が見ても私は達人のオーラをまとっているわよね?
「どうしました、そよ子?」
ビャクシンさんが遠い目をする私を心配する。
「聖女様、心配しないで下さい。今、戦闘レベルが3で45まで上げる事が出来るのか不安なのでしょうが、我々が聖女様のレベル上げの方法を考え魔王を倒せる様に聖女様を導きますので、聖女様は安心して下さって大丈夫です」
タイム司祭も私を慰める。嫌、レベルが上げられるかが問題じゃないの…私は…
「…そこまで強く成ると…今後の人生…物凄く困るんで…」
「そよ子様以外に聖女は存在しません!
必ず魔王に勝っていただきます!」
タイム司祭は有無を言わせぬ迫力ある笑みで私の聖女辞退を遮った。
ここまで読んでいただき有難うございました。