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黒い奴隷  作者: 渡辺朔矢
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筋肉痛

普段と違う体の動きをすると翌日には筋肉痛が襲ってきます。

 初日に戦闘レベルが3まで上がり、翌日は身体を休めるようにとクレマチス姫が休日にしてくれた。クレマチス姫は最初の出会った時より私への当たりが優しくなった気がする。


 お休みをくれて本当に有難い。

 昨日は、スライムを見つけ木の棒で潰すだけなんて簡単!って、調子に乗ってスライムを探しては倒していたけれど、沼地で足場が滑る中、しゃがんでは立ってしゃがんでは立っての繰り返しがスクワットみたいだったからか、太腿とふくらはぎの筋肉が痛くて今日は動けそうもない。


 普段OL生活で使っていた筋肉とは別の部分だし、偶に激しく体を動かしたから筋肉痛になっても仕方がない。それにしてもこれが現代日本なら湿布とか塗り薬で傷ついた筋肉の痛みを落ち着かせるのだけれど、この世界に似た効能を持つ物ってあるかな?


 動けない私の為に昼食を部屋へ持って来てくれたメイドさんに『体の痛みをとる薬』がないか聞いてみたが、メイドさんには心当たりは無いようだった。残念。

 寝て治すしかないかな、でも足が重く熱くて痛いから寝るにも寝られないんだけれど。


 昼食を簡単に済ませてベッドの上でゴロゴロしながら苦しんでいると、突然ノックも無しにビャクシンさんが入室して来た。


「そよ子! 大丈夫ですか!?」


 驚いて見る私にビャクシンさんは勢いよく駆け寄って来て


「どこです? どこが痛むのです?

 まさか昨日、怪我をしていたのですか?」


 早口でまくし立てながら私の掛け布団を剥ぎ取った。

 私は今日立ち上がれずに布団の中にいるからネグリジェ姿。しかもパンツ以外の下着は 身に着けていないので装備が薄い。


「ぎゃぁ! 待って! 落ち着いて、ビャクシンさん!」


 ネグリジェは体のラインがクッキリ見えるから男性にこの姿を見られるのは相当に恥ずかしい!


「いいえ、落ち着けませんよ! そよ子が体が痛くて動けないなんて!

 昨日私が一緒にいたのに、そよ子に怪我をさせていたとは!

 どうしてもっと早く私にそよ子の体の状態を教えてくれなかったのですか!?」


 っていうか、私が寝込んでいるのをビャクシンさんはどうして知ったの? それにこんなに慌てて心配してくれるのは何で? この人外見はめちゃくちゃクールな冷血漢に見えるのに!


 ビャクシンさんは私を頭からつま先まで見渡し、痛みの場所を診ようと服を脱がそうとネグリジェを掴んできた。


「ち、違うの! 昨日は痛くなくて、これは一晩経ってから出る痛みだから!

 止めて! ネグリジェを脱がそうとしないで!

 痛いのは足! 足だから!」


 服を脱がされないように抵抗しながら、必死に痛みの場所を叫ぶ。

 あれ?…この場面…前にも経験ある。この世界で目覚めた時メイドさん達に服を脱がされたわ。

 と、余所事を考えた隙に


「きゃあ!!」


 ビャクシンさんは遠慮なく私のネグリジェの裾を捲り上げて、私の足を見た。

 何とか手でスカートを押さえ下着は見られなかったが、診察? とはいえ、生脚を凝視されるのは超恥ずかしい。


「そよ子の足、凄く熱い。熱を持ってますね。足の中が傷ついているのでしょう。

 私が魔法で痛みをとりますから、そよ子うつ伏せに寝てください」


 ビャクシンさんは可哀想にと美しい眉を下げて、うつ伏せに寝転んだ私のふくらはぎに優しく手を置いた。


 恥ずかしい! とにかく恥ずかしい!

 治療だと頭では理解しても、寝具の上で薄い寝間着姿を見られて足とはいえ素肌に手を触れられている!

  若く美しい男性と部屋に2人きりでこんな状況、間違いがおきてしまうんじゃないの!?


 そっと頭を動かしてビャクシンさんを見れば、ビャクシンさんは下心など無いだろう涼しい顔で私の足に真剣に治癒魔法をかけてくれている様子。


 …流石、23年間彼氏が出来ない私…この状態で男性に性欲を起こさせないとは…悲しくなってくる…


「そよ子、どうですか? まだ足は痛みますか?」


 ビャクシンさんが優しく聞いてくれる。私は先程まで熱くて重かった両足のふくらはぎから痛みがなくなっていた。


「有難うございます。ビャクシンさん。もう痛く、なっ!!」


 ビャクシンさんは私の返事を聞かず太腿までネグリジェの裾を上げた。


「そよ子、太腿(ここ)も痛いんじゃないですか?」


 気を遣ってくれたのかお尻が見えない位置でスカートを巻いて置いていてくれてはいるが、素足が腿から足先まで丸見え状態で、ビャクシンさんの男性とは思えない綺麗な白魚の手が太腿の後ろ側にピタッと当てられ、もう! 気絶したい!! 気を失いたい!!


「そよ子、聖女として魔王討伐に向かう時、治癒の役目は司祭なのですがーーー」


 ビャクシンさんは何時もの冷静な声色で語りかけてくれる。

 でも、私はとてもじゃないけれど落ち着いてなんて聞けない。年頃の恋人でもない男性にこんなハレンチな格好を見られるなんて、いっそビャクシンさんに責任をとってもらいたい!


「ーーーこれから先、そよ子が傷つく事がない様に私は貴女を守っていくつもりですがーーそれでも万が一そよ子が怪我をしたなら私を頼ってくださいーー」


 ああ! でもビャクシンさんとは上手くいくはずないわ! こんな美形な男性、モテないはずない!

 きっと美人で高貴な恋人が何人もいるはずだわ!


「ーー私も治癒魔法は使えますしーーそれに貴女の肌に触れて良いのは私だけですからねーーー」


 此処は異世界。魔王を倒したら私は元の世界に帰るのだから、異世界で恋人作ったら遠距離恋愛って離れ過ぎだし! 私は付き合うなら毎日一緒にいたい派だから!


 はあはあはあ…早く…早く終わってぇ…この体勢を終わらせてぇ…

 枕に顔を強く押し付けて心の中で強く祈る。


「ーーーそよ子? 私の話を聞いているのですか?」


 ビャクシンさんは私の上体を持ち上げて私はベットに座らせられた。

 久しぶりに正面に見せられたフェンネルさんの美しいサファイアブルーの瞳に胸のドキドキが止まらない。

 本当に何て綺麗な(ひと)なのかしら? 男性だけれどゴツさが全く無い。でも女性よりは線が強くしっかりとしていて…とっても良い匂いがする…


「そよ子、どうしました? 顔が真っ赤ですが大丈夫ですか?」


 恥ずかしさの境地をみた私は陸に上がった魚の様に口をハクハクと開ける。いき…息…酸素が足りない。


「そよ子」


 ビャクシンさんは私を心配そうに見つめて彼の逞しい胸に私を引き寄せようとした時、バアーーーンッ!! と激しく扉を開ける音と共にクレマチス姫が憤怒の表情で部屋へ入ってきた。

 彼女にこの状況がどう見えたのか分からないが、ビャクシンさんから私の体をベリッと外して私をゆっくりと布団に寝かせると、姫は般若の顔でビャクシンさんを引きずって部屋から出て行った。


 2人の姿が見えなくなり、静かになった部屋の中。やっと大きく呼吸ができ気絶する様に眠りについた。足の痛みは治っていた。






 ▽▽▽



 次の日、私に優しかったクレマチス姫がまた刺々しくなっていた。

 それでも私の身体を気遣ってくれて今日も休日にしてくれた。

 姫様って立場は色々気を揉んで大変なんだろうなぁと思う。










ここまで読んでいただき有難うございます。

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