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黒い奴隷  作者: 渡辺朔矢
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対決スライム

信じられませんが、そよ子は異世界マジョラム国にて聖女として魔王討伐をすることになりました。

 ピチチチチチチチチ……


 明るい朝日が部屋の厚地のカーテンの隙間から差し込み、鳥達の騒がしい鳴き声で目が醒める。

 この世界にも時計は有る。ネジを巻くタイプの古い大きめの置き時計を見れば今は6時48分。

 元の世界とほぼ同じ時刻に起きた。会社勤めの習慣が身に付いているのね。


 フカフカのベッドから毛の長い絨毯へと足を下ろし、窓の方へ向かって歩く。カーテンを勢いよく開ければ、目が開けられないくらい眩しい光が射し込んだ。この部屋はお城の中でも上の階だから窓からは城下町や田畑、遠くには青緑に霞む山まで見渡せる。こうして見える範囲では世界は明るい光に包まれ平和に見えるのに。



 異世界に来て4日目。

 溺れた翌日、お城の大広間で王様に会った時に元の世界にすぐに戻して欲しいと懇願するも


『聖女様には魔王を討伐していただけなければ、元の世界へはお戻し出来ません。

 魔王を倒した後は聖女様を召喚した時間へお返ししますので、向こうの世界では聖女様の時間は進んでいないことになります』


 と、言われた。

 私を召喚した時間軸へ戻してくれるという事で、魔王討伐後に元の世界に帰っても桂さんとの食事は出来るらしいというのは分かった。魔法使いのビャクシンさんが部屋の気温を下げるから、寒過ぎて命の危機を感じた私は逆ギレ気味に勢いで聖女の使命を受け入れてしまった。



 あ〜、良い天気。

 …嫌だなぁ…雨なら戦闘レベルを上げる為に外へ魔物を倒しに行かなくて済むのに。


 気分は乗らないけれど、服を着替える。

 この世界に来て最初の日。私が起きると直ぐにメイドさん達が入室して来て、私の身支度をしてくれたが裸を見られることに抵抗があるので、その後はメイドさんを断った。

 部屋のクローゼットに用意された女性装束はメイドさんに手を貸して貰わないと着れないけれど、私は魔物相手に戦わなければいけないから、動きやすい衣服を着たいと申し出たら騎士が着る衣装をくれた。


 騎士の服はブラウスの上に長袖の赤いチェニックを来てウエストを細いベルトで締め、足元は厚地の黒いスパッツに腿まである黄土色のブーツを紐で止める男性のスタイル。

 これなら私一人でも着替えが出来るので楽なのだが、クレマチス姫やメイドさんには憐れんだ目で見られる。この世界男性女性の区別がハッキリしていて女性が男装するのは不謹慎らしい。


 私にとってはさほど抵抗が無い格好なのだけれど、風習や価値観の違いは理解されなくても仕方がない。

 大体、私の姿を憐れに思うなら女の私に戦わせないで欲しいわ。


 セミロングの髪を無造作に一つに束ねて顔を洗い化粧水とクリームを付ける。

 戦いに行くのでメイクはしない。

 身支度が済んだ私は溜息を洩らしながら朝食の時間までソファーへ身を沈めた。



 ▽▽▽



 今日は戦闘レベル上げの初日。

 城外にある沼地に騎士隊員のフェンネルさんと魔法使いのビャクシンさんに、城の馬車に乗って連れて行かれる。フェンネルさんは初対面の時の印象と同じ軽い感じで


「おっはー。

 聖女ちゃん、元気かい? 今日からレベル上げ頑張ろうな」


 右手をヒラヒラ上げて和かに挨拶してくれた。


「おはようございます。

 お世話をかけると思いますが、ご指導をお願い致します」


 私は早く元の世界へ帰りたいので、出来るだけ早く魔王を倒す為に戦闘能力を上げるのは拒まないつもりだ。習い事は元々好きな質だしコレも女子力アップの1つ、筋トレと思う事にする。


 私が素直にレベル上げに臨む姿勢を見てクレスト隊長、フェンネルさん、タイム司祭やクレマチス姫は喜んで私のレベル上げに協力的だが、魔法使いのビャクシンさんだけは気が乗らない様子。


 今もフェンネルさんの斜め後ろにいるビャクシンさんはソッポを向いて、私を見ようともせず挨拶もしてくれない。城の広間で魔法を見せてくれた時には、私を抱き締めてくれるくらい友好的だったのに。今は眉間に皺を寄せて口を固く結び私から視線を逸らしている。


 う〜ん…私に関わりたくないのなら、私のレベル上げに同行しなくても良いのに…


 私達3人は馬車から降り森の中を進んで陰気な沼地に着いた。ビャクシンさんは私達から離れ木陰に立つ。湿地帯に現れるスライムという魔物を棒で潰してレベルを上げるのが最初は楽だからと、フェンネルさんから教わり地面に落ちていた枯れ木の棒で青緑色のクラゲみたいな生き物をグニッと潰す。


 まあ、これは楽勝ね。

 スライムは見た目がそれ程気持ち悪くないし臭くもない。

 潰す感触も嫌な感じはなくて、強い力もいらない。


 10匹ほど潰すとパッパラ〜と明るい音が私の頭上から鳴り響いた。


「何の音!?」


「聖女ちゃん、早くもレベルが上がったみたいだね」


 フェンネルさんに促され指を鳴らしながら下へ向かって手を振り下ろした。と、ヴォンと小さな唸る音と共に目下の空間が歪んで文字と数字が見える。


 戦闘レベル2。体力10。素早さ12。運88。魔力6。聖女 ∞ 。


「この数字と言葉の意味は今度、タイム司祭が詳しく説明するよ。取り敢えず今知っておいて欲しいのはこの一番端の戦闘レベルかな。ココが今アップしたから音がなったんだ」


 戦闘レベルは2。

 おお、身の危険なく簡単にレベルアップした!


 その後もスライムを30匹ほど潰し、初日にレベル3まで上がる。

 思っていたよりも簡単にレベルが上がり喜ぶ私にフェンネルさん曰く


「流石、聖女様だ。

 運のステータスが半端なく高いからスライムとの遭遇率が高いね。

 1日でこの数のスライムを見つけられるなんて、なかなか出来ないからね」


 つまり、私は相当に運が良いという事?

 う〜ん、やはり聖女だから恵まれた環境を神様から与えられているのかな。


 私が潰したスライムを籠に入れるフェンネルさん。

 この世界の人達にとってはスライムは色々な物の材料になるらしく倒したスライムは売れるらしい。だから、スライム取りを仕事にしている人達がいてこの沼地に取りに来る人達がスライムを沢山見つけたとして1日8匹くらい取れれば大量で、私は今日40匹取れたから凄く運が良い。



 私の戦闘レベルが3になった頃、昼前からこの場所で夢中でスライムを倒していたが、いつのまにか空は赤く染まり美しい夕焼け空になっていた。


 私がスライムを探し潰している間、美形の魔法使いはずっと木下に立ち沼地の周辺を見渡している。

 青々と茂る木の下、長い銀髪を背中に垂らし冷たいくらい整った顔立ちのビャクシンさんに、夕暮れの輝やきがあたる。この世の人間ではない様な美しさに魅せられる。


 広間で別れてから真面に顔を合わせてくれないし、言葉も交わしてくれないけれど、ビャクシンさんの美しさは正義だ。私は日本に帰ってもこの美しい男性(ひと)を思い出せる様にと目に焼き付けた。


 少し離れた所に立つビャクシンさんのあまりの美しさに見惚れていると、フェンネルさんが言った。


「あの魔法使いの結界魔法のお陰で強い魔物に襲われずにすんだね」


「え? 結界魔法?」


「あの魔法使いが何を考えているのか俺には全く分からないが、一応奴も聖女様を守る気持ちは持っているみたいだ」


 フェンネルさんは潰れたスライムを指先で拾い籠に入れる。


「聖女ちゃんのレベル上げの最初は、人里に近い所にいる弱いスライムから倒させていこうと俺は考えていたんだけれど、此処にいるスライムよりもかなり沢山の数のスライムを倒さないといけない」


 フェンネルさんは苦々しい笑顔でビャクシンさんを見て


「それだと聖女ちゃんが疲れてしまう。聖女ちゃんの身は自分の魔法で守るからって、危険なこの沼地まで来たんだよ」


 フェンネルさんの表情を見て気がついた

 フェンネルさんはビャクシンさんが苦手なのか。

 理由を聞いていいのか迷うが、まだそこまで親しくないから今は無理かな。


 それにしてもビャクシンさん。

 私に対して無反応かと思えば、影では私を守ってくれているんだ。


 お城への帰路。

 馬車の中で私達3人無言だったけれど、ビャクシンさんが私に気を配ってくれている事を知ったからか、私は穏やかで暖かい気持ちでいられた。








ここまで読んでいただき有難うございました。

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