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黒い奴隷  作者: 渡辺朔矢
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⑤そよ子

「先程、魔法使い(おまえ)に伝書を送ったというのに、何とも早く到着したのだな」


 伝書? そよ子召喚の魔法陣を描いていて気が付かなかったか、そよ子がこの池に落ちたと分かり瞬間移動したからすれ違ったのか、王からの書は見ていない。


「それにしても…普段汚れ仕事は嫌がるくせに貴方が池に飛び込み自ら助けるなんて…魔法使い(ビャクシン)にとって聖女とはそんなに特別な存在なの?」


 クレマチス姫が訝しげに私に言う。


 …は?…聖女?


「それは当たり前だろう。魔法使いはこれまでの魔王討伐に必ず同行しておるのだから、魔王を倒すため聖女の必要性は誰よりも感じているのだろう。それにしても無事に聖女様を召喚出来て良かった。今宵は遅いから明日にでも聖女様の目が覚め次第、魔王討伐を申し出るとしようか。

 クレマチス、聖女様の世話は第1王女のお前に任せる。後は頼んだぞ」


 マジョラム14世は召喚が終わったと安心して王族と共の者を連れ城の中へ戻って行った。



 私は信じたくなかった…そよ子が聖女としてこの世界へ召喚されたと…


「ビャクシン。いつまで聖女様を抱いているのです。こちらへ聖女様を渡しなさい」


 嫌だ! そよ子は私の伴侶として私と一緒に人生を歩むのだ。

 聖女などに任命され魔王と戦わせるなどと危険な事はさせられない。


「ビャクシン? 聖女様はずぶ濡れで早く着替えさせて上げなければいけないの。だから早く女官へ預けなさい」


 そよ子は私の特別で大切な人だ。他人の手を借りそよ子の世話をさせるつもりは無い。

 そよ子をこの腕に抱いたのだから、もう片時だって離すものか。


「ビャクシン! いい加減にしなさい! 聖女さまを渡して!

 …貴方何なの?…そんなに聖女様に執着するなんて…おかしいわ…………まさか…その女は貴方がずっと追いかけている…」


 クレマチス姫はハッと息を呑み、そよ子が私の宿命の女だと気が付いた。


 フッ! グウウウウウ!

 頭が締め付けられ息が苦しい!


 クレマチス姫が私の隷属の紋へ呪文を唱える。痛みと苦しみで動きを封じられ、城の女官達に無理矢理そよ子を奪われた。


「ビャクシンよく聞きなさい!

 この女性は今世の魔王討伐のために異世界より聖女として召喚されたのです。

 貴方が好き勝手して良い女では有りません!

 今後は私がこの聖女様のお世話をしますから、貴方は魔法使いとして節度をわきまえ彼女に尽くしなさい」


 姫は私にそよ子への接触を制限して女官達に彼女を運ばせて行った。

 私は1人地面に座り息を整えつつ笑いがこみ上げてくる。


 クレマチス姫は分かっていない。私がどれ程にそよ子の召喚を待ち望んでいたのか。

 ククク…聖女として彼女がこの世界に来た事は遺憾だ…だが…この地へそよ子が来たのだ! …この先そよ子の身は全力で私が守る…むしろ私以外が彼女に近づけない様に私はそよ子を監視しよう…そして隙あらば…ククク…そよ子私は君を必ず手に入れる…今世でも彼女は離さない! 絶対にだ!…ククク…



 ▽▽▽



 大広間にそよ子が入ってきた。この国の衣装に着替え化粧をして髪を軽く纏めている。目を開き呼吸して声を出すそよ子。何て可愛らしいのだ! 昨日は溺れてグッタリとしたそよ子しか見れなかったから、動くそよ子を見て本当にビレアが転生したのだとまた私の元へ帰って来てくれたのだと感動した。


「ハアーーー、ビャクシン。

 貴方の番よ。早く聖女様に挨拶を述べて」


 クレマチス姫が苛つきながら私に自己紹介を促す。しかし、落ち着かない様子すら可愛らしいそよ子は見ていて飽きないし、もう少し彼女を観察したい。ああ、でも、もしかしたら私の顔を見てそよ子は前世の記憶が蘇り、私と一緒に暮らす約束を思い出してくれるかもしれない。そよ子が私の事が分かれば直ぐにでも一緒に暮らせるはず。良し! 顔を見せて、そよ子へ向く。お願いだ! 私を思い出してくれ!


「…え〜と…溺れた私を救助してくれた方ですね。

 あの時は助けていただき、ありがとうございました」


 ああ…無理か…そよ子は私の顔をジッと輝いた目で見てはくれたが、前世の恋人とまでは思いが及ばない様子だ。

 ……フン……挫けるものか! ビレアが転生したのだ。私の名前を聞いてもそよ子はピンときていないが、近くで過ごせば其の内に私の事を思い出してくれるだろう。


「あ…あのぉ…ここまできて…大変言いにくいの…ですが…私そろそろ家に帰りたいです…」


 …は?…そよ子何故帰りたがる? やっと私と出会えたというのに…あー…元の世界との繋がりが長い為にこの世界に身が馴染まず不安なのか? 私がいるのですからそよ子が心配する事など何も無いのですが。

 クレマチス姫の目線…そう…そうですか! そよ子に魔法を見せろと! 了解です!


「ここはそよ子が住んで生きていた世界とは別の世界です。

 貴女に異世界だと信じていただく為、私が魔法をお見せしますね」


 ビレア(貴女)が好きだった岬が見渡せる丘へ移動しましょう。

 貴女と私で何度も連れだった場所を見ればそよ子に私が誰か思い出せるかもしれませんし。


「…何?…これ?」


「魔法で瞬間移動をしてみました。

 ここはマジョラム国の恋人岬と呼ばれる場所が見渡せる丘の上です」


 青い空が広がり気持ちの良い風が吹き抜けるビレアのお気に入りの場所。1000年経ってもここから見える景色はあまり変わっていない。私とビレアはこの場所で寛ぎ愛し合いもした思い出の多い所。どうでしょう? そよ子少しは私を思い出して…ん?…そよ子海鳥を見て顔を強張らせている。海鳥が大きくて怖いのでしょうか?


「私、死んであの世にいるの?」


「い、いいえ! そよ子! 貴女は死んでいない! 生きています!」


 あまりな言葉に思わずそよ子を抱きしめる。


 な! 何を唐突に言うのですか! そよ子は此処に生きて私の側にいるじゃないですか!

  今から私と2人この世界で睦まじく交わり生を楽しもうって時に何で死後の世界を考えるのです? ああ…やはり…そよ子も私と離れ城住まいになるのが嫌なのでは? ハッキリと私を意識していなくても魂の隅に私を感じているのかも。そよ子の為にも…そよ子が落ち着いてマジョラムで暮らせる様に…このままそよ子を攫ってしまおうか…グッ…


「……ウ、ウウ…」


 クソッ! なんてタイミング悪く…クレマチス姫…


「どうしたんですか? ビャクシンさん!」


 腕の中でモガモガと頭を動かして私を心配し見上げてくるそよ子。本当に可愛らしい!

 …焦っては駄目だ…今はまだ…


 そよ子に隷属の呪文を姫に唱えられていると説明しながら、手を伸ばせばそよ子に触れる事が出来るのだから彼女を連れ去れる時を待とうと決心し渋々ながら帰城した。

 クレマチス姫はそよ子の姿を見るなり彼女を私の胸から引き抜き自分の後ろへ隠す。

 頭の痛みが和らぎ息を整える。


 私は初手で失敗した。

 昨日池からそよ子を救助した時にクレマチス姫の言葉を拒み、姫にそよ子が私が追い求める魂の女性だと気が付かれてしまった。クレマチス姫が何故私の過去に詳しいのかは分からないが、私がそよ子を欲し攫う事を姫に警戒させる状況になってしまっている。

 今、そよ子が姫の前から姿を消せば先ず私の仕業と疑われる。

 姫はそよ子を聖女として魔王討伐を彼女に達成させなければいけない立場だ。そよ子が魔王を倒すまで私がそよ子を1人じめしない様に見張り、私とそよ子の接触は極力減らされるだろう。任務遂行中にそよ子を手に入れるのは無理だ。


 しかし…魔王を倒した後なら…聖女としての任務を果たした後ならそよ子を自由にしても良いはず。

 …魔王を倒す…過去に2回魔王と戦ったが…魔物の王を殺せなかった…だが今回は早く奴と決着をつけて私はそよ子を


「私、急いで元の世界に戻らないといけません! 男性と食事の約束をしていて、その男性と私はもしかしたら結婚するかもしれないんです!

 私の人生においてとっても重大なイベントがあるんです!」


 そよ子が突然大声で主張した。


 そよ子が…私以外の男と…結婚!?

 一瞬、意識が飛びクレマチス姫の嗜める声で自分が冷気を放っている事に気が付いたが、暗く醜い感情が胸の底から沸き上がってくる。私という者が有りながら他所の男から求愛されるなど…しかもそよ子が乗り気になる男だとは…

 黒くて汚い嫉妬の塊は寒気と変わり広間の中を凍りつかせた。














ここまで読んでいただき有難うございました。

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