第二章 定番品を増やしたい~切石豆腐店 1
翌週。
一回目の、会議参加の日が来た。
座光寺支店長の他、支店内の管理職と営業社員が一堂に会する会議だ。
営業社員同士での売上の動向報告や、商談強化をする得意先についての話が終わる頃、私と鬼無里さんは会議室に入った。
「では、事務の方からの意見を頼む」
いきなり座光寺支店長に話を振られても、鬼無里さんはすらすらと、営業社員への要望を伝えていく。
商品コードの不備。商品改廃のデータ処理の遅れ。何より日々発生する、イレギュラーな発注。これらのダメージを全て事務が補っている現状を。
「以上の点について、改善を切望致します。小花ちゃんは何かある?」
無理しなくていいのよ、と鬼無里さんが目で合図してくれた。
けれどそこへ、デイリー食品課の課長が口を挟んできた。
「この会議に参加してもらったのは、事務からのクレームを聞くためじゃない。君たちからも営業のヒントがもらえればというのが大きいんだ。事務というよりは、営業以外という立場から、何かないかね」
「え、営業のヒントですか?」
「普段スーパーで買い物するわけだろう? その時、何か思いつくことはないのか? 不満とか、要望とか。何も感じないのか?」
課長が意地悪そうに笑っていた。
さっき、鬼無里さんに一方的に言われたのが面白くないんだな、とぴんときた。
そして、ふと、この間お姉ちゃんと話した時の話題が頭に浮かんだ。
「お豆腐……なんですけど」
私のつぶやきに、蟻ヶ崎さんが耳を差し出すポーズをした。
「ん、お豆腐?」
「私、メガカシワさんで時々お買い物するんですけど。並んでいる商品が、工場製品というか、ナショナルブランドばかりなんですよね。事務で持っている食品メーカーブックに載っている会社の商品しか見かけないと思っていまして」
「豆腐といえばそういう時代だ」とデイリー課長。
「私は埼玉の高校に通っていたんですけど、そこで見たスーパーだと、地域の豆腐店のお豆腐を置いていることが多かったんです。製造は工場なのかもしれませんけど、地域密着の個人商店のようなメーカーさんが下段に尺を持っていて。そういうのは、この辺りではないんでしょうか」
座光寺支店長が、こくこくとうなずいた。
「県民性というよりは、特にこの地域でそうした習慣が乏しかったのだろうな。新興住宅地が多いせいかもしれない。それが当たり前だと思ってしまっていたが、地元のメーカーの豆腐を下段展開する店舗は、全国的には珍しくないからな。飯田、確かメガカシワの豆腐の棚にはうちからの商品はあまり入ってなかったな?」
「は、はい」と飯田君が答える。
「磁場の豆腐店か。切り込むチャンスかもしれない。いいヒントだ、輪道。うちの事務はやるものだな、鬼無里」
鬼無里さんの方を見る。褒められたようだけど、誇らしげな顔をしてくれているかな……と思ったら、鬼無里さんは私を見て目をうるませていた。
「き、鬼無里さん?」
「ナショナルブランド……下段、尺……。小花ちゃん、いつの間にかそんな用語を使いこなして」
「い、いえ、しょっちゅう事務所でそうした単語は聞こえてきますし」
座光寺支店長が苦笑しながら、私に言う。
「輪道。お前はずっとこの辺が地元だな? 心当たりの豆腐店はあるか?」
「お豆腐屋さんなら、幼馴染がやっていますけども」
「うまいか?」
「おいしいと思います」
支店長がぱんと両手のひらを柏手のように打つ。
「よし。まずは、そこへ話をしてみよう。商品のクオリティの確認も合わせてな」