第四章 ケーキを運べ!~パティスリー ララメル 17
にんじんは太めの千切り、玉ねぎを薄切りにして、フライパンで軽く炒める。野菜は必要というわけではないようだったけど、あった方がお姉ちゃんも私も嬉しい。何より、香味野菜の類はお姉ちゃんが大変喜んでくれる。
名古屋のカレーうどんの特徴は、鶏がらスープと魚介だし、そして本格スパイスにあると聞いていた。味を想像しただけで、お腹が鳴りそうになる。
お湯を沸かしておいた鍋に、レトルトの袋を入れた。また別の鍋で、冷蔵庫から出したうどんを茹でる。
その間に名古屋の駅ビルで買ってきたひつまぶしの素をテーブルに出し、帰りにニューマツドールで調達したうなぎのかば焼きをレンジに入れた。
お姉ちゃんが食器を出し、犬若は既にお座りのポーズで待っている。
私はご飯をどんぶり(と平皿一枚)によそい、そこに温まったうなぎを乗せた。
「お姉ちゃん!」
「は、はいっ!」
「混ぜて!」
「がってん!」
お姉ちゃんはひつまぶしの素を上からかけ、普段あまり使い道のない小さいしゃもじでざくざくと切り混ぜていく。確かひつまぶしも最初はうな重のように混ぜずに食べるものだと聞いた気がするけど、残念ながらそんなに大きいうなぎではないので、この際一段飛びにさせていただく。
私はだしを張った三つの鉢に小分けしたうどんを入れると、その上からレトルトカレーの袋をあけ、三等分して注いだ。そこへにんじんと玉ねぎを乗せて、軽く混ぜる。
お姉ちゃんが、鉢のひとつをとって、中のうどんを箸で適当に切る。先日のとろろうどんよりもおつゆが飛びやすいので、犬若が食べやすいようにだ。
こうして、夕飯ができあがった。
カトラリーを手早く配置して、私とお姉ちゃんが、はす向かいになってテーブルにつく。
二人揃って、「いただきます」と手を合わせた。
そして、早速箸をつけていく。
「小花、カレーうどん凄くいい匂いがする! 飲み込むと鼻に抜けてくる! それに野菜があると、小さくても食べ応えが出るね!」
犬若も舌を伸ばして、器用にうどんを食べていた。
「鳥が土台を支える旨味に、舌の上で青魚が跳ねるような鮮やかな味わいの取り合わせは出色だな。このひつまぶしというのもうまい。確か、食い進めると食い方を変えるのだったか」
早々に食べ進めていく犬若に、私は慌てて煎茶を出した。平皿なのでこぼれないよう慎重に、急須から注いでいく。
「お茶の清々しい香りが、ここまで立ち上って来る……! うなぎの脂の力強さはそのままに、爽やかさが加わるなんて」
「米粒が茶で柔らかくなった感触は実に官能的だな。しかもひと噛みごとにうなぎと茶の香りが膨らんでいく。叡智溢れる食い物があったものだ」
いつの間にか自分もお茶漬けまで進んでいたお姉ちゃんも、しきりにうなずいた。
「くうっ……! まるで、奥歯という杵で、お茶とうなぎを包んだお餅をついているみたい……! 土曜丑とお正月が私の中で同時開催してる……それに、喉越しも心地よくて、最後まで最高……!」
賑やかな食卓は終始このテンションで進み、ご馳走様が近づいてきた。




