第四章 ケーキを運べ!~パティスリー ララメル 16
「慣れん仕事で疲労したなら、意地を張らんで、素直におれに乗ればよかろうに」
帰途の途中で合流した犬若が、鼻を鳴らす。
「いえいえまあまあ、そこまでお世話になるわけにはね」
引き戸をがらがらと開けると、離れの方から廊下を駆けてくる足音が聞こえる。
「お帰り、小花」
「うん、ただいま、お姉ちゃん」
「疲れてるだろうから、出前か外食でもいいのに。奢っちゃうよ」
「いいの。今日は、ぜひともおうちご飯にさせていただきます」
名古屋駅で新幹線に乗ってから、私はお姉ちゃんに、お米だけ焚いて準備しておくように頼んでおいた。
私が部屋着に着替えてから、私たちは台所に移り、食事の支度を始めた。
「お姉ちゃん……今日は私は、名古屋を通って来たのですよ」
「みたいだね」
「お姉ちゃん、みそかつとか手羽先とかはそんなに好きでもないじゃん?」
「うんまあ、好物ではないかな。味付けが濃くても、私よく分からないし」
「そこで! 今日の晩ご飯はお持ち帰りお手軽名古屋飯! 混ぜるだけひつまぶしに、レトルトを二人で分けるスパイシーミニカレーうどんです!」
「なっ……!?」
「む。うなぎは味だけでなくその匂いだけでも馳走と言えるし、小花はいい煎茶も買っていたな。それにカレーうどんとやらは、最も香りがよく立つものを店員に聞いて買っていた」
お姉ちゃんがぶんぶんと首を横に振って、私と犬若を交互に見る。
「小花ッ……! その……名古屋では、お店で食べなかったの? それこそ、ひつまぶしやカレーうどんて、小花好きそうじゃない?」
「私はね――」
照れくさいのだけど、はっきり言葉にしておいた方がいいと思い、私はお姉ちゃんと犬若に向かって言い放った。
「私は、この家で、好きなものを、三人で食べるのが一番おいしいの」
お姉ちゃんが、口を両手で覆った。
「小花……ッ!」
「それに、カレーは大量に作った方がおいしいって言うじゃない? メーカーさんではそれこそ大量に作って小分けにしてるわけだから、このカレーうどんは大変おいしい道理!」
「確かに道理ッ!」
「ひつまぶしも、私みたいな年に一二度しかうなぎなんて食べない人間が作るより、プロの作った商品を買った方がおいしいはずというのもまた真理!」
「全く真理ッ!」
「というわけで、今日はそんなメニューなのです」
「最高……!」
「お前ら、本当に楽しそうでいいな」
犬若が半目になっているのを横目で見つつ、私はカレーうどんの支度を始めた。




