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第四章 ケーキを運べ!~パティスリー ララメル 10

 その後は事務所を出て、私は名古屋市内にあるホテルへ向かった。

 無事に自分の部屋にたどり着き、着替えもせずにベッドに仰向けになる。

「……そういえば犬若って、出先だとどうやって連絡とればいいんだろう。携帯とか持ってないだろうし」

「いらんそんなもの」

「うわあ!?」

 いつの間にか、ベッドの真横に、巨大な白い犬が座っている。

「ずっと私の傍にいたの!?」

「いや。おまえやさちがおれの名前を呼べば、今では相当に離れていてもおれの耳には聞こえるのでな。駆けつけてやった」

「できればもう少しデリカシーのある現れ方をしてほしいけど……。犬若は何か、食べたいものある? おいしいお店、調べてきたよ」

「今日は、外食はやめておいた方がよさそうだぞ。空の機嫌がどうもな」

 犬若に促されて、窓のカーテンを開けた。まだ空は少し明るい。

 するとみるみるうちに、夕立のように激しい雨が降り出した。

「うわ、結構凄いかも。仕方ないね、ホテルのレストランに行こうか」

 私は犬若とホテルの一階にある中華レストランに入り、麻婆ナスと炒飯を注文した。

 こっそりと犬若に分け与えるとかなり口に合ったらしく、この犬妖は満足そうにへっへっと笑った。犬若はお腹を満たす必要がないので、少量食べるだけで満足してくれるのはありがたい。

 食べ終えて部屋に戻ると、私のスマートフォンが鳴った。

 桐林くんからだ。

「もしもし。どうしたの?」

「すまない。明日は、もしかしたら予定が変わるかもしれない」

「私は大丈夫だけど。何かあったの?」

「雨だけでなく、風もひどくてな。高速が止まって、配送に影響が出てるらしい。特に豊川の辺りだ。明日特売の荷物、トラック数台分が困ったことになりそうで、白山さんは食事の途中で、出荷の方のフォローに行った。僕も何か手伝えないかと、今ララメルに戻ってる」

 私は窓の外を見た。

「気づかなかった……。何これ、台風みたい」

 ごうごうと風が鳴り、雨が横殴りに近くなっている。ものが飛んでいるほどではないけれど、風の音だけでも充分怖い。

「もしもし、桐林くん。手伝いって言っても……」

「部外者ができる範囲でだよ。いらないと言われれば引き上げる。配送にダメージがあれば白山さんも明日は忙しいだろうし、僕たちもお(いとま)した方がいいだろう。」

「ララメルに、そんなに思い入れがあるんだ……」

 胸の中でこっそりと、「うちへの荷物でもないのに、営業がそこまで」とは、ちょっと思ってしまう。

「それもあるが、実は、僕の実家はスーパーなんだ。大チェーンなんかじゃない、田舎の個人経営だけどな。スーパーで、一番辛いことって何だと思う?」

 あ。

 もしかして――そういうことか、と思う。

「注文した商品が、届かないこと?」

「当たり。こういう天候だったり、配送途中の事故だったり、理由は色々だ。たとえ店のせいではなくても、買い物に来たお客さんが欲しいものが買えないっていうのは、スーパーの仕事を生きがいにしている人間にとっては骨身にこたえるんだ。僕の両親は、僕が小さい頃からずっとそうだった。きっと今でも。だから息子の僕も、スーパーに欠品をさせないようベストを尽くす。ことが特売となれば尚更だ。たとえ、ヨシツネと関係のない荷物でもな」

「うっ……。それは、ちょっと思った」

「めどがついたらまた連絡する。遅くなるかもしれないから、先に寝ててくれ。明日は予定通りの時間にホテルのロビーにいなかったら、寝坊だろうから電話して欲しい」

 最後の方は少し冗談めかしていたけれど、言葉の端々から、桐林くんの意志が伝わってくる。

「うん。気をつけてね」

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