第四章 ケーキを運べ!~パティスリー ララメル 6
私の初めての出張は、翌週の木曜日に決まった。朝に出発し、午後に先方で商談。一泊して翌日の金曜日は主に工場見学をして、昼過ぎには愛知を出て、帰社する。
当日の朝九時、総務の鼎課長を始め、みんなに挨拶をして、私と桐林くんは会社を出て駅へ向かった。
「午後、天気が崩れると予報があった。あまり荒れないといいんだけどな」
柏駅から上野、それから新幹線で名古屋へ出る。
新幹線の中では、桐林くんがタブレットと紙の資料を見比べ、営業用のノートに色々メモをしていた。
「桐林くん、この機会に、ちょっと聞いてみてもいい?」
「どうした? 悩み事か? 家族のこととか?」
桐林くんがノートを閉じて、心配そうな表情になった。私は慌てて、両手を胸の前で小さく振る。
「ううん、デイリーのこと」
家族の方は、私の愛地行きの話をしたら、お姉ちゃんが「出張! ……小花がキャリアウーマンになっていく!」と騒いだくらいで、特に問題はない。
「今更かもなんだけど……このララメルの商品カタログ、賞味期限にD+2とかD+3とか書いてるじゃない? これって、賞味期限が二日ってこと?」
「そう。Dっていうのは工場出荷日のことなんだ。この間言ったように、多くのデイリー商品は工場を出て翌日に店舗に着く。D+3とあった場合、六月一日に工場を出荷したら、六月二日に店舗に着いて、その日を含めて三日間だから六月四日が賞味期限ということだよ」
「そう考えると、短いね」
「ヨーグルトなんかはD+14程度。納豆や牛乳、チルドの漬物のような生鮮食品でもD+7くらいが多い。牛乳は近年、メーカーによっては、D+14以上の商品も多く作られているけどな。袋詰めのこんにゃくみたいに長持ちするものだとD+30とか60なんかもざらにあるけど」
「じゃあやっぱり、ケーキってかなり短いんだ。D+3って」
「店舗によっては、賞味期限の二日前に値引きシールを貼って売るところもある。そうすると、D+3のケーキを定価で売れるのは実質一日程度ってことになる。チルドケーキの発注ロットの最低個数は大体六個から八個ってところだから、全て当日に売り切れるってわけにはいかないだろうな。それなりに利益率を確保しておかないと、どんどん値引き、悪くすれば廃棄になって、赤字だ」
「三個しか売れないだろうから、三個だけくださいってわけにはいかないんだね……」
「発注単位が一個からってメーカーが、ないわけじゃないんだけどな。ただ日配の定番品として扱うには、作る方も運ぶ方も負担がかなり大きくなる。店としてロスを防ぎたいっていうのは分かるんだけど、ここは作る方と運ぶ方の都合を考慮してくれってことになるな」
すらすらと答えてくる桐林くんは、やけに大人びて見えた。
同期入社してから今日まで、一年と少し。彼なりに色々な経験を積んできたんだな、と思う。




