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第四章 ケーキを運べ!~パティスリー ララメル 5

 翌日、まだ修羅場を迎えていない午前十時。

 営業に出かける前の桐林くんが、私のデスクの横に立った。くいと眼鏡を持ち上げ、レンズの端をきらりと光らせて、言う。

「輪道。僕と一緒に愛知に行かないか」

「あ、愛知? 私と?」

 鬼無里さんが向かいのデスクから、微苦笑した。

「昨日の会議ででたケーキのメーカーね、ララメル。一度工場の視察に行った方がいいって話になったのよ。桐林くんも、デイリー課長か蟻ヶ崎から伝えるべきでしょう」

「失礼しました。気が早ってしまって」

「でも、どうして私なんです?」

「支店長の方針でね、受発注の担当も製造の現場を見ておくべきだってことみたいよ。というより、忙しくルーチンワークに追われる日々の中に変化をつけて、たまには会社の外に出してあげたいと思ってるみたいだけど。私たちも何度か行かせてもらったことがあるし。今回は小花ちゃんが出張ってことね」

 デイリーの事務職員は私を入れて四人いる。他の先輩二人も、それぞれのデスクから私を見てこくりとうなずいた。

「出張……って私、何をどうすれば……」

「気楽に構えていていいわよ。レポートやプレゼンがあるわけじゃなし。ただ見るだけでも結構刺激になるから。やっぱり、業務の向こう側にいる生きた人間を見ると仕事の張りも違うしね。スーパーで消費者を見ることはできるけど、メーカーさんの内部を見られるチャンスはそう頻繁にはないもの」

 桐林くんもそこへ続けてくる。

「僕の方は色々打ち合わせや交渉もあるけど、輪道は単純に見学だと思っていていいよ。デイリーの商品はたいてい前日発注の当日着だ。たとえば六月一日にEOSで発注した商品は六月二日に店舗に着く。だからメーカーはそれに間に合わせるためにある程度見込みで生産ラインを回している。しかしこうした生菓子などは二日前発注が多い。そうしなくては、手作りで賞味期限がせいぜい二三日のケーキなんて作り切れないからだ。その現場を見られるのは、貴重な機会だと思う」

「それは確かに、行ってみたい……けど」

「小花ちゃんが抜けた穴は痛いけど、一泊二日程度だって聞いてるから、それくらいなら何とかするわよ」

「僕個人としても、同じデイリーのチームとして、輪道には一緒に来て欲しい。営業と事務って、お互いに大事な車の両輪のはずなのに、時々妙に壁を感じることってあるだろう? 少しでも仕事の情報を共有して、ひとつのチームとしてのまとまりを強めたいんだよ」

「わ、分かった。私でよければ」

 鬼無里さんがにっこりと笑う。

「小花ちゃんには、課長クラスから正式に指示があると思うわ。ま、それまで名古屋グルメの情報でも調べておいてね」

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