第三章 風を裂いた日、光明の夜 4
翌朝の月曜日。
私とお姉ちゃんは、毎朝そうしているように、一緒に小学校の校門をくぐった。
いつもと違うのは、すぐ後ろに犬若がいることだ。
私は小声で犬若に話しかけた。
「本当に、他の人には見えないんだね」
「相性のいい奴には見えることもあるがな。お前たちがそうだったように。ただ、今は意識して姿を消しているからそうそう見つかりはすまいよ。で、さち。どいつだ、物の道理も分からん腐れ悪童は」
「く、腐れ悪童かどうかは分からないけど。でも、……あ、いた、あの子とあの子と、あとあの子」
お姉ちゃんがすいすいと三人ほどの男子を指差した。三人とも昇降口の前で輪になり、立ち止まって話している。
「よし」
犬若は三人に向かって行った。
あ、もしかして、と私が思うが早いか、口を大きく開いた犬妖は、三人のうち一人の頭に思い切り噛みついた。
そしてその頭から、見覚えのある紫色の軟体動物が、何匹もにゅるにゅると出てくる。以前見たものよりも二回りほど大きかったけど、虫妖だ。
同じように他の二人の頭にも、犬若がかぶりつく。
すっかり虫妖が出切ってしまうと、犬若は揚々と私たちの方へ戻ってきた。
「こんなことだろうと思ったのだ。これで大分ましになるだろう」
「どういうこと? あの虫妖が取り憑いて、お姉ちゃんに意地悪させてたの?」
「一因ではあるが、元はあいつら自身の人格だ。虫妖に憑かれると性格が曲がったり凶暴になったりはするが、今回の連中は自分から妖物を呼び寄せた輩だな。おい、さち」
「う、うんっ?」
「今日はおれが気配を消したまま、近くから見ていてやる。これで多少なりとも改まらんようなら、もう少し荒療治に出ざるを得んからな」
「ありがとう……」
予鈴が鳴った。
「さて、後は仕上げをごろうじろだ」




