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第三章 風を裂いた日、光明の夜 3

 それから、毎週のように私とお姉ちゃんは裏山に通った。

 どちらかが一人で行くこともあった。私が一人の時は家にあったお菓子やパンを持って行ったけど、お姉ちゃんは毎回何かしらの自作の食べ物を持参していた。

 そして、お姉ちゃんが小学校卒業を控えた二月。

 日曜日に、私たち二人と一頭は、また裏山で会っていた。

「ようやく冬も抜けそうだな」

 私とお姉ちゃんは、コートにマフラー姿で、地面に伏せた犬若の背中に乗っていた。妖怪なのに、生きている犬のように温かい。床暖房みたい、とこっそり思った。

「うん、そうだね」

「む。さち。元気がなさそうだな」

 犬若は、お姉ちゃんの口調から、おおよその気分まで読み取れてしまう。

「小学校で、ちょっとね」

「お姉ちゃん、男子に嫌がらせされてるんだよ」

「ちょっと小花!」

 最近、二三人の同級生から、お姉ちゃんがちょっかいを出されているのは知っていた。

「お姉ちゃん、私たちには明るいけど、学校で凄く大人しいんでしょ。休み時間に読んでた本を男子に取り上げられたりしてるって聞いた」

「ああ、もう、どこからあ……。こういうの、家族に知られるのすっごい恥ずかしい。他には聞いてないよね?」

「他って?」

「いい、いい、知らないなら」

 お姉ちゃんは、家族や犬若とはよくしゃべるけど、学校ではあまり積極的におしゃべりしたりする方ではないらしい。

 孤立しているわけではないけれど、特に用事がなければ自分から快活な振る舞いをすることもない。そのため、それを面白がった男子にからかわれたりしているのだ。

「そんなに大げさなものじゃないんだけどね。でも、毎日繰り返してるとどんどん男子の皆が苦手になっていくし、……」

 もっと小さい頃は、近所の男のこと家でゲームをしたりすることもあったのだけど。今では様子が変わってしまった。

「中学でも同じことになるんなら、結構嫌かな」

 そう言ってうつむくお姉ちゃんの横顔を見て、どきりとした。なんだか、ひどく遠い、手の届かないところにいるかのように思えた。胸がすっと冷える感覚が、春めきかけた空気よりもずっと寒く染みてくる。

「そいつらの居場所は分かるのか」

「居場所って言っても……。明日になれば学校に来るだろうけど」

「お前らの学校というのは、確かこの近くの大路を北へ向かったところだったな」

「そう、だけど。え、犬若、なにする気?」

 お姉ちゃんが、上から犬若の顔を覗き込んで訊く。

「ふ。この件、おれに任せに任せるがいい」

 犬若の口元が、にやりと曲がった。

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