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第二章 定番品を増やしたい~切石豆腐店 8

 夕食を終えて、お姉ちゃんが洗い物をしてくれている間に、私は犬若に呼ばれて居間に行った。

「小花。あの小僧もそうだが、ここのところ虫妖が町に増えた。用心しろ」

「増えた? でも、用心ってどうやって」

「虫妖は小僧のように、苦悩を抱えて憔悴した者によく宿る。しかし、中には自ら妖物を招き、身に宿す奴もいる。不可解な理由で犯罪に走るような輩に、特に多い。だから物騒だと言ったんだ」

 私はごくりと喉を鳴らした。そうだ、今回も犬若がいなければ、どうなっていたか分からない。

「虫妖くらいならともかく、それが呼び水となってもっとたちの悪い妖物が現れることもある。さちにも言ってあるが、妙なことがあったらすぐにおれを呼べ」

「分かった。でも、なんでそんなことになったんだろう……」

「時代の狭間というものがある。これまでにもそうした時期があったからな、理由なんぞあってないようなものだ。それと、もうひとつ。これは小花、お前にだけ言うぞ」

「お姉ちゃんには内緒ってこと? なに?」

 犬若はひとつ息をついて、言った。

「さちの舌を、治せるかもしれん」

「本当!?」

 大きな声を出してしまい、慌てて口を両手で押さえる。

 台所からは水が流れる音が続いていた。

「で、でも、どうやって? その前に、原因が分かったの?」

「いいか、小花。気を落ち着けて、よく聞けよ――」


「……うそ」

「落ち着けと言ったぞ、小花」

「でも」

 足が震えた。

 力が抜ける。

「でも、それじゃ」

「小花」

「お姉ちゃんの味覚障害は、私のせいってこと……?」

 子供の時の記憶が頭を巡る。

 確かに――確かに、そう言われれば思い当るところはある。でも。

「違うぞ、小花」

 目の前にいる犬若が、気がつけば視界から消えていた。代わりに、黒く細い筋が帯状に走っているのが見える。

 これはなんだろう、と考えて、畳のへりだと気づいた。いつの間にか私は、両手を床について座り込んでいた。

「だ、だって……」

「話はこれからだ、小花。お前たちは……」

「待ってよ。だって、私がいなければ、お姉ちゃんの舌はまともだったってことじゃない」

 私は顔を上げて、犬若に言った。思いがけず強い口調になった。

「え?」

と居間のドアの方から声がした。

 私と犬若はそっちを振り向いた。

 いつの間にか、台所の水音が止まっている。話に夢中で気づかなかった。

 お姉ちゃんが、そこに立っていた。きょとんとした、でも無邪気な表情を浮かべている。

「なに? 私の話してた?」

「し、してないよ! ね、犬若」

「おう。明日の夕餉(ゆうげ)の相談をしていただけだ」

 お姉ちゃんは呆れて笑い、

「なんで食べ終わったばかりで次のご飯の話してるの、もう」

と言って離れに戻って行った。

 私はひらひらと手を振ってそれを見送った後、ぶんっと犬若の方に首を巡らせる。

「犬若。落ち着いたから、詳しく話を聞かせて」

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